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焔がコンビニでアルバイトを始めてから数日が経った。

数日と言っても週に2日から3日ほどしか入れないが、割と要領よくこなしていく焔だった。

“学生の本分は勉強である”

オーナーが娘に対しても思っている事であり、学生には勉強を優先させられるように融通がきくシフト対応を行うようにしている店だった。

加えて、先日やめた3年生男子はさぼり癖があるようで、よく無断欠勤をしていた。

それと比べると、短くともシフトに穴をあけずに、入ると言った日にはちゃんと入ってくれる焔の方が、雇い主側、シフトを組む側としては遥かにありがたい存在だった。


他にメリットとして“このコンビニには高校3年生に勝った1年生がいる”という噂(事実?)が流れ、ガラの悪い客層が減ったように思われた。


あとは、微々たる事なのだが、「あのサングラスにマスクのお客さんは…本店バイトリーダーの春香さんじゃないか?」という目撃情報が支店店員の間で話される事があった。もちろんお客様だったとしたら失礼になるので確認する術はないのだが、焔がバイトに入る日で、バイトリーダーが本店にシフトが入っていない日は、かなりの高頻度で目撃情報が上がったのだった。



学校にて女子3人が休み時間に雑談していた。

野原 秋奈「良かったね。支店とはいえバイト仲間じゃん」

葵 奈々子「急接近だね」

葵 奈々子はこの手の話が好きなのだろう。少し興奮気味で言った。

対して桜 春香の方は少し曇った顔をしていた。

桜 春香「…うん」

野原 秋奈「どうした?浮かない顔して」

桜 春香「お客さんが増えた気がするって支店の子たちが…」

野原 秋奈「お客さんが増えたんだったら…バイトの子達は忙しくなって大変かもしれないけど、オーナー側としては喜ばしい事なんじゃないの?」

桜 春香「ガラ悪いのが減ってよかったと思ってたら…女性客が増えたみたい」

そう言った後、桜 春香は力尽きたように机に伏せてしまった。


葵 奈々子・野原 秋奈「あー…」

葵 奈々子と野原 秋奈が“さもありなん”といった顔をした。

桜 春香「まだ数日なので顧客情報管理システムには誤差レベルの情報量なんだけど、支店の店員さん達の体感としては、全員そう感じてるって…」

机に伏せったまま力無い言葉で発言する桜 春香。

友人二人はそんな彼女に掛ける言葉を見つけられなかった。



江連邸の居間にて歓談中、姫が口を開いた。

姫『いつクルマを購入するのだ』

一刻も早く野ざま菜に行きたい…もとい、野ざま菜の産地である野ざま温泉村に行ってみたい姫が焦れて放った言葉だった。

涼「なかなか難しい買い物なのです」

焔「店に行って“クルマ買う”って言って、金を払う、で良いんじゃないか?」

かつて服と靴を購入した時の経験をそのまま言う焔。


しずくが居間にある棚の引き出しから冊子の束を出してきて机の上に置いた。

涼「これほど種類があるのだ。これでも一部だ」

焔「なんだこりゃ?なんでまたこんなに種類があるんだ?」

涼「それを調べてはいるのだが、同じクルマのように見えても機能に細かな違いがあるようなのだ。勉強不足だと必要な機能が付いたクルマを購入出来ないかもしれない」

姫『簡単な事よ!全ての機能がついたクルマを購入すれば良いのだ』

涼「全ての機能が付いているクルマというのは無いのですが、一番多く機能が搭載されているというクルマがこれです」

パンフレットを一つ選び、姫と焔の前に置く。

涼「価格がこれです」

涼が指差す先にはそのクルマの最上級グレードの価格が書かれていた。

焔「おい!なんかの間違いじゃないのか?こっちのパンフレットは…ほら、それの3分の1以下の値段だぞ」

姫『でかした焔。そっちにしよう。差額で美味しい物を…』

涼「必要な機能がついていない可能性があります。その前段階で“何が必要な機能か”を見極めきれていないのが現状です」


その時、しずくは別のクルマのパンフレットを見つめていた。

某メーカーの代表作であるオープンカーのパンフレットであり、赤い車体の写真が印刷されているページだった。

そんなしずくに気が付いた涼が声を掛ける。

涼「気になるのか」

しずく「はい…あ、いえ、少し前に“赤いスポーツカーで森林を走る”といった歌謡曲が流行したのを思い出したので…」

正確にはその歌に登場するクルマは外国産の別のクルマであり、しずくが見ているパンフレットのクルマは国産車なのだが、このパンフレットの国産車も流麗なデザインが素敵なクルマだった。

涼「無粋を承知で言うが、我々にとっては“少し前”の感覚なのだが、一般の人間にとってはかなり昔の曲なのだ。外部の人と会話する際は注意してくれ」

しずく「これは…失念していました。失礼しました」

めずらしくしずくが頬を少し朱に染めた。

涼「あと、すまないがそのクルマは…」

しずく「そちらは承知しております」

パンフレットの“乗車定員2名”と書かれている所をしずくが指で差した。

姫の警護を目的とするならば、護衛が充分に乗車出来ないクルマは候補から外さざるを得ないのだった。



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