クロガネ
メルが放つ渾身の一撃『キラードーム』により真っ二つに切り裂かれたはずのターメル。
その断面から不気味な肉芽が蠢き出し、不気味な音をたて再び結合を始める。
禁忌魔法による不老不死の肉体を手に入れたターメル。
肉体の損壊など無意味な余興に過ぎなかった。
ターメルは狂ったようにメルを嘲笑う。
「何が…守るだ…醜悪な化け物風情が。」
天高く神の杖をあげるターメル。
凄まじい音と共に大気が震え
空を切り裂くような
激しい稲光がメルへと落ちる。
仲間を守る為に歌声を犠牲にした無力なフォード。
そして絶望と罪悪感に襲われ動けないメル。
それを庇う様に無慈悲な雷撃をその身に受ける。
聖女のような彼女は黒焦げの姿となり力無く崩れ落ちる。
炭の様になったフォードの姿を見詰めるカフエリとフエン。
気が付けば魔力を込めた村正で
ターメルの首へと目掛け斬りかかる。
フエンも自らの命を削るように
残りの魔力を矢尻に込める。
二人の幼く気高き者達から
発せられるけたたましい叫び。
その声は余りにも切なくそして重い。
だが…神の力を持つターメルにしてみれば、弱いの一言に尽きる非力な一撃。
軽くいなされ吹き飛ばされる。
更にディロアとの激闘で疲弊したギルア。
そしてネミルも必死の抵抗を試みる。
しかし神のごとき力を振るうターメルの前には赤子も同然であった。
次々と返り討ちに遭っていく仲間達。
メルを睨みつけるカヨウ。
その紅い瞳から血の涙が流れる。
「なんで…なんで…、動かないのメル!!」
「…あんたが…やらないなら
あたしがやってやるよ…。」
その惨状を前に、唯一動かなかったカヨウ。
自らの残された”心”を犠牲に
サキュバスとしての本能を極限まで解放する。
姿は変わらぬが、その身から放たれる瘴気がより黒く邪悪に染まる。
「……ねぇ…ターメル。」
「…私の”もの”を奪った罪を償ってもらうわ…。」
妖しく動く指先がターメルの思考を鈍くさせ、美しく惑わす
その声が深い眠りへと誘う。
徐々にターメルの淀む瞳が
くすみ取り憑かれたように意識を削られる。
ナイトメアと幻惑の力でターメルを辛うじて足止めした。
しかし、ターメルがマールの魂を贄に発動させた『綺想支配』によって世界の法則は歪められていた。
今…メルは世界を滅ぼす魔王として全人類から憎まれる存在へと書き換えられてしまう。
荒れ果てたマーディンの土地。
次々と盛り上がる地面から飛び出すマーディンのドワーフ達。
「魔王を殺せ!!」
「殉ずる者も同罪だ断罪すべし!!」
何かに取り憑かれたように怒りの雄叫びをあげるマーディンに住まうドワーフ達。
鈍く光る黒鉄の筒。
そこから火を噴きながら放たれる無数の鉛玉。
無抵抗なメルに次々と鉛玉が
めり込む。
全身から血を噴き出し、そのままメルは地に伏した。
その凶弾は、傷つき動けない
カフエリ達にまで牙を向ける。
血迷う同胞達を、ギルアが単身で食い止める。
まるで重い鉄の塊が一気にのしかかる様な重圧感が襲う。
「……ここにいましたか…。」
「…妾はカフレア・ターメル・クレセント。」
「精霊樹の命によりこちらに来ました。」
「…メルの命を精霊樹の元へお連れしましょう。」
純白の瞳がメルを捉え、無抵抗なメルへと風の刃を放つ。
それを防ぐ朱色の竜巻。
「はぁはぁはぁ…良かった…。」
「あなたの思い通りにはさせませんよ…カフレア!!」
聞き覚えのある透き通る優しい声。
「…クリエラ姉さん!」
カフエリが真っ先に気づき思わず大声で叫ぶ。
ボールデンの女王カフエラは、何故だろうか…。
怯えた瞳でクリエラへと視線を向ける。
「…キサマ…死んでいなかったのか?」
