ステージ"カゲロウ"
カヨウとロウガが操るメル人形達は錬金釜の中へと入り、真っ先に目的地である陽炎の町へと辿り着く。
ユウトの錬金術により造られた、
サプレッサー付きフルオートマチック狙撃銃
VSSヴィントレス『水落』を構え歩くメル人形達。
陽炎の町の様子が明らかに
変わっていた。
人の気配一つせず物音もしない。
不気味に静けさが漂う。
(なんだ…これは?)
ロウガがぼそっと呟く。
(とりあえず、二手に分かれ皆を探しましょう。)
カヨウの提案にロウガが頷く。
それと同期するかのように
ロウガ率いる5体のメル人形達も頷いた。
ロウガはガッコウの方向へと
メル人形達を操り向かう。
カヨウは町中の探索を継続する事にした。
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ガッコウへと辿り着いた、ロウガが操るメル人形達。
「お…ギ…。やめて!」
校庭から声が聴こえて来る。
(やベェな…。走るか。)
足早に動くメル人形、そして隠密に動いた事の無いロウガ。
ガシャガシャと、音をたて揺れる狙撃銃が
うるさい。
大きな綠炎の鱗を持つ飛龍。
フグエルレンが炎の結界を
造り、感染していない住人達を変わった”何か”から守っている。
グルァ…。オォ…。
キシャァ、!
ゆらゆらと蠢き唸ると、結界を叩く三体の何か。
瞳は濁り、口からは赤い血液が流れている。その何かからは意思を感じ取れない。
狙撃銃を構え、スコープを覗き照準を定め、血清弾を何かの頭部へと放つ。
トスッ、トスッ、トスッ…。
二体は見事に命中して倒れる。
残りの一体が飢えた視線が
メル人形達を捉える。
ガァーーーーー!
凄まじい早さで、こちら側へと
走り出す。
ロウガは慌てて銃口を向け
乱射するが相手の勢いが止まらない。
❰落ち着け、ロウガ!❱
メルの声が虚しく響く。
緑色の体液で汚れた歯が
一体のメル人形を噛み付き喉笛を食いちぎり貪る。
ブツッ…。
喰われているメル人形から
送られる目線が消える。
(ちっ…。しまった。)
肉を食らう音が響く度に
メル人形の腕がビクッビクッと
動く。
貪り喰らうことに夢中になる何か。
背後から至近距離で銃口を
突き付けら頭部目掛け血清弾を
放つ。
プス…。静かに横たわる何か。
「殺したのか?」「おい…。」
結界内の住民達に動揺が走る。
頭部を撃たれた何かは、先ほどの獣の様な
表情から穏やかな表情へと変わり
寝息をたてている、
一部始終を見ていた飛龍やミエル達が声をかける。
「オォ…。メル!う?!増えてる?」
「あっ。フエンとカフエリの
お父さん!沢山…いる!?」
急に賑やかになる。
ロウガとフグエルレン達は
お互いの現状を話し合い、情報交換をする。
フグエルレン達の話しだと
“血魔の叫び声”の血清を探しにフエン達が陽炎の町から飛び立った後。
町中の至るところで
高熱と激しい咳の症状に苦しむ
住人が現れる。
皆で協力してクレアの診療所へと患者を運ぶのだが…。すぐに満床となる。
アユムもクレアの能力『酒治療』をトレースして、必死で治療していたが、快方せずに
次々と心臓が止まり動かなくなった。
アユムは亡くなった者達を
火葬しようとするが思わぬ邪魔が入る。
マレビトの頂点サガワノボルが突如として現れた。
(何故?アユムの認証が無ければ陽炎の町へは入れない筈だぞ。)
ロウガは、疑問をフグエルレンにぶつけるが「そんなのは、知らん!」と一蹴され、続きを話す。
アユムと激しい戦闘を繰り広げたが大きな音と共に静かになった。
その後は見ての通り続々と遺体が化物へと
変わり果て住人達を襲っていった。
そして、感染していない、生き残りの住人達を集めて、この場所でずっと、血清を待っていたと、話すフグエルレン。
❰ロウガ…。フグエルレン達に
血清弾を飲ませてくれ。❱
頭に響くメルの声。
ロウガは手持ちの血清弾を
フグエルレン達に渡して飲ませる。
歓喜と安堵の声を漏らす住人達。
「よし!アユムの元へ行くぞ!」
生き残りの住人達を守る為。
三体のメル人形をその場に残す。
そして陽炎の町中央広場へと
飛び去るフグエルレンと、その背に乗るメル人形であった。
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町中を黙々と探索をしている
カヨウが操るメル人形達。
凄惨な光景が広がっていた。
一面が真っ赤に染まり、肉片が至るところに散らばり散乱していた。
糞尿と血の臭いでむせかえる。
カヨウは思わず吐いてしまう。
遠くで煙が見える。
クレアの診療所がある方向。
嫌な予感がよぎり、急ぎ走る。
診療所に辿り着くと建物は燃え跡形もない。
うめき声が聴こえる。
炎の中から、火だるまの
変わり果てた住人が地面を這いずる。
照準を合わせ頭部を狙う。
バスッ…。
見事に命中すると動かなくなる。
❰カヨウ!気をつけろ何か来る。❱
「遅かったね…。暝砡の者よ。」
いつの間にか、背後に一人の
青年が立っている。
金色のローブを羽織る黒髪の青年。
一見何処にでもいそうな人物。
だが…その瞳と肉体から放たれる圧倒的な
恐怖と暴力的な力。
睨まれただけでメル人形に凄まじい重圧が
かかり地面がビキビキとひび割れる。
(何で?!サガワノボル!!)
