82
大地のゲートを超えて大地の精霊王と水の精霊王、風の精霊王、そしてしずくの一行は大地の精霊国の一角にやってきた。
広大な国ではあるが、ただただ漆黒の闇夜に広大な土地がある。
領土のほとんどはそんな状態…のはずだったのだが
しずく「わあ…」
目を輝かせて感嘆の声をあげるしずく。
声は出ないが同様の想いを持つ水の精霊王と風の精霊王。
ゲートを超えて現れた世界には、美しい光景が広がっていた。
小高い丘の上から望む景色は緑の森林が広がり、森林の中を心地よい風が駆け抜ける。
その中を透き通る小川がせせらぎ、そびえ立つ山々から大地の力強き精霊力を感じるのだった。
小川は山の上の方から流れ出し、やがて大きな川となって、最後には巨大な果ての見えぬ水たまりになって波を打っていた。
ゆっくりとした波を打つリズムが心地よく響いてくる。
少女しずくはたまらず小川に向かって走りだし、手で水に触れてその心地よさに笑顔をこぼしている。
風の精霊王は森林の方を見てウズウズしていた。
それを見て大地の精霊王が声を掛ける
大地の精霊王「ぜひ森林の奥を見に行ってみてください。木々がもたらす空気が気持ちいいんですよ」
風の精霊王が「はい」と歓喜の色を隠せないトーンで返事するやいなや、疾風となって林の中に消えていった。
丘の上から見下ろす森林に、風の精霊王が残す薄白い疾風の軌跡が見て取れる。
あふれる大地の精霊力や、心地よい風の精霊力を感じながら森林を飛び回るのが嬉しくてたまらない。そんな気持ちが見てとれるような軌跡だった。
そして大地の精霊王と水の精霊王が、ゆっくりと歩きながら先に駆け出して小川を触っているしずくに近づく。
小川の水を見て、水の精霊王が驚いて言う
水の精霊王「これは!?」
しずくはきょとんとした顔で水の精霊王を見る。
水の精霊王「この水は、この水量が含有できる精霊力を、ほんの僅かですが超えています。これは一体…」
大地の精霊王「やはりそうでしたか。実は大地の精霊力も少し強くなっています。そしておそらく風と火も」
そう言って天空を見上げると、かなり遠い位置に火の玉が存在していた。
大地の精霊王「水と火と風と地と、適切な距離があればお互いがお互いに効果を及ぼして、それぞれの精霊力を底上げするみたいなんです。たぶん竜種族の世界は、精霊界と適切な距離があって、あの世界を成立させているんだと思います」
そうして天空にある緑の星、龍族界を見上げる大地の精霊王。
つられるようにそちらを見上げる水の精霊王としずく。
三人が見あげている方向には月のように浮かぶ龍族界の星があり、その真下の地表には大きな岩があった。
その岩の上に寝転ぶ精霊がいる。火の精霊王だ。
大岩の上の端っこで座って心地よく日向ぼっこをしており、投げ出した足をぶらぶらさせながら、森林からの大地の精霊力を堪能しているようだった。
水の精霊王が火の精霊王に気づき、火の精霊王も水の精霊王に気づいて、お互い眉間にしわを寄せて不快であるという意思表示をする。
火の精霊王「どうもじめじめすると思ったら、湿気の元がそこにあったか」
しずくを身体の陰に隠しながら水の精霊王が言葉を返す
水の精霊王「その割には足をぶらぶらさせて、楽しくはしゃいでいる様に見えたがな」
お互いの右手に精霊力が集中しだしたその時、二人の間に鉱石で出来た巨大な壁が現れた。
広さは巨大だが薄くできているようで、向こう側が透けて見える。
大地の精霊王「まあまあ、まずは話し合いましょう」
ニコニコしながらも、少し困って眉を八の字にしながら大地の精霊王が言う。
火の精霊王「…チッ。帰るぜ。大地のゲートを出してくれ」
大地の精霊王「ありがとうございます」
素直に引き下がってくれたことへのお礼だった。
大地の精霊王「またよろしくお願いしますね」
火の精霊王の側に大地のゲートが開かれた。ゲートの向こう側には燃え盛る炎が見える。
火の精霊王「ああ、またな」
そう言って火の精霊王はゲートの向こうに消えていった。
鉱石の壁を消しながら、大地の精霊王が水の精霊王に言う。
大地の精霊王「きっと根はやさしい方なんですよ。余計なものを燃やさないように岩の上にいたり、火のゲートも余計な火種になりうるので、気を使って使わないようにして。だから大地のゲートを依頼されたんですよ」
なるほど、とは思う水の精霊王だが、やはり火に対しては嫌悪の方が優るのだった。




