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放課後、校門前で姫と涼と合流する焔。
涼「なんか、げっそりしてないか?そんなに大変だったか。まあ初日だからな。そのうち慣れるだろう」
焔「…これ慣れるのか?昼休憩が特にきつかったんだが…」
(涼“昼休憩までの授業がって事か?”)
涼「私はもう少し仕事がある。姫の帰路の護衛は頼むぞ」
最近は敵の出現頻度が上がっているように感じ、今まで姫を一人で帰らせぬように色々と手を打っていたのだが、仕事の都合でどうしてもおひとりでの帰宅になってしまう場合があった。
涼「もちろん“網”で感知したら駆け付る。よろしく頼むぞ」
そう言うと涼は振り返り、校舎の方に戻って言った。
そして実は、毎週この曜日は“どうしても先に帰る”と言ってきかない姫であった
姫『では帰るぞ!』
そういって全力ダッシュを開始する姫。
一瞬あっけにとられて、慌てて姫を追いかけだす焔。
あっと言う間に江蓮邸に到着し、玄関を勢いよく開ける。
姫『帰ったぞ!しずく!』
しずく「おかえりなさいませ」
玄関で待ち構えていたしずくが正座し三つ指をついて出迎える。
まず洗面所に向かい、手洗いうがいを行って、その足で居間に駆け付ける。
姫が居間に到着した瞬間に、居間に先回りしていたしずくがテレビの電源を入れた。
既にチャンネルが合わせられており、数秒後に番組が始まった。
姫『間に合ったか…』
しずくが用意していた湯呑にお茶を注ぎ、姫の前に出す。
テレビからナレーションが流れる
「前回までのあらすじ、ついに真犯人を追い詰めた探偵だったが苦し紛れに犯人が放った必殺ビームを受けてダウンしてしまう。ダウンカウントが進む中、朧気な視界の中に現れたのは白馬に乗った紫の足長タキシードおじさん仮面、初恋の人だった。なんと初恋の人は魔法で白馬に変えられてしまっていたのだ。果たして二人の恋の行方は…」
姫『むう、ここからどうなってしまうのか…』
姫が手に汗握り、画面にくぎ付けになっている所で焔が遅れて入室してきた。
一緒に隣で見ていたが、続き物のテレビ番組を途中から見る事になってしまっており、状況がよくわからず、今一感情移入できない焔だった。
―
焔が学校に通うようになってから数日が経った。
学校生活にも大分慣れてきており(女子の興味が落ち着いて来た事も大きい要因だが)、かなり余裕をもって過ごせるようになってきた。
女子だけでなく男子とも話をするようになり、普通の高校生活を過ごしていた。
女子「前にいた国でもやっぱりモテた?」
焔「モテるっていうのが実はよくわかんないんだ」
女子2「あきらかに美形だと思うんだけど」
男子1「お国が違えば基準もちがうもんなのかな」
他愛もない会話をしていると教室のドアが開いた。
男が二人立っていた。
同じ制服を着ているので同校の男だろう。その男の一人が口を開いた。
男「江蓮焔ってのはいるか?」
焔「俺だが…誰?」
男「ちょっとツラかせや」
焔「ツラかせ…たしか同行してくれって意味のスラングだったよな。なんで?」
男「いいからツラかせや!」
焔「いや、だからなんでだよ?」
男「いいからツラかせや!!」
焔「いやだから…まずは用件を言ってくれ」
男「いいからツラかせや!!!」
(焔“なんでこの男は同じ言葉を繰り返すんだ?俺の日本語合ってるよな?”)
相手の語彙力の無さが原因なのだが、自身の日本語が不安になる焔だった。
焔「だから…用件を言ってくれ。ここで聞くから」
語彙力の無い男が切れて飛び掛かってきた。
日々のボクシング練習による効果なのだろう。
焔の思考が加速し、相対的に周りの動きがスローモーションになる。
“いきなり右でなぐるのか”
“ジャブもへったくれもねえな”
“左へ躱しておくか”
“躱しざまに、2発か3発はパンチ当てられるな。まあ暴力厳禁なんでやらないけど”
男は自分の俊敏な(と男が思っている)パンチが躱されるとは思っていなかったらしく、きょとんとした顔で焔を見た。
数秒後に躱されたことを自覚し、男は顔を紅潮させて再度焔に飛び掛かった。
“クセで手を上げてガードを構えそうになるけど、構えると余計怒りそうだな…なるべく手は構えないようにするか”
“しかし遅いな。というかいつもの相手が速すぎるからそう感じるのか”
“イスと机が邪魔だな。まあいつも戦いやすい所で戦えるわけでもないだろうしな”
“少しでも広いスペースがある教室の後ろの方に向かって躱すとなると、こっちか”
見ていたクラスメートはスルスルと躱す焔を目の当たりにして驚愕しつつ唖然とし、対峙している男にとっては、焔が目にも止まらぬ速さで躱しているように見えていた。
それでも顔を赤くし突進を継続してくる男。
視界の端の方で男と同行してきたもう一人の男が動く気配が感じられ
「なにやってんだ!」
男の同行者が予想通り参加してきた。
“いいぞ。“邪なるもの”と戦う時は、1対1とは限らねえからな”
”1対2となると、工夫が必要だな”
“え?…お前も右からパンチ?”
“……”
早々にあまり工夫の必要がない事を感じて焔は少し落胆した。
人数は2人だが、いつも練習で対峙している前田羽美とのスピード差があまりにもありすぎるのだ。
“あんま訓練にならねえぞ…どうしたもんか”
スルスルと躱しながら考え続ける焔。
その間も飛び掛かってくる男2人だったが、普段運動をしていないのか、息が上がってきていた。
妙案?を思いつき、見ていたクラスメートたちに焔が声を掛けた。
焔「みんなも掛かってきてくれ。あと2人くらいなら躱し続けられそうだ。それぐらいでないとトレーニングになりそうにないんだ」
?
見ていたクラスメート全員、脳内がハテナで埋め尽くされた。
クラスメートの薄い反応に焔が“あれ?”と思っていると、
男2人が床にペタンと座り込んでしまった。
汗だぐになり、苦しそうにハアハア、ゼーゼーと肩で息をしている。
焔「お、おい、まだ2分くらいだろ?ほら立って続けてくれ」
やがて男二人は苦しい様子を見せながらも四つん這いになり、そのまま教室のドアから四つん這いで出て行った。




