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悲鳴を叫びながら、涼と水龍王が交戦を続けていた洞窟に戻り飛び込んできた風の龍王。
その後に続いて出入り口から入ってきた風の精霊王-颯。
洞窟内の壁沿いを可能な限り高速で飛ぶ風の龍王に向かって、颯は変わらず真空の刃を放ち続ける。
風の龍王が通過するたびに洞窟の壁面に真空刃による傷がついていき、躱しきれていないであろう風の龍王の身体にも傷が増えていた。
(涼“かなりの高速飛行だが、流石に狭まった洞窟内では窮屈そうだな。それ故飛行コースが読みやすい”)
そう考えつつ、涼が水龍王を見てみると、水龍王は唖然としていた。
(なぜ風の精霊王が攻撃を行っている?あの優しき風の精霊王が…)
先ほど風の龍王が思った疑問を水龍王も思っていた。
涼は1mほどの氷の剣を生成し、改めて風の龍王の逃避コースを予想しつつ
涼「水龍王!」と叫んでから、氷の剣を水龍王の足に向かって狙って投げる。
はっと我に返って水龍王が涼の方に視線を戻すと氷の剣が飛んできており、反射的に後方に飛ぶ水龍王。
飛んだ先は風の龍王の逃避コースであり、涼の思惑通りに風の龍王と水龍王はぶつかってしまった。
水龍王「ぐわぁっ!」
風の龍王「いだっ!」
そのままもつれるように洞窟の壁面にぶつかって座り込んでしまう水龍王と風の龍王。
涼が追加で氷の剣を4本ほど、水龍王と風の龍王を囲むように打ち込んだ。
これにより水龍王と風の龍王は、上下左右に移動する際は氷の剣を破壊するという“スキの生まれるアクション”を余儀なくされる。
そして背中側には洞窟の壁があり、唯一移動できる前方には、すでに剣を生成した涼と、手のひらに龍巻を生成した颯が立っていた。
(水龍王“…もしかしたら更なる援軍が来てくれるかも…”)
根拠なき希望を数秒間持った水龍王だったが
涼「首を切り落としましょう。勝利を確実にしないといけません」
日常会話のトーンで涼が颯に話しかけ、一瞬だけ驚愕した颯だったが表情を引き締めて頷いた。
風の龍王「こ、降参です。参りました」
もともとかくれんぼか鬼ごっこの予定だった風の龍王が、“なぜこうなった?”と思いながらも白旗をあげた。
涼「では水龍王の首を…」
数秒の沈黙の後、
水龍王「…まいった。俺の負けだよ」
観念し、首をがっくりとうなだれて水龍王がつぶやいた。
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炎の龍王が“なめやがって”と突進してきたところにスピード重視の左ジャブを焔が当てる。
拳が接触したところに火炎を発生させるのは、邪なるものとの戦いでも行っている術だった。
少しでも弱そうなところと思われる炎の龍王の右目を狙って放ち、ヒットして火炎があがる。
面食らって止まってしまう炎の龍王。焔はフットワークで距離を取る。
炎の龍王「…なんだこりゃ?」
(焔“さしてダメージがあるようには見えない…、まあドラゴン相手だからな”)
と思いつつも、焔も半信半疑だった。
下手をすればノーダメージなのではと。
それほどまでに竜種族は堅牢な肉体を持っており、特に炎の竜種族の王である炎の龍王は竜種族の中でもさらに堅牢な肉体と身体能力を持っているようだった。
炎の龍王「こんな事がお前のやりたい事なのか?やりたいだけやれば良いぜ」
ニヤつきながら歩いて焔に近づいてくる炎の龍王。
焔「そりゃ助かるな」
冷や汗を流しながらも、フットワークと踏み込みで距離に特化したジャブをダブルで炎の龍王の右目付近に打ち込む焔だった。
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炎の龍王がなめて掛かってきたおかげもあって、焔はジャブを数十発右目周りに打ち込むことに成功した。
炎の龍王の右目瞼付近にわずかだが変色が見られ、少なくとも、微小ながらもダメージはあるように思われて一安心する焔だった。
炎の龍王「いいかげんウザいぜ!」
そう言って右手で殴ってきたのだが
肩と肘が攻撃の軌道を教えてくれる。
ウィービングでギリギリに躱してカウンター気味に右目瞼にジャブを撃つ。
(焔“炎の龍王は…今まで攻撃を躱す相手に出会わず、今まで威力よりもスピードを必要とする理由が無かったのだろうな”)
かと言って、炎の龍王の攻撃を、この人間の身体で頭部や心臓に一発でも貰ってしまうと即死は免れない。
油断のできない戦いだった。
そうやってかなりの数のジャブを重ねていく事により、炎の龍王の右目瞼にはっきりと変化が表れた。明らかに変色しているのである。
そして焔はある事に気づいた。
(焔“フットワークで左に、やつの右側に躱した時、右の眼球が追えていない?”)
勇気をもって踏み込みを少しだけ増して、少し力を載せたジャブを織り交ぜる。
当たった瞬間に歯を噛み締める炎の龍王。
(焔“そうなると次は…”)
フットワークで左に回りこむ
(焔“もし奴が見えてないのなら、きっと当てずっぽうに右手を出してくるはずだ”)
炎の龍王が当てずっぽうに右手を二回ほど伸ばしてくる。
先読みが当たったので躱すのは気持ち容易にできたが、当たると致命傷なのは変わりない。
慎重に躱しつつ、少し力の載ったジャブを、可能な限り同じ場所に当てる。
炎の龍王「クソッ」




