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やがてクルマはサービスエリアに到着し、全員を起こしてレストランにて夕食をとる。
食後におやきをデザートとして食し、行の道中で購入を決めていた”信州限定巨峰ポックィー”を土産物コーナーで購入した。
姫『野ざま菜は購入せぬのか?』
涼「士郎じょう君のおばあ様から充分な量を提供頂きました。」
姫『帰ったら、改めてお礼を何か送りたいのう』
涼「同感です。知恵殿に相談してみては如何でしょうか」
そんな会話を涼としていたのだが、会話が途切れた後に姫がしずくに視線を向けて言う。
姫『しずく、大丈夫か?食事前より顔色が悪いように見えるのだが…』
しずく「っ!お気遣いありがとうございます。問題ありません故…」
どう見ても顔色が悪いのだが、
涼「そろそろ出発しましょう」
その言を合図に皆が車に乗り込み、一行はサービスエリアを出発した。
サービスエリアの出口道路から高速道路の本線に合流し、スピードを上げて巡行を開始するクルマ。
スピードメーターは80キロを指していた。
ドライバーは引き続き涼が運転している。
視線を前に向けたまま涼が言う。
涼「姫、お願いがございます」
姫『この度の旅行はとても楽しかった。なんでも言ってみよ』
涼「士郎じょう君の延命を嘆願します」
涼の言葉を聞いた士郎じょうは、全身から汗がどっと噴き出すのを感じた。
姫『?…??…ん?』
焔「えっ!」
颯「?」
涼「じょう君」
士郎じょう「…はい」
涼「覚えているのですね?」
バックミラー越しに見える涼先生の瞳がはっきりと僕を見据えていた
もうだめだ…取り繕うことは…できない。
士郎じょう「…はい」
―
姫『…お、覚えている、とは?』
士郎じょう「…姫が転校してきて初日に、化け物を涼先生がやっつけた事とか…」
姫『そんな…ちゃんと記憶消去術は…』
涼「私も気になり、私なりに調べてみましたが、姫の記憶消去術の術式は問題ないように思われます」
焔「じゃあなぜ?」
涼「おそらく、なのですが…特異体質というものかもしれません。一部の術式に耐性があるなどの」
一呼吸を置き、涼が言葉を続ける。
涼「もしくは、彼の残してくれていた記憶消去術の術式が完全では無いのかもしれませんね。おそらく彼は理論のみを駆使して術式構築を行っただけで、人間に対して“ちゃんと術の効果があるかどうか”をテスト出来ていないと思われます。幾多の人間の中には彼の想定したケースから外れた人間がいても不思議では無いかと」
クルマは時速80kmをキープしたまま、“地元の高速出口まで残り100km”の標識の下を通過する。
涼「あるいはもっと別な理由があるのかもしれませんが、原因がいずれにせよ、じょう君が事を覚えているのは事実のようです」
息をのむ姫、焔、颯。
涼「そして姫、じょう君があの日の事を覚えているという事は、私の言も覚えていると言う事です」
姫と、そして士郎じょうも改めて、あの日の涼が言った言葉
“「秘密を聞かれている場合“最悪の手段”もやむを得ないのですが…」”
を思い出していた。
涼「それでも、じょう君は勇気をもって真実を教えてくれました。改めて嘆願します。彼の延命を」
姫が即答する。
姫『もちろんじゃ。元より、じょう殿の命を奪おうなど、そんな事をしとうない!』
姫の目じりに涙が浮かんでいた。
涼「ありがとうございます。」
-
涼がバックミラー越しに士郎じょうに一瞬視線を送る。
涼「じょう君。今から話す事はすべて内密に願います。」
士郎じょう「は、はい」
涼「と言っても、話せる事は限られているのですが…。おそらく察しているとは思いますが、我々は人間ではありません。 そして我々には敵がいます。あの日見た化け物です。その敵は、個体差はあるのですが知能を有する場合があり、故に我々の情報を敵に知られたく無いのです。我々が何者で、我々がなぜここにいるのか…いや、我々がここにいる事すら知られたく無いのです。」
淡々と話す涼の言葉を、士郎じょうはじめ、皆がだまって聞いていた。
涼「もし記憶消去が上手くいっていれば、誰かがじょう君から情報を聞こうにも“知らない”と言えるじゃないですか。その為の記憶消去術だったのですが、今聞いていた通り、どうもうまく消去できぬようです。
我々はここでの用事が済めば、いずれここを去ります。おそらく数年内には用事は終わる予定です。それまでは我々の事を秘密にしておいて下さい。知恵殿をはじめ、全ての知人…いや知人以外にもです。 お願いします」
士郎じょう「は、はい」
姫『わらわからも頼む』
姫からの言葉にもしっかり頷いて了承の返事をする士郎じょうだった。
(士郎じょう“おそらく用事というのは人探し…人なのかな?そして自分はその人に似ているのだろう。そしてそれは…“)
今までの事を振り返ってみると、そういう事なのだろうなとは思う。
そしてそれを今僕が質問しても、困ってしまうだろう。
その予想が当たっていようと、外れていようと、正しい情報を僕には伝えないというスタンスをを宣言されたのだから。
本当に情報を知らない状態でいたら、ひょっとしたら敵が“あいつは情報をしらない”と悟って、僕や周辺の人への接触自体を絶って危険を回避できるかもしれない。
たぶん涼先生はそういう意味でも情報を秘匿しておきたいのだろう。
士郎じょうはそう思い、自身もその件に関しては正誤を問わずにいようと思うのだった。
一人、サービスエリアでの休憩前から、涼がこの話をする事を聞かされていたしずく。
その顔から緊張が消え、大きく息を吐いてしずくは安堵の表情を浮かべたのだった。




