イカレタサクセン
「もしも…。俺が全ての場所へと行ったら、どうなるとおもう?」
メルは、顎を触りながら不敵に笑う。
それを聞いたカフエリとフエンは初めてメルに対して怒りを感じる。
「メル一人じゃ!皆を助けられないよ。」
「力を…。合わせないと、そうなる。」
二人は歯を食い縛り怒鳴る。
それを静かに受け止めるメル。
「あぁ、その通りだ。」
「全ての場所に行くとは、
言ったが俺一人で何とかするとは言っていない。」
「これをするのには、皆の協力が必要だ。」
ますます理解出来ないユウト達。
メルは指で旋律をなぞる。
「メルを『トレース』200体!」
「思念相石を七つ『トレース』。」
眩い光の中からメルが次々と生み出される。
『思念相石』とは、
主に意思の無い人形を自分達の思い通りに
操る為に使う石。
一人で戦う魔道師はこれでゴーレムなどを
操り利用して魔物と戦うのだ。
メルはGOMINIを取り込む事でアユムの能力トレース『転写』をオリジナル程では無いが使用できる。
かつてアユムから与えられた地獄の修行を思いだした。
その時の修行内容は200体の『死滅の賢者』グランを倒し、アユムを退ける事であった。
「俺のトレースはアユムとは違い性格や行動を細かく再現できない。」
「だから皆で俺を操って欲しい。」
眩い輝きを放つ思念相石。
ユウトはそれを一つ掴む。
一目見て純度の高い良質な物だと理解する。
それは軽く触れるだけで
メルの能力を持つ、意思無き人形達から
見える景色。目線が思考へ次々と流れ込む。
ユウトは思わず笑ってしまう。
メルをうまく操り目的を果たす。
それは以前にユウトがいた世界。
『アクションゲーム』と同じ
要領なのである。
「メルさん。この方法なら確かに予測不能ですね。」
「それに読めていたとしても、メルさんの偽物だから全滅しても問題ない。」
「陽炎の町は、外部からの侵入は不可能だから、ノボルさん達率いるマレビトがいる
可能性も皆無ですし…。」
メルは更に覚悟を決めて話す。
「もしも…。これすらも読まれていた場合。」
「俺の魂を代償に、この時この場所へ戻る。」
「ユウト達は、今の俺達にその事を全て話す。」
「そうすればまたやり直せる。」
強く激しく口角をあげるメル。
ユウトを含め、この場にいる者達は、
メルの常軌を逸した作戦に驚きと希望を見いだす。
要は、成功するまで何度もやってみる作戦。
自分の命を平気で一つの駒にする、自己犠牲の固まりの様な作戦であった。
ロウガはボソリと「イカれた作戦だぜ…!」と呟く。
だが…同時に何かを変える事のできる大きな力だと改めて思い知るのであった。
◆◆
メルは、何処に誰が行くのかを伝え
ユウト達に魔力の込められた羽根ペンを渡す。
「じゃあ皆、俺の人形へ自分の名前を
書いてくれ。」
ロウガとカヨウが陽炎の町へ
一人、五体のメルを操る。計10体。
メルの人形の額に自分の名前を書くロウガ。その見た目に笑い転げる。
カヨウは、自分の名前をメルの人形の掌へと書きながら無遠慮なロウガに怒る。
ミサキのいる可能性が高い
ランドへは”ユウト”と”ミレイ”と
”カフエリ”が120体のメルを操る。
「じゃあ一人、40体のメルさんを操るのか…。」
ユウトが深くため息を漏らし、背中を丸める。
その背中強く叩くミレイ。
「私は、メル一人だけで良い!」
メル人形の胸に自分の名前を書くカフエリ。
それを聞いたユウトとミレイは理由を聞く。
メルの人形を手を掴み見つめるカフエリ。
「だって…。もしも壊れたら。偽物でも、なんか嫌だから。」
その一言に呆れ顔をするユウトとミレイは、
残りのメル人形へ名前を書き始めた。
そして始まりの遺跡コアへ70体のメルを
操るフエン。
「メル…。少し試したい。これ変えても良い?」
メル人形を指差しメルの方を見て笑う。
「良いぞ…フエン。」とメルは返した。
フエンは、自分の魔力をメルの人形へと練り込む。
ぎこちなく"カタカタ"と動いていたメル人形達の瞳から生命の芽吹きを感じる。
「フエン様、宜しくお願いします。」
メル人形達が自らの意思を持ち話し始めた。
「宜しく…。メル。」
何故か照れているフエン。それを見て微笑むメル。
そしてメル自身はこの場にいるユウト達を守る事。
メルの人形達から送られる情報を頭の中で
分析する。
各々が思念相石を強く握り
五感を閉じる。
メル人形から見える視線が一気に
自分達の思考へと流れ、最初は吐き気をもよおす。
フエンの思い通りに動き、自ら考えるメル人形。
いくら基本をメルが作ったとしても魔力で
書き換えたフエンの才能が恐ろしい。
その次がユウト。
頭を抱えながらも何とか動かす。
ちょっと異質なのがカヨウで
造り出したメルの人形から
常に聖なる波動を纏い、はにかむ笑顔が眩しい。
残りの者達は、メルを操れずに
いた。
真っ直ぐに歩き続け木にぶち当たるメル。
転んでも起き上がれずにいるメル
無差別に綠炎の剣を振り回すメル。
無法地帯であった。
特に絶望的なのがまさかのカフエリ。
ずっとカフエリを抱き抱えて
優しく撫で続けるメル人形。
カフエリはとても喜んでいた。
このままではミサキを救うという事は不可能だと感じたメルは、カフエリの耳元で何かを囁く。
ミレイの長い耳がひくひくと動き
笑みがこぼれ口を塞ぐ。
頷くと先ほどとは、段違いの動きを見せた。
速くしなやかに動くメルの人形。
その姿が本物のメルと寸分違わない。
メルは何をカフエリに伝えたのか…。
カフエリとメルだけの秘密の筈だが…。
にやけるミレイの表情を見てユウトは悟る。
ミレイやロウガも、とりあえず
メルの人形を動かせる様になってきた。
各々がメル達を操り目的地へと向かうのであった。




