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精霊力は精霊界の恩恵で高速回復している。
しかし、自身の容量が枯渇寸前になるまでに精霊力を放出した事は無かった火の精霊王。
急激な精霊力の大量放出に慣れていない故に、人間で言うところの疲労のような症状を見せているのだった。
無理もない、今まで精霊力の大量放出を必要とする機会など無かったのだから。
(“敵が不思議な術でも使ったのか?”)
同様に心の中で狼狽している精霊王がもう一人いた。
水の精霊王だった。
大地の精霊王「おそらく急激な精霊力の大量放出を初めて行った事によって、身体が不調化していると思われます。」
二人の精霊王の心中を察して大地の精霊王が声を掛ける。
大地の精霊王「術を色々試してきた過程で、私も何度か経験しているのです。しばらく休むと復調しますので心配無用です」
水の精霊王が疲労に震える中で声を絞り出した。
水の精霊王「大地の息吹術を…」
“お願いします”まで声を絞り出す余力が残っていない。
(“今、戦線を離れるわけにはいかないのです!”)
火の精霊王「それだ…」
火の精霊王にも余力は無く、同様に声が震えていた。
(“俺が戻って戦わないと!”)
大地の精霊王が首を横に振る。
大地の精霊王「息吹術ではその状態の回復にはあまり効果が無いようなのです」
先ほど受け止めた時に、火の精霊王にはもう大地の息吹術を行っており、すでに実証されてはいるのだが、確証には至っていないので表現を暈かして伝える。
大地の精霊王が改めて周りを見渡す。
かなり削られたとはいえ、未だ巨大な“邪なるもの”が天空を覆っており、空を暗黒に変えていた。
龍族大王と龍王たちに余力はなく、火の精霊王と水の精霊王も消耗しきっている。
普通の精霊たちは戦闘ができるほどの力など持ち合わせていない。
そもそも戦闘の必要など、精霊界では今までほとんど無かったのだから。
風の精霊王はまだ幼く、恐怖に震えていた、無理もない。
精霊大王様はその力を娘である姫に継承されており、精霊姫はまだ幼かった。
そんな王族の皆と風の精霊王、恐怖に震えてはいるのだが、目をそらさず戦いを見届けている。
そんな状況を見て、大地の精霊王は最後の手段を覚悟した。
精霊大王、龍族大王、龍王たち、精霊たち、精霊王のみんな、そして精霊姫、皆の方を笑顔で見渡しながら大地の精霊王が言う。
「みんな大丈夫ですよ。防御は得意なんです」
にっこりとした笑顔を継続しつつ、最初に火の精霊王を1000メートル上空に運んだ“鉱物の円柱塔”、その側壁を滑るように大地の精霊王は上へと登って行った。
塔の先端には先ほど火の精霊王に特攻を行った敵”邪なるもの”が浮かんでおり、本体と合流すべく、その場で止まって待っていた。
塔を500メートルくらいに低くして、敵との距離を開けるように調整する。
塔の先端に到着し、天空を見上げる。
特攻した敵が本体と合流し、速度を上げて向かってきた。
大地の精霊王が手のひらを上げる。
手のひらを中心にして、高硬度の巨大な虹色の防御壁が展開された。
その広さは精霊界の天空から、さらには龍族界の空も含めて巨大に展開されていた。
火の精霊王に削られていたとは言えまだ巨大だった敵が、自身の体がつぶれるのも厭わずに防御壁を押しつぶそうとする。
咆哮して防御壁を維持する大地の精霊王。
数刻、その攻防を続けた後、
やがて自身の突進を固い防御壁にぶつけることで、邪なるものは固い防御壁と自身の突進力に押しつぶされ、消滅してしまった。




