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12月27日の朝、江蓮邸に士郎じょうと前田羽美が来訪した。


数日前、スタッドレスタイヤの用意ができ、長野旅行の段取りが出来たのでその旨を伝えて、よろしければ乗っていかれませんか?と二人をお誘いしたところ、願ってもないとの返事により同乗して行くこととなった。


見送りに来ていた士郎知恵がお礼を述べる。

士郎知恵「ありがとうございます。新幹線代もバカにならないから、とっても助かるわ」

前田羽美「本当です。ありがとうございます」

涼「こちらこそ、常日頃お世話になっている事を思うとささやかなお礼ですが…。前田さんも野ざま温泉村で良かったのですか?」

前田羽美「はい。地元の友人からゲレンデで遊ぼうと誘われたので、おばあちゃんにお願いして、私も今日と明日はおばあちゃんちに泊めてもらうことになりました。」


士郎知恵「夜間だと路面が凍結しやすいけど、今からだと太陽が出ている間に到着できるわね」

涼「ええ、カーディーラーの方にもそれを推奨されました」

士郎知恵「では、すいませんがよろしくお願いします」


クルマをガレージから出してしっかり戸締りをし、一行は長野に向かって出発した。



数分後、江蓮邸の庭に風のゲートが開き、年のころなら14歳くらいと見られる少年が現れた。

少年「あれ?」

精霊姫と精霊王たちの気配がしない…


少し考えを逡巡した後、

少年がふっと息を吐いたとたん周囲に強風が吹き荒れ出す。

その強風の流れに乗って、少年は姫の精霊力を感知する事に成功した。

少年「…こっちか」

つむじ風が巻き起こり、少年が姿を消した。



高速道路を走行し、一路、長野県北部の野ざま温泉村を目指す一行は、車窓から見える景色の雄大な山々に圧巻されていた。


士郎じょうは何度か親のクルマに同乗して見た経験はあるのだが、それでも長野の付近の山々には特別な雄大さを感じてしまい、毎回息を飲み目を奪われてしまう。

士郎じょうでそれなのだから、初めて見る江蓮家の4人は推して知るべしだった。

感動して声が出ない。そんな様子が面々から見て取れる。

唯一、運転手の涼だけが“運転に集中せざるを得ないために景色に見とれる事が許されない”、というある意味不幸な状況にいるのだった。

前田羽美「長野に住んでた時は特に何も思わなかったんですけど、久しぶりに見ると“長野の山”ってなんか特別な感じがします。これも身びいきなのかな?」

姫『いえ…凄いです。凄まじい大地の精霊力を感じます』

前田羽美「そうだね。精霊さんとか妖精さんとか居ても可笑しくない景色に思えるね」

景色に見とれて素の会話をしているであろう姫と、あくまで架空の存在としての会話を行う前田羽美。


焔さんやしずくさんは景色に目を奪われて、あまり姫と前田羽美さんとの会話を聞いていなかったようだった。

少しドキッとした僕、士郎じょうの様子をバックミラー越しにサングラスの涼先生が見ていた気がした。

少し冷や汗が出た。



出発してから4時間が経過した。

このクルマには2時間ごとに休憩を推奨するメッセージがディスプレイに表示されるようになっている。2時間前の休憩で運転手は涼からしずくに代わっており、再度2時間が経過して休憩を推奨するメッセージがクルマのディスプレイに表示された。

涼「次のサービスエリアにて再度休憩を行い、運転を交代しよう」

しずく「はい」

姫『そしていよいよだな!』

昼食である。

出発数日前にしずくが弁当を準備しましょうかと提案したのだが、

姫『たまには外食で良いではないか』

と言い、涼が

涼「出発当日や前夜にドライバーへの負担を強いるのも悪手だ。姫もこう言ってくれているのだ」

と言う事でサービスエリアでの食事を経験しておこうという事になった。


クルマが指示器を出して高速サービスエリアに侵入し駐車スペースに車が停車する

さあ食事だ!となったこの時、姫は予想外の葛藤に直面したのだった。


まずは屋台が並んでいた。

姫『おお!』

涼「見たところ屋台は軽食がメインのようですね。しっかりとした食事を行いますので中のレストランに向かいましょう」

中に入ると御土産を販売しているエリアがあり、フードコートになっているエリアとレストランのエリアがあった。

姫『おおっ!!これは』

フートコートには料理写真が貼られており、レストランは入口横のショーウインドウの中に食品サンプルが置かれていた。

フードコートとレストランを行き来して、吟味に吟味を重ねる姫。

涼が前田羽美と士郎じょうに「申し訳ありません。しばしお待ちください」と苦笑しながら伝え、

前田羽美&士郎じょう「はい」

微笑ましく様子を見守る前田羽美、自身もメニューに悩む士郎じょうだった。

姫『どちらも甲乙つけがたい…むぅ…』


さらに姫の思考を混乱に陥れている事案がもうひとつあった。

フードコートとレストランのどちらにも“全てのお食事には野ざま菜の小鉢がつきます”と表示されていた。

姫『うぅ…野ざま菜の小鉢…』

焔「…そこで何故悩まれるのですか?」

姫『せっかく本場中の本場の目前まで来ているのだ。せっかくならそこで全身全霊全力で野ざま菜を味わいたいではないか…』

(涼“ここまで産地と近ければ、産地直送で変わらぬものを提供されているとは思うのだが”)

そういったしばしの葛藤を経て、意を決してレストランに入店した。


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