ユラギ
「次は、死を与えよう…。暝砡。」
ミカリを抱えたノボルは、そうメルへと
告げ、どこかへ消える。
メルは、心臓が冷たく凍り付く死の恐怖を、肌で感じているのに、気分が高揚し口角が
あがっていた。
この時メルは、自分の中で、深く暗い闇が
生まれたのを感じとる。
そう、身を削る、命のやり取りに快感を
覚えてしまった。
そんな事を考えていると
マレビトの戦士達がメルを取り囲む。
「暝砡!よくも…、よくも。ミカリさんを!!」
『絶対零度【シモバシラ】』
地面から冷気を帯びた無数の氷塊がメルを襲う。
しかし激しく燃え盛る闇の炎を身に纏うメル。
一瞬で氷塊が溶け蒸発してしまう。
メルは、軽く指先に戦気を集め氷の力を操る戦士へと放つ。
バスッ!
戦士の胸に大きな風穴が開きその場に倒れて絶命する。
「…すまない。手加減をしたつもりだったのだが…。」
全く悪気の無いメルの一言が
マレビトの戦士達の逆鱗に触れてしまう。
「だめだ!みんな一斉にかかれ!!」
各々の持つ最大の力をメル相手に放つ。
『灼熱の怒り』
『雷雨』
『爆裂岩石【ロックストライク】』
その力は、決して侮れない破壊力を持っている。
凄まじい地響きと耳を塞ぐ程の爆音が
メルを中心に鳴り響く。
しかし、彼らの攻撃をまともに直撃した筈のメル。
全くの無傷であった。
メルは、舞い上がる砂煙を軽く手で払う。
その風圧で吹き飛ぶ、マレビトの戦士達。
そのまま建物の壁に強く叩き付けられ気を失う。
周りに飛ぶ蝿を払う、程度の力しか出していないメル。
戦士達に一言「つまらん…。」
と深くため息をして、弱々しく揺らぐ魂へと歩みを進める。
ユウトとミレイはメルから次々と生まれる闇の魔物を倒すので精一杯だった。
それ故にメルの元へ行き、止める事が出来ない。
「カフエリ。メルさんを止めてくれ!」
ユウトが操るメル人形達から必死の想いを
託されるカフエリ。
カフエリの動きと心が完全に同調する
メル人形。
闇に染まるメルへと走って行く。
メル人形を操る、疾風の様な動きが、
カフエリの姿に映る。
ユウトとミレイは自ら操るメル人形達から
送られ、映し出される地獄を笑う。
「ミレイさん…。メルさんの犠牲者を増やさない様にしますよ!」
「ふっ…。誰に言っている、ユウト。当然だろう。」
友が望まぬ悲劇。
闇の魔物達の餌食にならぬ様。
必死でメル人形を操り
ランドの住人達と各国の者達を守るミレイとユウトであった。
◆◆
クチュと音がする度に喘ぐ声と
本能の様な生臭い香りする、欲望と支配の部屋。
「いぃ~。いぃ~…。そうだよ。そう。」
汗が額から滲み、交わる事で悦に浸る醜い
マレビト。
一人の耳の尖った美しい女性が
マレビトのものを咥え、吸い付く。
その者の瞳には精気が感じられない。
いやその者だけでは無い。
その場にいる幾人の美しいエルフ達の瞳にも感情の機微を感じられない。
恐らく『支配の種』により感情を失い全てを奪われてきたのだろう。
この部屋は異世界人『カワシマソウ』の望む理想郷。
アルメーリアに来る以前のカワシマソウは
全ての者に存在を否定されていた。
学校で酷い虐めを受け
家に引きこもる。
いつしか親からも存在を否定された。
家族が楽しく食事するリビング。
活発で頭の出来も良い容姿も優れた弟と
両親から時折溢れる笑い声が疎ましい。
父親は医者であった。
大学病院で何人もの患者の命を救う英雄。
母親は、強者から弱者の権利を守り保護する弁護士。
弟は常に学校では成績が上位の秀才で生徒会の副会長をしている。
容姿も母親の様に整い知性も父親から受け継ぐ。
カワシマソウが持っていない
全てを持っている。
だがそれでも両親だけは、自分の味方だと信じていた。
ゴミ箱に捨てられた自分の写っている家族写真を見つけるまでは…。
社会からも親からも見捨てられたと感じ
激しい孤独を感じる。
そしてカワシマソウは森の奥で
自らを捨てた。
気がつくと、この世界アルメーリアにいた。
そして魔物に襲われていた彼をたまたま救うノボル。
カワシマソウは自分を否定しないノボルに
初めて心を開く。
ノボルは、彼が望むものを何でも与えた。
その一つが『支配の種』である。
怯え自信の無いカワシマソウを不憫に思ったのか、はたまた気紛れなのか。
