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炎の龍王は明らかにイラついていた。

戦闘というのは敵を小突く事であり、それで終了するはずだ。それで大体の相手は即死して終了する。

まれに自分の身体に一撃を当てるものもいる。

相手は攻撃のつもりらしいが、炎の龍王としては触れられているのと大差ないものだった。

こちらが平然としていることに相手は目を丸くして驚き、こちらはいつものように小突いて戦闘は終了する。

たまに気が向いた時や敵が多数の場合などは炎を吐いて敵を滅する。

それが炎の龍王が“普通”とする戦闘だった。


歯ごたえのある相手というと、同じ竜種族の王たちとじゃれあう事が数百年に一度はあり、その際に水龍王がその精霊属性によりこちらの火炎の威力を減少させたり、風の龍王がスピードでこちらを圧倒したりはするが、基本的な身体能力はどの王よりも自分が秀でているようであり、火炎攻撃はどの攻撃よりも“事、攻撃力”という点では最高の攻撃力を誇っていた。

ならば、自分以上の火炎攻撃を持つであろう火の精霊王と、もし自分が戦ったらどうなるのだろうか?

今回、精霊界と戦う事となり、最も歓喜したのが炎の龍王だった。

だが同時に負ける事などは全く考えていなかった。“負けたら”などという思考を持つことを知らないのだ。龍王となるべくして生まれ、今までほぼ全てにおいて勝利して生きてきたのだから。

“負ける”という経験と知識が無かったわけでは無いが、長寿龍族の人生において幾多の戦いがあり、その中でも数えるほどしか敗北は無かった。

しかも本人は“たまたま運が悪かった”といった類の事としており、敗北を頑として受け入れず、カウントせずに忘却の彼方に押しやっていた。

炎の龍王にとっては、今回も火の精霊王を小突いて勝利するか、火の精霊王の火炎攻撃を耐えきって小突いて勝利するか。その二択の予定だった。

ところが、小突かせてくれない。予定通り小突けない。

なぜだ?

イラつきを重ねた炎の龍王が無意識に思った。

もっと大きな威力で殴れば良いのだと。

そのためにパンチのバックスイングは大きくなり、力んだパンチはスピードを落としていった。


そうこうしているうちに、火の精霊王がたまに見えなくなったりした。

“精霊が!小手先のおかしな術を使っているのか?”

だが炎の龍王が勝利のために行うことはやはり変わらない。

小突いて終わりだ。



そのはずなのだが小突けない。なぜだ。を繰り返しているうちに、右目付近にピりっとした感覚が発生する。

“ダメージ…だと”

他の龍王ならまだしも、精霊王とはいえ弱体状態の者からダメージを与えられている。

この事実に炎の龍王は激怒した。

しかし、その激怒は自身の動きを単純化させ、焔の回避を容易にさせていった。


そしてその時は訪れた。

当初は極小だった右目に受けるダメージが、数を重ねられるごとに増大していく。

驕っていた状態からの反動によるイラつきと怒り、そして未だ弱小ではあるがダメージが発生していることに対して思わず声がでた。

炎の龍王「クソが!殺してやる!」


一撃ですべて消し飛ばすための最大のバックスイングから一直線のパンチ。


焔の脳は瞬時に炎の龍王の行動を予測した。

そして焔の身体は脳が予測を完了するよりも先に反射で動き出していた。

“このチャンスを逃してはいけない”

予想されるパンチの軌道を最小限のヘッドスリップで躱し、可能な限り大きな威力の右ストレートでカウンター。

可能な限り大きな威力にするためのギリギリのヘッドスリップでは、相手の攻撃をかすめてしまうだろう。それだけで凄まじいダメージが予測されるだろうが此方の右を当てることを優先する。これを無意識で行い、

可能な限り大きな威力にするために、人の身体で載せられる最大火力を右こぶしに載せる。

チャンスどころで行おうと決めていたこれを意識して実行した。


コンマ数秒以下の時間内に、焔が意識した思い通りの行動と、焔の無意識の反射行動、両方全てが完遂された。


体重を載せた右ストレートに可能な限りの火炎を載せた拳が、炎の龍王の右目を中心とした顔面に突き刺さる。

それにより、微小に傷つけられていた瞼から極大のダメージが撃ち込まれた。


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