エルメリア
精霊樹の懐に辿り着いたメルフォード達。
そこにある天高くそびえた幹。
その巨大な枝には名も知らぬ虹色の羽を広げた不思議な鳥達が巣を作っていた。
その強く凄まじい生命の奔流に息を呑むメルフォード達。
そして天を衝く巨大な幹の麓には白い瞳をもつエルフ静かにたたずんでいた。
「姉さん!ここにいて大丈夫なの?」
カフエリが思わす声を高くして驚く。
「当然でしょ…私は精霊樹様の御声を民達に伝える巫女なのよ。」
「精霊樹様の中に入るのなら、当然に私が案内するわ。」
深緑色の滑らかな絹の羽衣を纏うクリエラ。
実年齢は既に齢1000年は軽く超えている。
なのに肌は白樺の様に白く肌も瑞々しい。
小柄で華奢な見た目とは裏腹に想像ができない程の魔力を持つ
そして醸し出される気品と威厳。
クリエラの持つ白い瞳は
メルフォード達の全てを見透かしている様に感じさせた。
それは国を守る為に、他国との干渉を避け国を閉ざしてきた。
精霊族の住まう国ボールデンは
常に有り余る資源を他国から狙われていた。
時として相手の思考を探り分析し他国との交渉を有利にする。
武力が乏しい国では当然に必要な能力である。
それ故に一目見ただけでその者の思考を読み取る彼女の能力。
それは民達を愛し必死に背負ってきた苦悩を物語る。
そんなクリエラの名を聞いたメグラ。
「まっ…さっきのじいさんの嫁!!」
王族で精霊樹の声を聞く神聖な職も担うクリエラを指差して驚く。
この時だけはフエンやカフエリよりも早くメルフォードが強く指摘した。
そんなメルフォード達の様子にクスクスと小さく笑うクリエラ。
「いいのよ…パルの妻なのは本当だしね。」
子供をあやす様にメグラの頭を撫でている。
メグラの白くふわふわな毛並みを触るクリエラ。
小さく「可愛い…。」と呟く。
王族とは思えぬ振る舞いに
メルフォードは親しみを感じていた。
「じゃあ精霊樹様の元へ行きましょう。」
メルフォード達を先導するように前を歩いて行く。
複雑に絡み合う根の隙間に長い月日をかけ蔦が聖域の扉を覆い隠していた。
蒼い色の水晶で作られた
その扉が木陰の隙間に差し込んで。
ほんの少しだけ光の粒が煌めく。
精霊樹の葉がざわざわと擦れる。
突如として苦しむ仲間達。
聖なる精霊樹の放つ圧倒的な光は、一行の中に潜む闇を容赦なく拒絶する。
「がぁ…、な…んだ……これはぁ…。」
吸血鬼の呪いを受けたミレイは皮膚が焼け爛れていく。
彼女に血を分け与え続けてきたユウトもまた、灼かれるような苦しみに膝を突く。
さらに、メルの”暝砡の血”を引く親から生まれたメグラとユウ。
その身に宿る闇を浄化され、滅ぼされようとする力に抗えず喘ぎます。
「やはり…。少しお待ちください。」
「精霊樹様にお伝えしますから…。」
深緑の若葉が刺繍されている
絹の羽衣をなびかせ精霊樹へと祈りを捧げる。
クリエラの白い瞳と共鳴する様に精霊樹が風もないのに激しく揺れる。
徐々に精霊樹のざわめきが収まっていく。
そして精霊樹はお詫びのつもりなのか、ほのか甘く心地よい風でふわりとメグラ達を包み込む。
先ほどの苦しみが嘘の様に消えていく。
「…良かった…精霊樹様は受け入れてくれました。」
肩を撫で下ろすクリエラ。
「しかし…不思議ね…。」
フエンがメルフォードを見詰め思考を巡らせた。
(なんで…暝砡の血が濃いメルフォードは受け入れられたのかしら…。)
カフエリの姉クリエラから以前に聞いていた精霊樹の話。
精霊樹は暝砡の血を強く拒む。
それは悪しき魔物と同じ反応であった。
一歩間違えばボールデンの国を入る事すら困難になる可能性も否定できなかった。
「…メルフォードは平気?」
あっけらかんとしているメルフォードに聞くフエン。
「えぇ…だけど…なんだろう。」
「ずっと声が聞こえる…。」
不思議そうに首を傾げるメルフォード。
淡々と役目をこなすクリエラ。
水晶の様に輝く扉の封印を解く。