「年下に、呼び捨てされる、筋合いはないなぁ…。」
瞬きする暇もなく吹き飛ばされるメル人形達。
ブツッ…。ブツッ…。ブツッ…。
三体のメル人形達が、致命的な破損により
送られる映像が途切れる。
息を吸うことすら忘れさせる程に恐怖を感じるカヨウ。
手足に震えと冷たい汗がにじむ。
その心境と同期するように
メル人形達も後退りしてしまう。
「アレ…。君、暝砡の者じゃ無いね。」
「なら…。用は無いよ。」
魔力を手に集めるノボル。
大気が圧縮していく。
「『創造』死神の鎌。」
禍々しく眩い闇の光を放つ
蒼く美しく曲線の刃。
脈打つ度に大地が揺れる。
❰すまん…。カヨウ。俺がやる。❱
カヨウの思念相石を奪うメル。
自らの力をメル人形へと更に
注ぎ込む。
二体のメル人形が綠炎の剣と矛を生み出す。
「もう…遅いよ。」
両手に持つ、死神の鎌が
メル人形達の首を絡めとる。
それを矛と剣で受け止めた。
メル人形達とサガワノボルの衝突。
凄まじい力のぶつかり合いにより擦れる金属音と、共に火花が飛び散り、建物の壁がひび割れていく。
弾かれる死神の鎌。
ノボルの手が震え痺れていた。
高笑いと共にノボルの肉体が
黒い渦に飲まれる。
煉瓦造りの町並みが黒い渦へと吸い込まれる。
メルは町中央から、今にも消えかけ、
弱々しく揺らめく二つの魂の力を感じとる。
メル人形の一体をその場所へと向かわせた。
メルはある秘策を隠していた。
黒い渦が徐々に消えてくる。
そこから現れる漆黒の翼を携えた黒く邪悪な魔物。
4本の手から闇夜の星空を連想させる程に
黒く美しい闇の剣が生み出される。
メル人形は真っ赤に激しく光る。
そして変化途中のノボルにしがみつくと
激しく発光する。
核融合並の大爆発を起こす。
熱で石がどろどろに溶け
凄まじい爆発で陽炎の町を覆う結界が
消し飛び、天が割れ大気が裂ける。
肉が焼ける臭いと様々なものが溶けた臭いが喉に張り付く。
フグエルレンが咄嗟にガッコウを含めた後方へ防壁を張ることで難を逃れる。
そして町の中央。
噴水が流れる広場では、
十字架に貼り付けられている。
血塗れのアユムとクレアがそこにいた。
両手足が潰され、全身には
いくつもの鉄の剣が突き刺さる。
ふと足元を見るとメル人形の溶け砕けた残骸が転がる。
凄まじい爆風から身を挺して
アユムとクレアを庇ったのだろう。
「おい!アユム。クレア!」
フグエルレンは湿る大きな鼻で
二人を揺さぶる。
「うっ……。うるさ…いなぁ。」
アユムが口からは血を流し笑う。
ロウガはクレアの方へ、メル人形を寄せ、
確かめると、まだかろうじて呼吸はしていた。
だが…。ひゅ…ひゅ…。
呼吸が浅く、一刻をあらそう状態であった。
❰ロウガ!早くアユムとクレアに治癒魔法を使え。❱
怒鳴り焦るメル。
(使い方、わかんねぇよ!)
❰俺がやりたいが…。今、動けない。頼む…ロウガ。❱
祈りともよべるメルの震える小さな声。
鼻息をあらくするフグエルレン。
綠炎の魔神へと姿を変えると二人に暖かい
炎を放つ。
メルとは違う、生命力に溢れ強く燃える炎。
傷口がみるみると、塞がるアユムとクレア。
顔色も良くなっていくのである。
◆◆
「はぁ、死ぬかと思った…。」
傷口は塞がるが潰された手足は動かない。
アユムはそれでも楽観的で笑っていた。
「ノボル…が来て私…。生きてる。」
表情が青ざめ、瞳から以前の様な光が無い
クレア。
動かぬ手足を見て泣き叫ぶ。
ロウガとフグエルレンは何も言えずに
その場にたたずむ。
また凄まじい重圧感を感じ上空を見上げる。
下半身が消し飛び、顔が溶けていても生きているノボルがこちらを睨む。
「一旦引くけど…。その時は終わらせてあげるよ…。アユム。」
その一言を鼻で笑うアユム。
「僕の…終わりは、僕が決めるよノボル。お前が決めるな。」
それを聞いたノボルの瞳は何故か懐かしく悲しげに見えた。
黒い霧となりノボルは消えて行く。
とりあえず何とかなったとロウガ達は
一息つくのであった。




