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山頂に到着し、一面の景色を見渡しながら涼が言う。
涼「冬季は携帯端末のバッテリーが消耗しやすいとも言われますが、バッテリー切れではなくて焔が圏外に居るものだと仮定すると…コースアウト後にさらに滑り落ちたのでは、と予想します。」
指さしをしながら涼が言葉を続ける。
涼「そうなるとこのゲレンデの右端のコースから、さらに右の外に落ちていったか、左端のコースからさらに外に落ちていったか…」
姫が瞳を閉じて精霊力感知に集中する、が、
姫『…圧倒的に大地の精霊力が充実していて、他の精霊力感知がむつかしい…』
ふと見るとリフト降り場からスキーヤーが降りて近づいてきた。
スキーヤー「どうも、ゲレンデパトロールです。もうすぐリフトが終業停止しますのでお気を付けくださいね。日没前の早めの下山をお願いします」
そう告げるとスキーヤーの方はゲレンデを滑り降り、ゲレンデ中腹のカップルの横で止まって同様の声掛けをしていた。
周辺を見渡すと人数もまばらになり、リフト降り場からは人が降りてこなくなっている。
おそらく乗り場の方で制限をかけ始めたのだろう。
空も少し暗くなっている。
涼「…もうすこし上空で感知を行ってみますか?」
姫『?飛ぶのか?ハーフパイプというやつか!?』
涼「いえ、まずは身隠しの術で万が一の目撃を防ぎ、氷の階段で飛びます」
少し待って人の気配が周辺から消えたのを見計らい、涼が身隠しの術を実施する。
周辺には霧が立ち込め始める。
涼「もし他に人間がいたら、この霧は遭難者を偶発してしまう可能性があります。あまり良策とは言えませんね」
そうは言っても他に手を思いつかなかったのも事実だった。
発生した霧の中を、涼は姫を抱えながら足裏に氷の階段を生成し、天空にかけあがる。
ある程度の上空で姫は精霊力の感知を開始し、涼も一応感知を試みてみると…
姫『え?』
涼「これは…」
―
時は遡って12時過ぎの頃、焔はゲレンデ隅の林のそばで寝転がり、大地の精霊力を全身に吸収していた。
1時間ほど前に初めてリフトに乗って山頂に到着し、周りを見てみると皆簡単にスノーボードを操作している。
涼曰く“悪くない身体能力の体”…運動神経もさほど悪くないはずだ。
(焔“意外と簡単に出来るんじゃないか?”)
その考えは滑り出して一瞬で砕け散った。
コントロールを完全に失い、あっという間にこけた。
後ろ側に倒れて、反射で手を雪面について体を支える。
雪とは柔らかいもののハズなのだが、ゲレンデの雪面は思いのほか固い手ごたえを感じ、そしてしりもちをついて座り込んだ。
少し呆然としながら思った
“全くコントロールが出来ない!非常にマズい!”。
座り込んだ姿勢のまま必死で回りのスノーボーダーを観察し、滑るのをトライしてはこける。
それを繰り返しているうちにゲレンデ中腹あたりまで滑り?降りてはきたが…
(焔“全く進歩したとは思えねえぞ…くそっ”)
そう思いながら立ち上がろうと雪面に手をついた時、手首に痛みが走った。
焔「いてっ!…」
こける度に固めの雪面に手をつくことをしていたので、ダメージが蓄積しているようだ。
一瞬ピりっと傷んだ後は、継続しての痛みは今のところはない。
(焔“一時的なものか?仮にどこかケガをしていたとしても、どこかで元の姿に戻ってしまえばリセット回復できるから…”)
気が付くと手首以外の、身体のあちらこちらから痛みが感じられる。
痛み自体は微かなものなのだが…
(焔“結構あちらこちらを痛めていたか…”)
少し休憩するか。
そう思いゲレンデコースの端に体をずらして移動する。コースの真ん中では邪魔になるかと思ったからだ。
コースの端に座り、コース外に足を投げ出して座る。
コース外の先は下り坂になっており、坂には木々が茂って林になっていた。
足の方、林の奥の方から、凝縮されたかのような大きな大地の精霊力を感じ、とても心地よかった。
背中には太陽の光を感じ、ぽかぽかと温かい。
大地の精霊力と太陽からの火の精霊力が、傷んだ全身を癒してくれていた。
(焔”こりゃいいや”)
だが至福の時間は長くは続かなかった。山の天気は変わりやすい。晴天だった空には雲がかかり、太陽を隠してしまう。
体が足の方からくる大地の精霊力を欲して、身体を前の方へ、林が茂るコース外のほうへと無意識に体をズラそうとしてしまった。
瞬間、座っているお尻部分の雪が崩れ、焔はコース外の林の中に滑り落ちてしまった。
滑り落ちる際、雪に体から突っ込み、顔面に雪の塊が接触してしまう。素肌部分に水の変化物である雪が大量に接触することで、火の精霊王-焔は気絶をしてしまった。
幸か不幸か目撃者はいなかった。
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…どれくらい時間がたったのか、一瞬だったか、長い時間だったのか、気絶していた焔にはわからなかっら。
ふと見上げると、山の天気は変わりやすく、空模様は晴天を取り戻してはいるが、日差しの力は落ちているように思われた。
(焔“日没が近いのか?”)
そして自分が滑り落ちて来たであろう方向を見上げると、滑り落ちて来た体の跡が雪面に残っていた。
焔「…仕方ねえ、登るか…」
軽くそう思いはしたのだが、そこからが大変だった。




