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焔「おつかれ様です」
バイトを終えた焔が帰宅すべく店を出て江連邸方向に歩み始めた。
店を出て少し歩いたところで、携帯端末が振動して着信を知らせる。
ポケットから端末を取り出して通話を開始する焔。
焔「もしもし…で始めるんだったよな電話のやりとりは」
涼「ああ、最近はあまりしないタイプの電話挨拶だがな」
焔「どうした、何かあったのか?」
涼「端的にいうと、おそらく奴らが出た。」
焔の顔が険しくなる
涼「バイトはもう終わって、今は帰宅の途中だな?」
焔「ああ、どこだ?」
涼「帰宅途中に〇〇町交差点と書かれた信号機があるだろう。その交差点から山の方に伸びている道があるはずだ。その山に向かう道の中腹ぐらいにて網にかかった感覚があった」
焔が見上げると、ちょうど数メートル先が〇〇町交差点だった。
焔「わかった。行ってみるぜ」
そう言って通話を切り、焔は山の方に向かう。
途中“見つけられるのか?”という不安がよぎったのだが、その不安は稀有に終わる。
程なく教えられた道を山頂の方に向かって進むと、車道から外れたところに歩行者専用の道があり、街灯が照らす灯りの下に“邪なるもの”が2体いるのを発見した。
前に交戦したときのように、こぶしの先から火球を飛ばして攻撃しようかと考えたのだが、
“万が一、やつらのスピードが速くて攻撃を外しちまったら、周辺が火事になっちまう”
焔がそう考えるとほぼ同時に、敵は焔に気づいて腕を伸ばして攻撃してきた。
反射的にフットワークとヘッドスリップで攻撃を躱す焔。
(焔“遅い!いける!”)
正確に言うと遅いのではなく焔が早くなっているのだった。判断と反射が圧倒的に早くなっており、相対的に敵の動きを遅く感じるようになっていたのだが、焔自身はその事に気づいてはいなかった。
そのままスルスルと攻撃を躱しながら敵との間合いをつめ、左ジャブと右ストレートのワンツーを2体の敵に一発づつあてる。
あたるインパクトの瞬間に、こぶしの先に可能な限り高温の炎を発生させており、パンチが当たった瞬時敵は燃え上がり、瞬く間に燃え尽きて消え去った。
敵が消え去った後に焔の背後で拍手が鳴り、ファイティングポーズのまま焔が振り向くといつの間にか霧がかかっており、霧の中から涼が現れた。
涼「フォローが必要かもと思って来てみたんだが、心配は無用だったな」
焔「敵の気配は?」
涼「もう居ない」
焔がファイティングポーズを解いた。
涼「しかし見事だったな」
焔「以前見せてくれた“氷の剣を顕現させてすぐに消す技”と似たような事ができないか、部屋でシャドーボクシングやるときに考えていたんだ。」
涼「それなら人間に目撃される可能性も少なくなるな」
焔「あとやってみて解ったのは、攻撃を当てる事だけを考えたら、火球を撃つよりこっちの方が正確性が高いな。ただ距離を縮めないと届かないんで、それはそれで大変なんだが…」
そんな会話を交わしながら、帰路につく二人だった。
その日以降、何度か涼の張る網が邪なるものを感知し、焔が、あるいは涼自身が、もしくは二人で対処する事があった。
何度目かの戦闘の後、帰宅途中で二人が会話を重ねる。
焔「しかし大した精度だな。しっかり敵の出現を感知しているじゃねえか」
涼「…それはどうかな?」
焔「どういう事だ?」
涼「もしかしたら感知できているものだけを対処していて、感知できずに見逃している敵がいるかもしれない」
焔「!そ、そういわれればそうか…だが近隣で“バケモノの目撃した”とか“怪物に襲われた”なんて話が出てないなら…」
涼「…そうあってほしいものだな」
焔「それとは別に、ちょっと思っていることが二つほどある」
涼「なんだ?」
焔「一つは…今のところありがたい事に、人気の少ない場所で、かつ日没後の暗い時間での戦闘ばかりなので、人目を気にせずに戦えてるんだが、それでも人間が全くいないなんてシチュエーションが続いているのはラッキーな偶然が続いているだけだ。」
涼「そうだな、なるべく二人で対処に向かい、身隠しの術を併用できるようにしよう」
焔「こっちにもその手の術があれば良いんだが…ちょっと思いつかないな。すまねえ…」
涼「適材適所という言葉がある」
そう言って涼は口角を軽く上げる。
焔「今度調べておくよ。」
そう言って焔もにっこりと笑った。
焔「もう一つは、毎回場所を言ってもらって耳で聞いて探すか、メールを読んで探すかでやってるのが、正直むつかしい」
涼「たしかに、説明するこちらも大変だ」
一度、かなり入り組んだ場所に敵が出現した時は、文字だけの説明では埒が明かず、結局合流してから対処に向かった事もあった。
涼「それに関してはこちらでも考えていた。…今、試しのメールを送ったので見てみてくれ」
焔の携帯端末が振動し、メールの着信を知らせる。
焔がメールを開くと
焔「なんだこりゃ?」
意味不明な文字と記号の羅列が並んでいた。
涼「地図のアドレスだ。タップしてみてくれ」
焔が涼の言う通りにタップすると地図アプリが起動し、目的地が地図上に記されてそこまでのルートや所要時間、さらには“次の交差点を右折”などの案内まで、至れり尽くせりな情報が表示されていた。」
焔「…すげえ…これは?」
涼「人間が科学によって生み出した技術だな」
涼の言を聞いた時、焔はかつて聞いた言葉を思い出した。
(涼“人間の知恵と工夫によって生み出された科学の力だ。人間界には科学の力があふれている。科学の力はあなどれんぞ…”)
焔“まさかこんな形で思い知らされるとはな…”
思わず苦笑いをする焔だった。




