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涼の後ろには唖然とした表情でボロボロになった炎の龍王を見る水龍王と風の龍王がいた。
風の龍王「えぐい…」
水龍王「えぐいな…」
炎の龍王の惨状を見ての感想である。
反りが合わない水龍王などは普段なら「ざまあないな炎の龍王」ぐらい言いそうな間柄なのだが、その水龍王が引くぐらい炎の龍王がボロボロだった。
焔「この結果だけ見ると圧倒的に見えるかもしれないけどよ…、これでもギリギリだったんだぜ…」
事実、“一撃もらえば即死”の状況に神経を集中させての戦いだったので、見た目以上に焔の神経はすり減っていた。
そんな状態だからか、歩き出そうとして焔は躓いてしまう。
焔「おっと」
思わず涼が支えそうになるが、寸前のところで涼は回避し焔は地面に倒れてしまった。
焔が“支えてくれても良いだろう”という顔をして涼を見る。
涼がその表情を読み取って、少し笑って言う。
涼「さすがにその状態のお前を触れんよ」
焔も自身が本来の精霊王の姿であることを思い出し、“そういえばそういう間柄だったな、俺たちは。…忘れていたぜ“そう思って苦笑した。
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一行は次の目的地に向かって歩き出した。
次の目的地にもゲートで移動しようかという案も出たのだが、焔の精霊力回復を行うために、森林を歩いて移動する事になった。
ただしダメージの大きい二人、焔と炎の龍王は、颯と風の龍王がそれぞれを介助しての移動となる。
風の龍王が風をタンカのようにして、炎の龍王を載せて運ぶ。
風の精霊王、颯が後ろから焔を抱えつつ、風に乗って焔を運ぶ。
森林の中を縫うように飛んでいた颯が言った。
颯「…なるほど」
焔「どうした?」
颯「前の野ざま温泉で焔兄さんを抱えて飛んだ時にも感じたんですが、おそらく筋肉の微小な動きが起こす風が、焔兄さんの行きたい方向を教えてくれているのかもしれません。練習すれば、言葉を交わさずとも焔兄さんの行きたい方向に飛ぶように出来るかもしれませんよ」
そうやって森林から精霊力を補充しつつ、一行は直径100mぐらいありそうな大きなドーム状の山の前に到着した、他のドーム同様に入口が一つある。
焔「サンキュー、颯。歩く分には問題ないくらい回復出来たぜ。降ろしてくれ」
颯「はい」
涼「大きさの違いはあるが、洞窟の山の形が全て似ているな。もしかして全部作ったのか?」
水龍王「地の龍王が全部な。…あいつもなんか変なんだ…。この話が出たときに“張り切って戦わない宣言”しつつ、「分断が必要ね!分断しましょう!間取りはどうしようかしら」なんて妙にノリノリだし。わけがわからん。」
一行が洞窟に侵入し、一本道を奥に進んでいく。
入口付近には照明が無く、焔が指先に火を灯して松明替わりにして照らしつつ進んでいたら、奥に光る部屋が見え、話声が聞こえてきた。
指先の火を消して、足音を殺して慎重に歩みを進める。
やがて明るい部屋の入口まで到着し、中を覗き見た。
精霊大王が姫を抱きしめていた。
精霊大王「姫ちゃ~ん!姫ちゃ~ん!」
姫『父上!今はそれどころでは』
少し離れて、あきれた顔をして二人を見ている龍族大王
龍族大王「…まったく、いつまでやるつもりだ」
精霊大王「だって、これほどの期間を離れて暮らすの初めてだったし、人間は“年末年始は帰省する”っていう習慣があるらしいから、てっきり帰ってくるものだと思ってたのに…」
涼「姫がどうしても地球滞在を望まれました故。大王様も許可済みと姫御本人の言でしたのですが…」
普通に会話に入る涼。
精霊大王があっけにとられている間に、姫は抱きつきから抜け出す。
精霊大王「それ、わしは初耳…」
姫『そ、それはさておき、皆無事であったか!』
涼「我々はなんとか」
洞窟内にいた三人が新たな侵入者たちに視線を送ると、一人だけボロボロの者が風のタンカに載せられていた。
タンカ上の炎の龍王に近寄り、龍族大王が話しかける。
龍族大王「おい、大丈夫か?」
炎の龍王「…うぅ…」
龍族大王「こりゃ“大地の息吹の術”でないと…。ほっといたら数千年かかっちまうな。」
そう言ってガーネットの壁をドンドン叩き出す龍族大王
龍族大王「おーい、大地の精霊王、地の龍王、どっちでも良いから出てきてくれー。…ダメだ、そうとう壁を厚くしたな」
姫「!あれは大地の精霊王ではありません!よく似ている人間です」
龍族大王「…またまた。偵察がてらに見たゲート越しの景色には、皆と共に歩く大地の精霊王がはっきりと映っていたぜ」
苦笑いしながら周囲を見渡す龍族大王。
精霊大王「え?大地の精霊王じゃないの?たしかにちょっと幼い感じはするけど…」
きょとんとしながら周囲を見渡す精霊大王。
周囲の精霊王3人と姫がはっきりと“違いますよ”オーラを出していた。
涼「この壁の向こうですか。ガーネット…厄介ですね」
涼がガーネットウォールを触りながら言う。
姫「焔よ!最大火炎にて破壊せよ」
涼「焔は先の戦闘で、精霊力を消耗しきっています故」
姫『ぐぬぬ…こうなったら』
いったん後ずさりしてガーネットの壁から十数メートルほど離れる姫。
そして突如ガーネットの壁に向かって肩を突き出し突進を開始した。
姫『くらえ!プリンセス・タッコ―(タックル)!』
颯は素直に驚いた(姫にそのような技もあったのですか!?)
焔は記憶を探った(姫にそんな技あったっけ?)
涼は確信する(たった今思いついた、ただの体当たりですね)
そう思いつつ、姫がケガをせぬようにと、ガーネットの壁と姫の間に柔らかい水圧の水球クッション術の展開を試みる。
(涼“間に合うか!?”)
大急ぎでその術の発動をしようとした瞬間、ガーネットの壁が突如消失した。
姫『えっ!』
涼も水球クッション術をキャンセルする。
が、止まると思っていた姫は勢いそのままに突っ込んだ。
突っ込んだ先には“心ここにあらず”な感じの地の龍王がおり、
地の龍王にプリンセス・タッコ―(タックル)が炸裂した。