地鳴りと共に扉が一人でにゆっくりと開く。
メルフォード達は精霊樹、その内部へと足を踏み入れた。
◆◆
じめっとしているのに爽やかな風が吹く。
日の光が射し込まないのに何故か精霊樹の中は目映い光で照らされていた。
無数の虹色に輝く高濃度の魔力を秘めた結晶『メデネラクリスタル』が足元や木の壁を埋め尽くす。
「はぁ…美しい…。」
思わず小さなため息をもらすユウ。
メデネラクリスタルは、魔道具生成に欠かせない鉱石。
ここにあるクリスタルを片手分程、市場に売れば一国の富をその手にする事ができる。
これだけの量のメデネラクリスタルがあると他国にもしも知られたら…。
ボールデンは悲惨な戦地となるだろう。
「…静かに…。」
カフエリが精霊樹の洞窟の更に奥から自分達以外の気配を感じた。
ここは禁忌の土地として精霊族であっても入る事を許されない。
それ故にカフエリから緊張感が伝わる。
しかしクリエラはその気配の正体を知っている様子。
悲しげに頬を歪め「安心して…大丈夫だから…。」と一言呟く。
そしてその場所へと誘う様に先頭を黙々と歩いて行く。
やがて巨大なクリスタルの前に辿り着いた一行達。
急に耳鳴りが襲い軽く眩暈がする。
そして各々がクリスタルの力による”幻視”に足を止める。
メグラには父ロウガの背が。
ユウには忌むべき先祖カヨウの姿が。
ギランには自らが殺めてしまった母の面影がその瞳に映る。
それをみたもの達は思考と動きが止まる。
カフエリとフエンは顔を背けていた。
しかしメルフォードとクリエラにだけは、そのものの真実が見えていた。
そこにはいたのは、純白の衣を纏った、美しくも儚い”幼き神”がまるで眠っているように穏やかな表情を浮かべていた。
そしてその神の肉体にメデネラクリスタルの管で繋がる者。
アユムの姿であった。
クリエラが悲しげに語る真実。
神の生かす為だけに自らの魔力と生命力を分け与え続けるアユム。
クリエラは更に続きを語る。
かつてメルから樹液を託されたアユムは、動かなくなった手足の自由を取り戻した後、神の日記を解読し、この地に封印されたアルメーリアの”創造神エルメリア”の存在にたどり着く。
そして…かつての宿敵ターメルは、闇に堕ちてなお、この愛しき神を守るために”世界の穢れ”を自ら吸い取り続け、神を眠らせることで延命させていたという驚愕の真実。
しかし、ターメルが宇宙へと去った今、世界に満ちる争いの穢れは神へと流れ込み、神の寿命は尽きようとしていた。
アユムは自らをトレースした人形でメルフォード達の旅を見守らせつつ、本人はこの地で神の穢れを代わりに引き受けていた。
「もうすぐ…アユム様の命は尽き、神エルメリアも寿命を終えます。」
クリエラは真実を話終えると、与えられた役目を果たす様に、虹色の樹液をミレイに手渡す。
それを取り込んだミレイの体から瘴気が消えていく。
長年ミレイ苦しめてきた吸血鬼の呪縛と暝砡の血の本能が解けていく。
そして姿は変わらずフェンリルの力を宿しながらも、ミレイはかつてのような好戦的な衝動から解放され、本来の穏やかな心を取り戻す。
その瞬間、中央にあるクリスタルから声がメルフォード達へと想いを語る。
威厳と幼さが共存する、正反対の属性を帯びた優しき神の願い。
「どうか……私の子…ターメルを止めてほしい。」
その願いを胸に、メルフォードたちは決意を新たにしました。
そしてクリエラがアユムから聞いた神の日記の全容をメルフォード達に話す。
神の命を繋ぐために必要な『暝砡石』それは"純粋な戦い""穢れなき心""慈愛"そして"守護の想い"を結晶化させたもの。
全てを背負う覚悟を決めたメルフォード達は、アユムの想いを守るため…。
そして神の願いを叶えるため…。
メルを救う為…。
各々の強き想いが交わり世界が変わろうとしていた。
そして…メルフォード達は
最後の決戦の地。
魔王メルがいる北の凍てつく氷の大陸へと向かうのであった。




