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ウエイトレスに注文を伝え、しばらくすると料理が運ばれてきた。

姫と涼としずくと士郎じょうは山菜おこわと信州そばのセットで、前田羽美と焔は山賊焼きと呼ばれる鶏肉料理の定食を頼んだ。こちらもミニサイズのそばがついている。

姫が苦汁を煮詰めて飲んだような表情で、野ざま菜小鉢を焔に差し出した。

姫『焔よ、こ、これを食べてしまうのだ』

(“姫が食べ物を余人に譲る!?”)

全員に衝撃が走る。

焔「よ、良いんですか?…」

姫『理由はさっきの通りである』

あまりに苦しそうな姫の表情に、そこにいる全員の思考がシンクロした。

“せめて目に映らないようにするために、先に野ざま菜を食べきってしまおう”

そう言って全員が箸を動かす。

前田羽美と士郎じょうは送られてくる野ざま菜に慣れているので“普通においしい”と感想を持ち、涼としずくは“やはり美味しい。さすが本場(近辺)なので、地元スーパーで購入する物よりは一段上か?”との感想を持った。

焔は以前、前田羽美が持参した際に食べ損ねて以来の遭遇であり、食するのは実は初体験だった。

箸で一つまみ運んで口にした瞬間に箸が止まらなくなり、一瞬で野ざま菜を食べきってしまった。

(焔“一瞬で野ざま菜が消え去った??”)

おぼろげな記憶を辿ってみると、自身があっという間に食べきった事をかろうじて思い出す。

(焔“なんだ?ただの漬物の味なのに…”)

食事という行為、味覚を味わうという行為にはかなり慣れ親しんだつもりだったが、美味しいものを食すると、まだこんなに感動を味わえる自分に少し驚く焔だった。


姫はというと、過去の苦境(野ざま菜を譲る)を振り切り、目の前の食事に集中する事にした。

箸を動かし、そばをすする。

今度はそばをすすった江蓮家の全員に衝撃が走る。

姫『なんと美味な!』

しずく「これは素晴らしいですね」

焔「美味い!」

涼「見事ですね」

前田羽美「そこまで喜んでもらえると県民としても誇らしいというか嬉しいというか…」

前田羽美が笑顔で言う。

涼「正直、そばの味でここまで差が出るとは思っていませんでした」

姫、しずく、焔が同意の意を頷きで表す。

食事は和やかに進み、全員姫に笑顔が戻った事を嬉しく思ったのだった。


食事を終えてレストランを出る。

デザートとして姫がソフトクリームを所望し、姫としずくと前田羽美はフードコートにてソフトクリーム(信州リンゴ味)を食し、涼と焔はおやきを購入した。

焔がおやきのメニューを見てある事に気が付き、涼に話しかける。

焔「おい、これって…」

涼が首を横に振って応える

涼「酷である。姫には内密にしておこう」

焔が頷いて同意した。

おやきのメニューにはラインナップに野ざま菜味があったのだった。


土産物コーナーをふと見ると、すさまじい大きさのお菓子が置かれていた。パッケージには”信州限定巨峰ポックィー”と書かれており、普通のポックィーの数倍以上の大きさの箱が置かれ、売られていた。

姫がそれに気づいて目を剥いて言う。

姫『な、なんと巨大なポックィーが…』

懇願するように姫が涼を見るが、

涼「デザートとして既にソフトクリームを食されています。自重願います」

姫『うぅ…、か、帰りにかならず迎えに来るからな』

まるで親しい人との別れかのような台詞を巨大ポックィーに向かって言う姫だった。



サービスエリアのベンチで休憩していたトラックドライバーが、背後で少し強めの風の音が聞こえたので振り返ってみると、木陰からあどけない顔の中学生くらいの少年が現れた。

少年「すいません、ここは〇〇市でしょうか?」

トラックドライバー「いやここは長野県の■■市だよ。〇〇市は県をまたいで、相当遠いぜ」

少年「そ、そうですよね。すいません。まだ日本の地理に疎いので確認したかったのです。ありがとうございました」

トラックドライバー「お、おい…」

“大丈夫かい?”と言葉を続けようとしたトラックドライバーだったが、小走りで走っていった少年が木陰に入って木の裏に隠れた瞬間、強風が吹いて木の葉が舞い散り、思わず目を閉じてしまう。

数秒の後に風は収まり、トラックドライバーはゆっくりと目を開けるが、視線の先に少年の姿は見受けられず、木の葉が数枚ゆっくりと舞っていたのだった。


食事休憩を終えて江蓮家のクルマはサービスエリアを出発した。


目に涙を貯めて巨大ポックィー信州巨峰味に思いを馳せる姫だったが、天空から現れた変化に心が踊らされ、先ほどまでの憂鬱な気持ちが吹き飛んだ。

姫『雪だ!』

ちらほらと降雪が始まり、道路わきには残雪が現れだしたのだった。



高速を降り、一般道で宿を目指す一行。

注意しないと高速道路の速度感覚に陥ってスピードオーバーで走ってしまいそうになるのをスピードメーターを意識して見る事で速度超過にならないように運転する涼。

降雪の中の運転は思っていたよりも危険を感じなかったのだが、それは路面が凍結していないからだった。

涼「今日のこの気温では路面は凍結せず濡れているだけの状態なのでまだ運転しやすいが、夜中に凍結路に変化してタイヤが氷の上を滑るようになるとかなり難しくなりそうだ」

助手席にいるセカンドドライバーのしずくに話しかける涼。

後席の前田羽美と士郎じょうに聞こえないよう小声で返すしずく。

しずく「降雪はともかく気温はコントロールが…」

涼「うむ。最悪、降雪を止めたとしても路面状況により運転は要注意だな。うまく能力を使えば、走行する車の速度に合わせて自車の目前の路面上の氷のみを水に変化させて、凍結路よりはマシな路面で運転できるかも、だが、おそらくそれによる精霊力消耗の事を考えると“普通に気を付けて運転したほうが消耗しない”と思う」

横でしずくが同意の頷きをした。


高速を降りてから30分ほど走行し、一行は野ざま温泉村に到着した。


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