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日曜日、午前は恒例の武道トレーニングを行い、午後、昼食会は行われずに解散となった。
江蓮邸の全員で徒歩にてカーディーラーに向かう。
やがて大きい道路沿いにディーラーの看板を見つけた。
かなり大きな店舗であり、それ故に試乗車も多く用意できるとの事。
試乗予約の旨を店員に伝えると、担当者が呼ばれてきて挨拶を躱し、早速試乗を行う事となった。
試乗を予約した車両は4台。
1、乗用車タイプで定員5名。
2、小型ミニバンで定員6名。
3、ミニバンで定員7名
4、高級ミニバンで定員7名
試乗はディーラーの担当者を含めて5人乗車で行った。
一通り4台の試乗を終えて、ディーラー内のテーブルにてディーラー担当者と話し合いが行われる。
ディーラー側から飲み物と茶菓子が提供され、姫はそちらに集中していた。
焔「定員5名は正直きつかったぜ。運転手はそうでもなさそうだが後ろ3人は窮屈だった」
しずく「定員6人と7人のミニバンは大きさに違いはありますが、試乗してみて運転のしやすさには大差を感じませんでした」
ディーラー担当者「普通車と比べるとさすがに若干の違いはありますが、大きくても乗りやすいクルマを目指して作られています。むしろミニバンの利点として“少し上から見下ろす”というのが、普通車の低い視点よりも乗りやすさに貢献していたりします。実感は得づらい利点なのですが…」
しずく「言われてみれば…なるほど。納得です」
涼「そうなると後は…」
普通のミニバンか高級ミニバンか、なのだが涼の中ではすでに高級ミニバンに軍配があがっていた。多くの機能が標準装備であるのでその点に懸念が無くなるのと、乗り心地にかなりの差があった事がその理由だった。乗り心地に関してはしずくから「運転手すら眠気を覚えるかもしれませんね。この快適性は」との意見が出ており、涼も同意見であるほどの素晴らしい乗り心地だった。短い試乗時間の間に後部席で姫は熟睡しており、焔も眠ってしまっていた。さらにはディーラー担当者も眠そうにしていたが、そこは仕事なので頑張って耐えている。そんな様子だった。
因みに予算に関しては先に述べたように江蓮邸ではかなりの貯蓄額があるので、予算の上限は一応決めてはいたが高級ミニバンが2台は買える額で設定しており、“必要であれば”その何倍かは余裕で用意できる貯蓄があったため、予算設定は有って無いようなものだった。
帰宅して再検討する旨をディーラーの担当者に伝え、ディーラー店舗を出ようとした時、しずくが入店時にも一度足を止めた場所で、再度足を止めた。
展示車両の1つの、あるスポーツカーの前だった。
他のメーカーと共同開発で作られたクルマとの事であり、以前パンフレットで見た別メーカーのオープンカーに負けず劣らず、こちらも流麗なデザインが美しいクルマだった。
ディーラー担当者「開発者たちにとって“自分たちが乗りたくなるようなカッコいいクルマ”がコンセプトの一つになっているのでデザインはかっこいいのですが、その分乗車定員が…正直カタログの乗車定員4人は、大柄な方では厳しい人数になってしまいます」
立場上“無理”とは言えないディーラー担当者がかなり苦労して湾曲した表現でもって、正直に思っている事を伝えようと努力してくれた。
確かに後部座席と称されている部分は、人が乗れるような充分なスペースとは思えず、乗車定員2名と“ちょっとした荷物置きがあります”という方が正直で良いのではと思われるほどの小ささだったが、
ディーラー担当者「ご家庭の旦那様がこのクルマを欲しても、乗車定員2名だと奥様が難色を示される事が多々あるようでして…」
と続くディーラーの言が図らずも疑問の答えを述べていた。
しずく「もとより乗車定員6人以上が目標で、最低でも5人以上が最低限ですので…」
そう言ってはいるのだが、しばらくはそのスポーツカーを見続けているしずくであり、そんなしずくを複雑な表情で見つめる涼だった。
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帰宅後、涼がパソコンを開くとディーラー担当者から“本日のお礼”という旨のメールが届いていた。
大きな金額の買い物をして頂くための努力を全力で行っているという事、すこしでも気持ちよく高額の買い物をしてもらうための努力なのだろう。流石は世界有数のクルマ会社だと思う涼だった。
続いてパソコンにてウェブサイトを開く。
改めて今日試乗したクルマの情報を再確認しようとしたところ、ふとした事を思い出し、ブックマークのページをクリックして表示させた。
クルマ購入を検討しだした初期の頃は、最も防御力の高いクルマはと調べてみたところ“防弾車両”というものにたどり着いた。たどり着きはしたのだが、調べを重ねていくうちに普通の民間人では購入が難しいという事も発覚した。海外、国内の両協力者達は“少し頑張れば用意できますが”と言う事だったが、そこを押してまで用意するべきかと問われると、返答は難しかった。
“そのようなクルマを必要とする人物”として見られ、注目されて調査されるのはデメリット以外の何物でもなかったのだ。
江蓮邸で最初に購入するクルマがそれだとなると、他人から見たらどう考えても怪しさ満載である。
加えて“防弾車両”のインターネット画像を見た焔が、
焔「普通の人間の武器とか使った攻撃なら防げる前提なんだろうが、“邪なるもの”のあの攻撃には…。普通のクルマより少しはマシな程度に思えるな」という意見であり、涼も同意見だった。
故に“防弾車両”は早々に購入候補車両から外される事となった。
涼「だが少しでも丈夫なクルマをと考えるとやはり…」
その日の晩餐では涼から「高級なミニバンを購入しようと思います」という旨が皆に伝えられ、満場一致で賛成された。




