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ゲレンデ外の雪はゲレンデ内の雪とは違い、すさまじく柔らかかった。

下半身は雪に埋まってしまっており、手探りで両足に固定されているスノーボードを外しはしたのだが、そのスノーボードを掘り起こすのに多大な労力を必要とし、やっと掘り起こしたスノーボードを持って雪の山坂道を登ろうとすると、足が柔らかい雪にズボっと沈む。次の一歩のためには大きく足を上げねばならない。この歩みが異様に体力を削り、疲労の割には距離が進まず、げんなりしてしまうのだった。


途中、携帯端末を取り出して涼に一応連絡を試みようと思ったのだが、なんど電話しても繋がらない。

画面を見ると電波状態を示す棒が1本か0本かを行ったり来たりしていた。

(焔“仕方ねえ…”)


やがて空が薄青く染まっていく。

道程はまだ半分ほどか、そう思ったとき、周囲に明らかな殺気を感じた。



坂の途中、林の陰に邪なるものがいた。

焔“敵は3体か”

ファイティングポーズを構える。

敵の1体の方が先に焔に気が付いていたらしく、腕を焔に向けて真っすぐ伸ばし、攻撃してきた。

焔“!、ヤバい!雪で足が…フットワークが使えねえ!”

すんでのところでヘッドスリップで交わす。

残り二体も焔に気づき、攻撃の体制を作ろうとしてきた。


雪山登山で体力を消耗し、それに伴い精霊力も消耗していた。

大地の精霊力により、いくらかは補充されるがやはり限界があった。

何よりも慣れない雪山登山で人体の方が恐ろしく消耗している。

ダッキングからのウィービング、ヘッドスリップ、覚えた技術に身体が反応し、敵の攻撃をかわしていくが…

焔“マズい、フットワークを使えないのが…思った以上にきつい。

どちらにしろこのままじゃジリ貧だ。今の姿のままでは攻撃力も足りていないしそれに回す精霊力も足りていない。“

仕方ない、イチかバチか本来の姿に戻って、最高の力で奴らをまとめて一瞬で燃やし切ってやる。

そう思って実施しようとしたとき、以前した会話が脳裏によぎった。


(前田羽美「野ざま温泉村ではスキー場の収入が村の収入のかなりの部分を占めているので、野ざま温泉村の人にとっては雪様様なんですよ。…」)

12月の初旬にした会話だった。


無意識に思ってしまう…“火の王の本気を今は出してはいけない”。

その一瞬、体が止まってしまった。

ハッとして敵の攻撃を回避しようとするのだが、数ミリほどカスってしまい体が吹き飛ばされる。

もはや体力は限界を超えており、気力でつなぎとめていたのも今の一撃で途切れてしまい、身体が言う事を聞かなくなってしまった。


もう他に手は無い。もともと代案などは無く、この状況を乗り切るには火の精霊王本来の力を出すべく元の姿に戻るしかないのだが、下手をすると半径数キロの周辺の山々から、雪が消えてしまうかもしれない。


目はかすむが朧気ながらもわかるのは、敵が自分を攻撃しようとしている事だった。

焔「くそっ!」

そう言葉を発した直後、


「見つけました!」


林の隙間という隙間から風が集合し、やがて焔の体を竜巻のごとく巻き上げて上空へ飛び上がった。

上空で風の集合体は段々と姿を変えていき、風の精霊王となった。



先にも述べたように、姫と涼は“氷の階段”で高度を稼いで精霊力を感知しようと試みた。


姫『え?』

涼「これは…」


二人とも感知したのは風の精霊王の精霊力だった。

地表付近では大地の精霊力が充満しており、そちらに紛れてしまって上手く感知できなかったようで、上空の遮蔽物のない強風下では、その強風に乗って強力な風の精霊力が感じられたのだった。


地表に戻り、姫が思わずつぶやく。

姫『風の王…』

風の精霊王「はい。ここに」

姫の発した言葉の、空気のわずかな振動を感知し、風の精霊王が姫の前に跪いた姿で現れた。

姫『おぉぅ!』

急に表れてビックリし、思わず少し後ずさる姫。


あどけない笑顔を姫に向ける風の精霊王。

その顔を見ていると

姫“…焔の捜索にこれほど苦労しておるのに”

八つ当たりの怒りがわいてきた。


姫の表情が優れないのを不思議に思う風の精霊王。

姫が怒りのままにスーパーチョークスリーパーを仕掛けようと、風の精霊王に手を伸ばそうとしたその時、思い出した。


“12月27日に風の精霊王が来ることになってたの…みんなに伝えるのを忘れていた!”


バツの悪い顔をして、思わず手を引っ込める姫。


涼「風の精霊王、なぜここに?」

確か冬休みに入ったら此方に来ることにはなっていたが、それ以降の情報がなく、涼にとっては突然の来訪と思えるタイミングだった。

そして来るにしても、なぜここ、野ざま温泉村なのか?素直に疑問に思ったことを口にした涼だった。

風の精霊王「それは…」

話の展開がマズい方に向かいそうだと姫が口をはさむ。

姫『そ、そんな事よりも焔だ。火の王が行方不明なのだ。早く探さねば』

口調により姫の狼狽を感じた涼だったが、言っている事はもっともだったのでそちらを優先した。

涼「姫の言の通り、火の精霊王の所在が不明で捜索中なのだ。助力を頼めるか?」

風の精霊王「あ…、はい!」

(風の精霊王“水の精霊王が火の精霊王を心配している!”)

なんどかゲート通信越しに二人がわだかまりなく会話をしているのを見てはいたのだが、実際の行動を眼前で見てみると感無量だった。

風の精霊王はうれしくなって思わず喜びの言葉を伝えそうになったが、言葉で伝えてしまうとお二人が気恥ずかしくなるかもと思い

(風の精霊王“口に出さない方が…良いですよね”)

だまってにっこり微笑む事のみにとどめる風の精霊王だった。


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