支配の種を彼に渡す時
「これを使えば、君の事を絶対に裏切らないものが出来るよ。」
そう伝え笑うノボル。
最初は、魔物を仲間にしようとしていた
カワシマソウ。
森を探索していると、たまたま湖で
くつろぐ美しいエルフを見付けた。
ファンタジー漫画やゲームが
好きなカワシマソウ。
好奇心に抗えず、美しきエルフに支配の種を使う。
そこから彼は変わってしまった。
どんなに非道な事をおこなっても逆らわず
従順に従うエルフ達を次々と増やして行く。
しかし、その愚行も時期に終わりを告げる。
今…。カワシマソウの目の前には血と殺戮に飢えたロウガが立っている。
「な…何でここに!?」
だらしない肉体をさらけ出す
カワシマソウは狼狽していた。
そんな彼に纏わりつく、心を奪われた
美しく儚いエルフ達。
「オマえ…。くズだな…。」
鼻で笑い見下すロウガ。
その瞳が以前に自分へと向けられたものと
重なる。
「ぼぉくを、その目で見下すぅなぁーー!」
罪もなきエルフ達の首を、切り裂き命を
奪わうカワシマソウ。
その亡骸に自分の持つ、最大の魔力を注ぎ込む。
エルフ達の肌が浅黒くなり
髪も漆黒に染まる。
その姿は『ダークエルフ』に似ていた。
起き上がる亡骸には黒い玉が
その瞳に宿っている。
面識など一切無い。
しかしロウガは、余りに身勝手なカワシマの行動に憤怒する。
「さぁぁ~。行けぇ!」
様々な精霊を呼び出す、哀れな亡骸達。
ロウガは何故か亡骸達を傷付けずに攻撃を
躱していた。
まだ残っている理性がロウガの動きを鈍らせてしまったのか。
気が付けば、ロウガは壁際に
追い詰められていた。
不敵に笑み浮かべるカワシマソウ。
「またぁ~。死ぬぅねぇ。」
「今度はぁ、僕の駒にぃしてあげぇる。」
ドンッ!ピチャ…。
脈動する自分の、心臓が何故か地面へと
転がり、それを見つめるカワシマソウ。
メルが背後からカワシマソウの心臓を
くり貫いていた。
カワシマは「えっ…な…。」静かに倒れる。
使役する者が倒れ、亡骸達も動かなくなる。
カワシマの亡骸の周りに漂う汚れた魂を喰らう。
メルは亡者を操る『ネクロマンサー』の力を手に入れた。
今、メルの目の前には無数の憎悪と哀しみが宿る魂達が見える。
このままにしておけば今度は
本当に魔物として闇の者として生涯を
生きなければならなくなる。
メルは彷徨い動く魂達に語りかけた。
「静かに眠りたいか…。」
「それともまだこの世界に未練があるか。」
メルの言葉に反応するかの様に様々な光を
放ち、揺らぎ語る魂達。
五つの魂の内、三つを浄化するメル。
残りの二つを元の肉体へと戻すとメルは
手首を切り自分の血を口に流し込む。
妖しげで妖艶な紅い瞳を持つダークエルフが生まれる。
メルへと跪く二人のダークエルフ。
「名前は?」
メルも膝をつき、二人のダークエルフへと
目線を合わせ微笑む。
余りに無邪気なメルの笑顔に
安心感を得たのか瞳から感情が溢れる。
落ち着くまでメルは二人を静かに見守っている。
メルは、囚われていた時のカフエリとフエンを思い出していた。
それと呼応するかの様に、外にいる闇の魔物達も、突如として消滅していく。
「メル!!」
カフエリの声が聞こえる。
背後へと振り向くとメル人形が、
メルを強く抱き締めた。
見た目はメル人形だが、カフエリの魂を
感じ優しく頭を撫でるメル。
少し異質な光景であった。
それを、見て含み笑いをしてしまう
二人のダークエルフ。
「失礼。私の名はカラ。」
武人の様な口調のダークエルフ。
「は~あ。何だもう相手いるんだぁ。」
「ボクは、ムーリス。」
口を尖らし話す。
カフエリが二人の名を聞き驚く。
「まさか…。森の賢者ムーリス様と精霊樹の守護神カラ様?」
「もう…違うがな。」
カラは悲しげに微笑み俯く。
「久しぶりに、そんな風に言われたよぉ。」
どこか楽観的なムーリス。
二人はメルに自分達の想いを改めて伝える。
「私達は、精霊樹を救いたい。」
メルは頷き「あぁ力になろう…。」とだけ
一言返す。
そしてもう一つの無機質な揺らぎの魂へと
歩みを進める。
ロウガとカフエリ。
そしてカラ達はメルの後を付いて行く。
カフエリはメルの雰囲気が以前のものへと
戻り心が落ち着く。
だが、メルの背中はどこか悲しげに見えた。




