35
この焔への襲撃事件はそれなりの騒ぎになり、教師の耳に届いて聞き取り調査が行われたが、先に襲撃してきたのは男二人である事と、焔は終始一貫して躱し続けていて攻撃をしなかった事、以上の2点が見ていたクラスメート全員で一致しており、焔には特にお咎めは無かった。
男2人は高等部3年生との事だが、それ以上の情報はすぐには得られなかった。
男2人に何故襲撃したかを教師が聞き取り調査したが「気に入らなかったから」と繰り返し言うだけで、ここでも語彙力の無さを発揮していた。
襲撃事件の目撃情報は充分に集まり、焔に非が無いのは明らかとなったが、では男2人の処分をどうするかとなると、こちらは証言はあるが明確な証拠がなく明確な被害もない。そして当の焔が「別にいいっすよ。俺が暴力ふるっていないのが判ってくれるのなら(前田さんや士郎さんちの迷惑にならないのなら…)」と処分を望んでおらず、男2人の処分は厳重注意で留まる事となった。
学校の処分としては厳重注意で留まったが、
“1年生の教室に出向き、手も足も出ず、手も足も出されずに敗北した3年生”、
というある意味非常に厳しい処分が科せられる事となった。
―
襲撃事件の数日後、焔は教室でクラスメートと雑談していた。
最初は6~7人の男女で集まって話をしていたのだが、用事で何人かの男女が抜けて男が焔のみ、女子が3人になった時点で、女子が3人で顔を見合って頷き合い、女子の一人が少し紅潮した顔で、意を決したかのように話し出した」
桜 春香「あ、あのね、あくまで聞いた話なんだけど」
焔「ん?なに?」
桜 春香「とある女の子がね、あの3年男子の一人とバイト先が同じで、数か月前に告白されたんだけど…振ったの。だって「俺は喧嘩が強い、だから俺と付き合え」って意味が解らないでしょ?。それからしばらくして、その女の子がバイト先で「かっこいい転校生が来た」って言ってたのを、その男の耳に入ったみたいで…」
話が進むにつれて桜 春香の顔色は紅潮から少し青白い顔色に変わっていた。
目には薄っすらと涙を浮かべ、若干テンパりながらも桜 春香は話を続けた。
桜 春香「だから、それが襲撃の原因なのかもしれないの…ごめんなさい!」
そう言って腰を折る桜 春香。
焔は少し考えた後「まあ良いんじゃないか。あれだ、ほら、結果オーライって言うんだろ?こういうの」
(慣用句ってやつはまだ慣れないな)
焔がそう思っていると
桜 春香「あ、ありがとう!」
桜 春香がお辞儀をし直してお礼を言い、少ししてから背中を見せて焔からちょっと離れた。
桜 春香の友人の一人である葵 奈々子がその背中を摩りながら「頑張ったね。うんうん。」と頷いていた。
少し離れた桜 春香と葵 奈々子の背中を見ながら、野原 秋奈が焔に話しかけた。
桜 春香と葵 奈々子と野原 秋奈、三人は特に仲が良いようで、良く三人で行動しているのが見受けられた。
野原 秋奈「この話は内緒にしておいてほしいの」
焔「ああ、いいぜ」
野原 秋奈「あと、焔君はこの手の話に疎そうだからあえて言うけど」
野原 秋奈が少しいじわるな笑みを浮かべた気がした
野原 秋奈「“とある女の子”が誰なのか…“かっこいい転校生”が誰のことで、“「かっこいい転校生」と発言したとある女の子って誰なのか”、そして何故春香があやまったのか、決して深くは考えないであげて。わかったとしても、そこも含めて内緒にしてあげてね」
野原 秋奈がクスクス笑いだした。
焔は深く考えず「内緒にしておきゃ良いんだろ。OK、わかったぜ」と即答し、野原 秋奈は“本当に深く考えてないのが見て取れる焔”に拍子抜けして唖然とするしか無かった。
―
帰宅後、夕食の席にて
涼「目立ってしまったのは頂けないが、他に最適な方法があったとも思えんな」
女子との内緒の部分以外を焔から聞いての、襲撃事件に対する涼の感想だった。
もちろん保護者扱いとなっているので逐一報告と情報は関係各所や本人から入ってくるのだが、終息した時点での改めての感想だった。
涼が話題を変える
涼「話は変わるが…高等部に“彼”は感じられるか?」
焔「校内全部周って全員を見たわけじゃないが、気配は感じられないな」
涼「用もなく私や姫が高等部に行くと怪しまれる。そちらはよろしく頼む」
焔「ああ」
涼「…今一度、精霊界に連絡を取ってみるか」
そう言って全員で庭に出た。
涼が水の結界術をコントロールし会話が敷地外に漏れないようにする。
涼「ではゲート術の方は姫にお願いします」
涼にとって結界術をコントロールしながら同時にゲート術を行う事は造作もない事なのだが、姫にゲート術を訓練して頂く意味での術の依頼だった。
。
姫が呪文を詠唱すると庭の池がゲートになった。
水のゲートは行き来も出来るのだが、行き来をせず、姿を映して声だけをやり取りする、テレビ電話のような使い方も出来る。
姫『もしもし、精霊界ですか?』
日本式の電話挨拶がすっかり板についており、最初は困惑していた精霊界側も日本式に慣れてきていた。