歯を鳴らして震える指先を突きつけるカフレア。
「えぇ…ノボル様に助けられたので…。」
それを慈愛に満ちた微笑みで
返すクリエラ。
だが…その心の奥には溶岩の様に憎悪はぐつぐつと煮え滾る。
フエン達はこの状況に理解が
追い付かず、茫然としていた。
「まぁ…良い……ここでクリエラ…キサマを始末すれば。」
幾重にも白い風の竜巻が起き。
そこから無限にも近い全てを
切り裂く刃がクリエラへと降り注ぐ。
片頬を歪ませ鼻で笑うクリエラ。
指を鳴らすと一瞬で風の力が消え失せる。
「精霊樹の御威光を…使ってもこの程度ですか?カフレア。」
いつもの様な優しい姉とは違う
。
威厳に満ちたその姿は、初代ボールデンの女王。
2000年前、全ての精霊族を治めた名も無き女王と似ていた。
「な、何なんにゃ?」とカフエリに視線を送り、説明を求めるネミル。
「ごめん…今まで黙ってて…。」
俯くカフエリの側に足を引きずりながら近づくフエン。
ゆっくりとカフエリは自分の事を語りだす。
ボールデンの女王カフレアは、カフエリ達の叔母である。
そして今はターメルに操られる人形だった。
本来は精霊樹の御告げを聞き民を導く『聖眼』の継承者であるクリエラ。
しかし権力を強く欲する叔母カフレアの策略により『聖眼』を奪われてしまう。
そしてカフエリとその姉クリエラはボールデンを追われ、忘永の雲海へと突き飛ばされる。
忘永の雲海から魂を奪い取る死の手がカフエリ達へと伸びる。
二人が死を覚悟したその瞬間。
不気味に蠢く白い手が消し飛び弾ける。
「ケヒャヒャ…間に合ったね父さん。」
「…グラン…その笑い方どうにかならないか?」
救ってくれたのが邪悪に染まる前のノボルと息子グランであった。
それから二人は、ノボルによって奴隷という立場を隠れ蓑に生きていたが…突如としてノボルの人格が変わってしまう。
そこで『奴隷の国エデン』へと追いやられメルに助けられた。
カフエリは、過去を思い出しながら空を見ていた。
気が付けばクリエラの凄まじい魔力によって、叔母カフレアの戦意が喪失していた。
そして…カヨウの恐るべき幻惑により口を滑らすターメル。
「ノボルの記憶も自分が書き換えた」という真実を引き出す。
その一言で全てに納得するクリエラ。
黒焦げとなっているフォードにそっと近づき両手をかざす。
『エアルア』
周辺に存在する風の精霊達が、
まるで一つの生き物の様にフォードへと集まる。
徐々に元の姿に戻るフォード。
そしてなから落ちついたら頃に
ユウトと医師のクレアが現れる。
「メルさーん!みんな元気ですか?!」
笑顔で手を振るユウト。
「はぁはぁ…もう酒……止めよう…。」
木のふもとで胃の中身を吐き出しているクレア。
ユウトは、世界の真実が記された薄汚れている本『神の日記』を携えて現れる。
その本はかつてアユムが人間族にしか読めない本だと言っていた物。
実は、神がターメルに封印されると分かった時。
自らの一部を本として遺し
それを地上へと落としていた。
その日記の力により、ユウト達は記憶の改ざんを免れていたのだ。
更に明かされる真実。
亡きミサキの体内に受け継がれた神の魂の一部。
それは眷属となったフォードの胎内で聖なる光を放ち始める。
その光を浴びた瞬間、マーディンのドワーフたちは自分たちが『黒鉄』を発動させた真の目的を思い出した。
それは魔王を倒すためではなく、決して死ぬことのない怪物ターメルを永遠に閉じ込める為の牢獄だったのだ。
絶望の果て……。
唄声を失った母の胎内に宿る希望と仲間の絆を背に、不死のターメルを新たに封印する為。
最後の作戦が今、動き出そうとしていた。




