ヨソク
「ふざけるな!退けユウト!」
「あれは魔王では…。我が軍も力になろう。」
「あの者からは、深い闇を感じた。ユウトよ、今すぐあやつから離れよ。」
メルとの戦いで傷付き倒れた戦士や
ランドの住人達。
そして各国の権力者達を、必死でなだめ、
その場を収めようとするユウト。
「メルは確かに間違いを犯しました。」
「ですが…。僕達のリーダーであるノボルも、同じく取り返しの付かない過ちをしたのも確かです。」
「許せとは…。僕も言えません。」
「僕達も大切な仲間をメルに殺された。」
「だけど…。メル自身もそれを望んでいた訳じゃない。」
「もう少し…。後、もう少しお時間をいただけますか?」
必死で、マレビトの戦士達や
権力者達、そして…。ランドの住人達に
頭を下げ懇願する。
本来ならば当然に納得できる
内容ではない。
しかしユウトのスキル『話術』
がその奇跡を呼び寄せた。
「ユウトがそう言うのなら…。」
話しがまとまりかける。
すると一人だけ府に落ちない
表情を浮かべ、ユウトに詰め寄る。
その人物は、奇跡の聖樹を信仰する精霊族の国『ボールデン』を収める女王『カフレア・ターメル・クレセント』であった。
精霊族特有の蒼い瞳とは違う。
純白に輝く瞳。
選ばれし血統を持つ者だけが
その瞳を受け継ぐ。
そして、少し特殊な国である。
全ての事柄を精霊樹の御告げで決める。
血統を重んじる風潮があった。
他種族と交わる事に凄まじい
不信と嫌悪を抱く。
純白の瞳を持つ者は『流れを見る力』と
『自然との対話』という
異質な力を持ち代々その国の女王が
受け継いできた。
要は『古代精霊族【エンシェントエルフ】』しか住めない。
純粋な精霊族しか認めない国である。
カフレア女王がユウトに条件を付けた。
「ユウト、あの者が一線を越えた時、妾が動くがそれでも良いか?」
思わず唾を飲み込むユウト。
人類史上最強と言われているのがグランだが…。
ユウトの中ではカフレア女王が
最強だと秘かに思っていた。
かつてノボルは領地を求めカフレアは戦った事がある。
その時ノボルはカフレアに大敗をしたと聞いていた。
化物よりも強い本物の化物なのだ。
「わ…かりました。その時は
僕もカフレア様と共にメルを止めます。」
冷や汗が止まらないユウトであった。
◆◆
背後ではカフエリとカラ達が
楽しげに話していた。
エルフは少し特殊な種族故に孤独を感じて
いたのだろう。
久しぶりの同胞と話せて、声が軽くなる。
メルはそれだけでもカラ達を救う事が
正しかったと心底思う。
実はカラ達を自らの血を使い
眷属として救ったのには理由があった。
それは精霊族が信仰する聖樹
『アルブル・レパラトゥール』
そこから取れる再生の樹液が目的であった。
その樹液があればアユムやクレアの手足を治せるかもしれない
メルはそう考えていた。
そしてもう一つその樹液には
特殊な力がある。
それは【記憶の再生と修復】ができるとされていた。
どうも、脳の機能を活性化させる事で呪いやスキルによって、消えた記憶だとしても治せるらしい。
「予測が違えば良いが…。」
ボソッと口から言葉が溢れる。
暝砡の血を飲み、眷属となった
ロウガとカラ達はメルの思考が読み取れた。
メルの悲劇的な予測が
当たらねば良いと切実に思う。
だが…。メルの予測はやはり
当たってしまっていた。
無機質な魂の揺らぎを強く感じその部屋に
入る。
そこには椅子に座るミサキの姿があった。
メルが話しかけるが反応がない。
カフエリが机の上に置かれている数枚の
羊皮紙を見つけた。
それを読むとカフエリは視線を反らす。
メルがその羊皮紙をカフエリから受け取ると中身を読んだ。
それはミサキに対して行われた人体実験の
詳細なデーターであった。
ミサキは、囚われる時、自らの痛覚を忘却した。
ノボルの激しい拷問に耐える為に…。
怒りに震えるメルと、強くしがみつくカフエリ。
何とかメルは心を落ち着かせる。
「ミサキ…は、脳を削られている。」
「もう何も感じていないだろう。」
その悲痛な気持ちがミレイの心にまで伝わる。
子供の様に泣き叫ぶミレイ。
ミレイは、ミサキを姉の様に慕っていた。
「私が…、弱かったから…。」
歯を食いしばり口唇から血が流れる。
メルは服で隠されている
無数の傷を癒しの炎で治癒させると
優しく背負う。
「よく…頑張ったな.帰ろう…。ミサキ。」
陽炎の町へ繋がるゲートを『トレース』により作り出し開く。
そのゲートを歩く、メルの心情は恐らく暝砡の繋がりをもってしてもわからない。
悲しみと憎悪を越えた無の感情。
その微妙な機微を感じ取れたのはカフエリだけである。
カフエリはメルの手を強く握る。
「…。ありがとう」
詰まる喉から出てきたメルの言葉。
どの様な意味なのだろうか。




