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ウシナウ



邪病の蔓延と、マレビトの頂点

ノボルの奇襲という二つの不幸により、

壊滅的な程に陽炎の町には絶望と混沌が満ちていた。



「クレア…。落ち着いたか?」


いつもと変わらぬ口調で話す

アユム。


「……………。」


クレアはうつむき、眼が虚ろで光が無い。


そして心がこの場所に存在せず、ただ息をしている。


そう…。クレアは、全てをノボルに壊されてしまった。


血魔の呼び声の蔓延を、防ぎながら、

医療に携わる者として必死に治療を行い、

邪病と戦い続けた。


誇り高く心の強い女性である。


だが…戦い。争いは、不条理で平等な不幸と嘆きを与える。


アユムがノボルとの死闘を繰り広げ、

必死で町の民を守ろうとした。


そして敗北する。


決してアユムが弱い訳ではない。


異常な強さを誇るノボルを相手にして、

生きている事、自体がその証拠である。


ノボルは、敵と一度見なすと

容赦はしない。


必要以上の苦しみと痛みを与える続け、

最後に静かに止めを刺す。


それが見せしめにもなり

自らの力を示す事で新たな

争いの種を潰すつもりで非情になる。


ノボルの行動は、性別にも関係しない。


罪もなき女性であるクレアに

対しても非道で残忍で冷酷な仕打ちをする。


ただ死にかけるアユムに治療を施そうとしただけなのに。


一瞬でクレアを気絶させた。


クレアは焼け付く様な、

凄まじい痛みで、意識を取り戻す。


そこから本当の地獄が始まる。


ノボルの冷酷に笑う顔が脳裏に浮かぶ。

鉄の剣をクレアの身体へと突き刺す度に


「君は、これで一つの罪を償える。」


この一言を呟く。


両手足に鉄の杭を打ち込まれ

石の十字架へくくりつける。


そして何度も、何度も、何度も


鉄の剣を肉体に突き刺す。


ノボル曰く、罪の数だけ裁きを

与え、救済を授ける。


その様な愚行が行われる。


心理学と人間の肉体構造を熟知している

ノボル。


最も苦しみと絶望の味を、相手に長く多く

刻みつける為に致命傷を避けて拷問し続ける。


何度も言葉を繰り返すがノボルにとっては、これが救済になると信じている。


アユムの様に幾多の死地をくぐり抜けた戦士とは違うクレア。


完全に心を壊され、手足も動かない。


ものを言わぬ生きる屍となる。


そして他にも心が壊れ叫ぶ者達がいる。


「うわぁーーーーわーー!!」


死魔の呼び声によって、自我を失い大切な、

仲間、友、家族、を喰らい

生命を奪った者達の心が次々と壊れていく。


血清弾を撃たれ、身体を蝕む

邪病が消え自我を取り戻す民達。


その事で自らが犯した

取り返しの付かない過ち。


その重みで心が潰される。


「ぼ…く。母を…。食べた。」


数日前、フエンとカフエリをとある事を

教える条件にとデートへと誘い、酷い仕打ちをフエンにされたギラン。


彼もまた邪病により大切な母を

自ら喰らい命を奪った。


邪病の一番恐ろしいところは、

感染すると血肉を求める化物へと変わる事ではない。


化物へと変わっても、その期間の記憶が

はっきりと残っている事である。


ギランはその身に凄まじい飢えと血の渇望が襲い、愛しき母をその餌食にしてしまった。


その時の記憶が鮮明に脳裏へとこびりつき

心が壊れる。


母の腹を喰い破り内臓に貪り付く。


今際の際でも母は、自らの命を貪る、息子を愛おしそうに涙を流し見ていた。


その顔が脳裏から消えない。


「何で…。なんでーー!僕を殺してくれなかったんだぁ!」


地面に落ちていたガラスの破片を喉元に突き刺そう、とするギラン。


その手を止める綠炎の魔神。


「たわけ者!」と叫びギランを平手で殴る

フグエルレン。


口から血が流れ歯を喰い縛る

ギラン。


「どうして…。僕は…、僕は…、母を…。死にたいんだ。」


フグエルレンは傷付き壊れる、幼きギランの胸ぐらを掴む。


「言いたい事は分かる。」


「だがな…。ギラン。」


「お前は、己の母の命を奪った。」


「その罪を背負いお前は、地獄の中を生きて、生きて、生き抜いて行かなければならない。」


「容易に楽な道へと進むな!」


フグエルレンなりの励ましだと思う。


ギランはその言葉をどの様に

受け取ったのかは、わからない。


だが…。その日の夜にはギランの姿が陽炎の町から消えていた。


ギランの母が眠る場所には

一輪の花が置かれている。


美しく金色に輝くマーダの花。


ギランの母が大切に育てていた花だった。


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