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涼と水龍王が対峙して数十分が経過していた。
未だ水龍王は見抜けていなかった、涼に決め手が無いことを。
(涼“地球で過ごすようになってから…違うな、もっと昔、あの時以来“考えて戦う”のを意識するようになり、地球で過ごすようになって“本来の力が出せぬ不利な状況”というケースを想定するようになった”)
この膠着状態は、その想定の賜物なのと…
人間の身体で会得した技術、教えを請い、努力して得た剣道の技術が利いている。
そう思う涼だった。
(涼“そう、技術だ。殺傷能力と身体能力では水龍王の方が上だろうが、剣を使った格闘技術では知恵殿の方が…”)
相手が踏み込もうとするタイミングが手に取るようにわかる。
そのタイミングに合わせて、相手にわかるレベルで右手首を動かす。
相手が突進を自重し、時間稼ぎを重ねることができる。
涼が意図して醸し出す緊張感により空気が固まっている。
そんな空間を壊す侵入者が、声を上げながら出入り口から侵入してきた。
風の龍王「うわぁぁぁぁぁぁぁ」
満面の笑顔で歓喜する水龍王。
援軍が来ないように思考誘導されていたところに来てくれた援軍。
水龍王は喜び勇んで出入り口の方を振り返る。
水龍王「よく来てくれた、風の龍王!」
視線の先には全身切り傷だらけの風の龍王がいた。
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数十分前、風の龍王は風の精霊王を誘いつつ洞窟から屋外に出た。
本来なら得意のスピードで“どっちが速いか”の勝負をしたい所なのだが、流石に風の精霊王相手ではスピードでかなわないのは解っていた。
本気を出せば、風の精霊王は質量0の正に風の状態になり、空気抵抗を全く受けずに飛ぶことができる。
(風の龍王“でも鬼ごっこかかくれんぼなら…、この竜族界なら僕の方が詳しいし”)
そう言って背中に翼を4枚追加し、腕に2枚と足に4枚の翼を追加した。
背中の合計6枚の翼は推進力を担当し、腕の2枚と足の2枚の翼は舵取り、足の残り2枚の翼は飛行機の垂直尾翼のように姿勢を安定させてくれる。
(風の龍王“よし、舵取り翼が4枚なら小回りで勝負が出来るだろう…”)
風の龍王が翼の調子を確かめるように左右に揺れながら飛んでいると、先ほどまで自身が居た左側を何かが追い越していった。
真空の刃だったようである。
そうでなければ自身の左手の爪先、ドラゴンの爪先が1センチほど切断されるわけがない。
風に乗って飛ぶ、それゆえに自身含め風竜一族はドラゴンの中でも質量軽めだ。
それにしてもドラゴンではあるので、爪とウロコはそれなりの強度を持っている。
今、この状況でそのドラゴンの爪を切断可能なものとなると…
そう考えると、状況証拠は真空の刃が通り過ぎた事を証明していたのだが、この推理には疑問符がつくところがあった。
(風の龍王“風の精霊王が相手を攻撃した?そんなはずは無い。あの優しい風の精霊王が攻撃なんて…”)
だからこその鬼ごっこorかくれんぼ勝負のハズだったのだが、その疑問符はすぐに解消された。
質量0による超速スピードの風の精霊王が右側に現れ、苦しみを顔に浮かべつつ、右手の手のひらを風の龍王に向けながら言った
風の精霊王「僕がしっかり戦えていれば大地の精霊王は…だから僕は甘さを無くして、戦わないといけないんです」
風の精霊王の右手のひらに発生した風の滞留が真空の刃を形成して、風の龍王に向かって放たれた。
風の龍王「うわっ!」
12枚の翼を駆使して緊急回避を行う風の龍王。
それでも躱しきれず、肩に切り傷が発生する。
急遽、高度を落とし、遮蔽物を探して地表付近を高速飛行する風の龍王だったが、遮蔽物は意味をなさず、どんどん切断されていく。
なんとか躱してはいるのだが、全ては躱しきれず風の龍王の身体には無数の切り傷が増えていった。
むしろ風の龍王でなければ、偶然回避した1撃目はともかく、2撃目以降は全て回避不可能だっただろう。
這う這うの体で回避を続ける風の龍王の前に洞窟の穴が現れた。
数十分前に自身が飛び出した洞窟の出入り口である。
他のルートを考える余裕はなく、風の龍王は洞窟に飛び込んだ。




