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風の王「すごい、本当に火の王が液体に浸かっている!」
尊敬のまなざしで火の精霊王-焔を見る風の王。
急に照れ臭くなり、顔を赤らめる焔。
涼「着替えを持ってくる。そのまま入浴していてくれ」
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宿の従業員が脱衣所の様子を見ようとして男湯脱衣所に入ろうとすると、中から少女が飛び出してきた。
姫『よし、食事前にわらわも温泉としゃれこむぞ!』
そう言ってそのまま隣の女湯脱衣所に入っていった。
涼「姫、屋内の移動は走られませんように願います。」
そして風の王を見て涼が言葉を続ける。
涼「この際です。入浴を経験してみてはどうですか?」
風の王「そうですね。ぜひ…」
涼が小声で風の王に話す「思わず“風の王”と声掛けしそうになりました。化身人化中の人間としての名前を必要とするかもしれません」
部屋に戻り荷物を置いてから、女性陣の部屋に行ってしずくに声掛けし、姫の着替えを持って浴場で合流を依頼した後に、涼たちも自身と焔の着替えを持参して男性側の大浴場へと向かった。
露天風呂に浸かったままの焔が言う
焔「今回はさすがにもうダメかと思ったぜ。感謝するよ。二人とも」
そう言いながら軽く頭を下げる焔。
涼「相性の悪い場所だったな。火の王にとっては」
(風の王“火の王が水の王にお礼を言って、水の王が火の王を気づかっている!”)
相性の悪い二人がお互いに気遣いしているのが嬉しくて、ニコニコ顔で露天風呂に浸かる風の王だった。
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そして姫待望の晩餐の時間がやってきた。
やはり先の食事と同様に野ざま菜をニコニコと口に運ぶ姫。
風の王は既に箸の扱いを習得しており、ここでも焔を驚かせた。
焔「すげえな。いつの間に箸を覚えたんだ?」
風の王「こちらに来て、皆様に助力する事を目標にしていましたので…。勝手ながら姫様から受領した水の王の残されし書物をがんばって読みました」
涼「そういえば焔は最初、箸の使用をあきらめて手づかみを宣言していたな」
微笑して言う涼に、顔を赤らめて焔が答える。
焔「む、昔の話だ。今はもう問題ないぜ」
(涼“そうは言っても書物を読むだけでは説明できぬことも多い。箸使いなど最たる例だ。やはり風の王は相当な努力家だな”)
風の王「ですが読書だけではままならない事もありまして…先ほど水の王とも少しお話したのですが“人間の名前として適当な言葉”というのが正直わかりません」
涼「なるほど、それは感覚に依るところが大きいですからね」
風の王「はい。書からヒントを得て考えてみても、その言葉が名前として問題がないかどうかが判断つかないのです」
姫『ならば私にまかせよ!』
姫が2秒ほど熟考してから言った。
姫『真空カッター!今日からおぬしは“江蓮真空カッター”と名乗るがよい』
風の王「わかりまし…」
涼「僭越ながら却下とさせて頂きます。人名にはそぐわぬかと」
姫『ならばハリケーンカッターかトルネードカッターはどうだ?』
涼「…級友にそのような名前の方は居られないでしょう?…」
少し考えてから涼がつぶやく。
涼「…“はやて”はどうですか?漢字で書くと “颯” となります」
風の王が姫の顔色を伺い、姫もなるほどといった顔をしていたので改めて返事した。
風の王「わかりました。しっかり覚えておきますね。ですが…」
涼は続く言葉の予想がつき、微笑しながら焔を見た。
焔は涼の視線に気づいたが、その意図がわからずアタマにはてなを浮かべていると
風の王「本格的にこの名前が必要となる前に、目的を達して皆で精霊界に戻れれば…皆で…」
焔はかつての自分の言を思い出し、赤面しながら涼から目線を外した。
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赤面をごまかす意図も含めつつ、焔が風の王“颯”に話しかける。
焔「それにしても、よくここが分かったな?住んでるところから相当離れているぜ」
颯「先日姫にお便りでお伝えした通り12月27日にお住いのお庭にゲートをつないで直接伺ったのですが、皆様が見受けられず、精霊力も感じられなかったので…」
涼が氷の顔で姫を見る。
デザートスプーンを咥えたまま、数秒間硬直した姫だったが
姫『…す、すまぬ。すっかり忘れておったのだ』
姫が素直に謝罪したことで、涼も素直にうなずいて颯に視線をもどした。
颯「それで皆様の精霊力を風で探しながら後を追ってきたのですが、段々と大地の精霊力が満ち溢れる土地になってきたので“この巨大な大地の精霊力を手掛かりに皆様で捜索に来ているのでは?”と考え、合流を優先するよりも“私は私で山々を捜索すれば、二手に分かれて効率良く捜索できる”と思い捜索していました。でも捜索しているうちに“この辺りは広範囲で大地の精霊力が強力にあふれている土地”だという事がわかって、あふれんばかりの大地の精霊力は特別な手がかりにはならない様だ、と理解はしたのです。」
そうして先ほど姫と涼と合流したのだが…
颯「理解はしたのですが…正直に言うと、嬉しかったのです。あふれる大地の精霊力を感じながら森林を飛び回るのが懐かしくて…」




