ミンナノミチ
霊妄の雲海を越えたメルフォード一達。
ついに精霊族が住まう神秘の国ボールデンへと足を踏み入れる。
目の前には全体が見えないほどに大きく強くそして天高くそびえる奇跡の精霊樹。
『アルブル・レパラトゥール』
静かな風になびく木の葉から落ちるいくつもの水滴。
まるで涙の様にメルフォード達へと舞い落ちる。
ここは滅多に来客の訪れない隠れ里のような場所。
それには霊妄の雲海の存在以外にも理由があった。
それはこの国を治める王女クリエラにまつわる恐ろしい噂が関係していた。
かつて彼女は、攻め込んできた各国の王族たちの前に自らの主であった魔王の首を放り投げた。
その冷徹なまでの決断で侵略者達を黙らせた。
それ以来、彼女は裏で
“冷氷の死風”や”新たな魔王”と呼ばれ周囲の王族達から恐れられていた。
その真実を知るメルフォード達は、複雑な想いで兵士達の詰所へと歩みを進める。
道中、メルフォードたちは驚くべき光景を目にする。
誇り高いエルフの民たちが、
カフエリとフエンの姿を見るなり王族に対するかの様に深く深く頭を下げていく。
さらに集まってきた子供達は二人を”先生”と呼んで慕っていた。
子供達の話を聞けば、フエン先生は、学術と魔法、そして意外にも料理を教えている。
厳格さ故か子供達は
フエンをみて少し怯えていた。
それとは違い、武道と編み物を教えるカフエリは子供達に絶大な人気を誇っていた。
そんな二人の意外な一面を
「ふふん!花嫁修業かな。」と揶揄ったギラン。
フエンの火魔法とカフエリの鞘打ちで即座に制裁される。
するとカフエリの元へ一人の耳の尖った男の子のエルフが駆けてくる。
満面の笑みを浮かべ飛び付くとカフエリに抱きつき「ママ!お帰り~。」と声を上げた。
メルフォード達が驚愕する。
カフエリが「私に子供がいるのがそんなに…おかしい?」と静かに、そして威圧感のある笑みを浮かべる。
「おっ!きたきた。」
白衣を纏った懐かしい黒縁メガネを掛けた女性が現れる。
陽炎の町からこの地へ招かれ、医師としてエルフたちを診ていたクレアだった。
クレアやユウトの話によれば、カフエリとフエンは、かつてのミサキやメルの意思を継ぎ、
戦争や魔物で身寄りを亡くした子供達を引き取り、生きる術を教えていた。
特にフエンにだけ懐いている桃色の瞳の混血児の少女ミヨ。
無言で彼女のローブの裾を掴んだ時、フエンはいつもの冷酷さなど、微塵も見せず聖母の様に微笑む。
その姿はメルフォードの母フォードを思わせるような慈愛に満ちた微笑みであった。
フエンは「ただいま…。」とミヨを強く抱きしめる。
何故かその光景にメルフォードは胸が熱くなり、心臓がドクドクと脈を跳ねる。
「邪霊達に襲われた後遺症かな…。」
メルフォードは日の光に照らされ輝くフエンに見惚れていた。
それを殺気と判断するフエン。
「フフ…面白い…そうだわ…。」
「精神を鍛えるって…。話をしたわよね…。」
するとフエンの指先から黒い蛇が現れメルフォードの身体を縛り付ける。
「それ…心が乱れたら全身に痛みが走るから、心を穏やかにね…。」
またいつもの様に冷たい笑みを浮かべるフエン。
そしてミヨの元に行き、小さな手を包み込む様につなぐフエン。
それを見てメルフォードの肉体が焼ける様な痛みが走り、悶絶する。
何だかんだでやっとの事。
メルフォード達は詰所へとたどり着く。
赤銅色のベルを鳴らすカフエリ。
鈍い音が鳴り響き奥から杖をついた老人が現れる。
彼の名はパル。
今は116歳となり、今や耳の遠い好々爺となって詰所の受付として座っている。
かつてドワーフ達に魂を救われ、長い間クレエラが看病をした結果奇跡的に意識が戻る。
カフエリは、年老いたパルの耳元で「精霊樹の樹液が欲しい」と叫ぶ。
しかしパルから返って来る返事は畑違いの言葉であった。
「わしは独身じゃよ?」
更に大声を張り上げるカフエリ。
「だーかーらー!!せいれいじゅ!!のぉーーじゅ液!ほーーしーい!!」
「何?わしはもう昼ご飯食べたが…どうした?」
やり取りが一向に噛み合うことの無い会話。
それを見ていたフエンは太股を強くつねり肩を震わせていた。
「遅くなってすみません…。ご用件は?」
慌てて出てきたパルの息子ルーリ。
事情を全て伝えるカフエリ。
あっさりと通行許可証が発行される。
「昔は…こんなじゃなかったのに…。」
深くため息をするカフエリ。
メグラが興味本位でパルの事を聞いてみた。
息子ルーリから語られたのは、かつて”剣星”と呼ばれたパル。
そしてカフエリの姉でありボールデンの女王クリエラと結ばれたという事実。
その言葉を聞いた時。
メグラとユウ、そしてギラン
までもが思わず「逆玉じゃん!」と叫んでしまう。
その声がボールデン中に響き渡り木霊する。
するとメルフォードの紅い瞳をまじまじと眺めるパル。
ふと真面目な眼差しで
メルフォード達を見据える。
「そうか……時が来たか。気を抜くなよ。」
彼の重みのある一言。
カフエリは「ありがとう…。」とだけパルに伝えた。
かつて激戦を戦い抜いた友としての言葉。
ルーリから精霊樹への通行許可証を受け取ったメルフォード達は、複雑な想いと決意を秘め。
奇跡の樹液を求めて、巨大な精霊樹の元へと向かうのであった。




