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声のボリュームを少し落として姫が問う。

姫『時に風の王、“風乗りの術”なのだが…コツのようなものはあるのか?』

風の王「…そうですね。人の世では呪文詠唱した方が安定するケースもあるのですよね。精霊王はその辺をあまり気にせずに簡単な術なら発動できますが…」


正確には詠唱なしで術を行い、状態が不安定なままで発動しても、その精霊王自身のエレメンタルなら制御が容易であり、簡単に軌道修正して安定化ができるのだった。

姫はというと、特殊な立場ゆえに詠唱をしないと術に安定感が出ない。

風の王「風乗り術の詠唱は、こうですね」

そう言って姫に詠唱呪文を教え、姫がそれを復唱すると姫の身体が空中に浮かんだ。

姫『おぉ!』

姫が数メートル浮いた時点で風の王も姫の隣まで飛び、助言する。

風の王「コントロールは感覚でわかると思うのですが…」

そう聞くが早いか、姫が空中を自在に飛び上がる。

姫『おぉぉ!これは面白い!』

風の王「お見事です。あと着地は…こうすると風がそっと地面付近まで運んでくれます」

姫が地面に接近し、Yの字のポーズをとって着地した。

姫『こうやってキレイに着地すると、得点がアップするのだ』

風の王「???」

かつてテレビで見た体操競技の話をする姫だったが、風の精霊王にはその知識が無かった。



一方、涼はゲレンデ外の坂下にあった焔のスノーボードを降りて行って回収し、雪面を波のように変化させてそれに乗って坂上のゲレンデ内に戻ってきた。

そして焔に近づいて言う。

涼「よし、服を脱げ」

焔「…何言ってんだよ…」

涼「外傷を治すのに、一度元の姿に戻るんだろう?そのスノーボードウエアーはレンタル品だからな。それにそのウエアーを着たまま姿を戻して服を燃やしてしまったら、その後に何を着るつもりだ。」

なるほどと焔は納得しながら、続けて自身でも考えた。

(焔“戦闘は行わず、姿を戻すだけならば、さほど熱を出さずに済むだろう。それなら雪山に被害も及ばないか…”)

焔がそう思い、服を脱ごうと手をファスナーに伸ばした時、

姫『水の王!今何時だ?』

自身の腹部を手のひらで抑えて空腹である事を伝えるジェスチャーを無意識にしながら姫が言った。

涼「午後6時30分です」

姫『あと三十分か…。よし風の王、焔を飛んで運べ』

風の王「は、はい」

姫『では宿に戻るぞ!』

そういって先ほど覚えた風乗りの術で飛び始める姫。

風の王が焔を抱えて後に続き、慌てて涼が3人分のスノーボードを抱えながら氷の階段を展開してその後に続く。


涼「姫、目撃者をご考慮ください!」

姫『月光があるとはいえこの闇夜の山中じゃ、都会のような明るさもないし、人出も山中にはおらん。大丈夫であろう』


顔の向きを風の王の方に向けて涼が言う。

涼「風の王、化身人化術は…」

以前通信したときに、習得済みであることは伺っており知ってはいたが、今の時点で実施できるかを再確認したのだった。

風の王「もちろん此方の世界にくるにあたり、習得しています。」

そういって風の王が目線を向けると、そちらから風が吹いてきてバッグが風に乗ってやってきた。以前、涼が渡したバッグであり、おそらく中にはその時一緒に渡した衣類が入っているのが推察された。

バッグを乗せた風が竜巻となって風の王を包み、風の王が人化した姿で服とバッグを纏って現れた。

風の王「あっと…」

焔「うわっ!」

抱えていた焔がズルリとずれて、風の王が焔を抱えなおす。

風の王「…この姿だとあまり重いものは持てないみたいです」


姫『もうすぐ宿じゃな』

山林を抜けて村の明かりが近づいてきた。

焔「じゃあそろそろ…」

焔がスノーボードウエアーを脱ぎ始める。

極寒の中を結構なスピードで飛行してきたので指かかじかんで上手く脱げない。

そうこうしているうちに宿泊している宿がせまってきた。

涼「姫、このまま村内に行くのは目撃される危険が…」

涼が言い終わる前に姫が風の王に向かって言う

姫『よし、あそこの露天風呂に焔を投げ落とすのだ!』

焔「え!」

涼「え!」

風の王「え!良いのですか?どうみても液体に火の王を…?」

姫『かまわん。火の王は入浴を経験し、克服している。大丈夫だ』


風の王「あっ!」

風の王は先の姫の言にすこしあっけにとられてしまい、わずかに腕の力が抜けて焔を離してしまった。

放り投げられながらもなんとか焔はウエアーを脱ぎ、着水間近までに元の姿にもどってダメージリセットし、再度化身人化術を実施できた。

涼は氷の階段で空中移動し、投げ捨てられたウエアーを回収した。

焔が着水する直前に、風の王は上昇気流を発生させて焔の体を軟着陸させた。


ドボンとダイナミックに入浴する焔と、その傍らに降り立つ姫、涼、そして風の王。

幸い、露天風呂含む風呂場には他に誰もおらず、比較的短時間で事が済んだので、目撃者はいないと願うしかない。そう思う涼だった。


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