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そのような会話をしながら駅からの帰路を歩んでいた涼と焔。
二人は公園の側道を通過し、いつの間にか江蓮邸の門前に到着していた。
涼「ところで駅からの道はしっかり覚えられたか?」
話に夢中で駅からの道をほとんど覚えていない事に気づき、愕然とする焔と、表情を見て察する涼だった。
―
焔「今なら外出しても良いでしょうか?」
食卓の席にて姫に許可を伺う焔。
以前、焔は人間界に来た初日に、姫と涼に“一般常識が無さすぎる”と外出を禁じられた。
それから数日を経て今回の“外出許可を乞う”発言である。
姫が若干困惑して涼に目を向ける。
涼「先日伝えた注意点“精霊である事をばれないようにする”、“一般常識を遵守し、目立たぬようにする”、以上を守れるのならば、許可しても良いと思います。逆にそろそろ道を覚える必要がある事を先日実感しました」
姫『…よかろう。外出を許可する』
焔「っしゃ!!」
涼「明日の早朝、登校前に主要な場所を案内するので午前6時に起きてジャージを着ていてくれ」
姫『うむ、わらわも同行しよう』
―
翌朝、ジャージ姿の焔と涼がランニングを開始した。
姫を起こしには行ったのだが、姫は布団に包まりながら『断固欠席する』との宣言をされたのだった。
まずは近々通う事になる学校への道を行く。
涼「私は教師として行動し、姫は中等部、お前は高等部に行くことになる。予定は2週間後からだな。学校内では本格的に単独行動になる」
焔「姫のお勧めアニメで学園生活ってのも若干は知っているが、参考になるのか?」
涼「ある程度は…ウーム…」
次に森林公園に向かう
焔「あれから感知結界の方はどうだ?」
涼「敵の出現は見られないな。元々それほど頻繁に出現していたわけでは無い。ここ最近が異常に頻出している感がある」
ランニングコースを走ると早朝散歩の老人や他のランナーとすれ違う。
涼「人間の情報網も大したもので、もし何処かで被害が出たのならニュースになると思われるのだが…“正体不明の化け物に襲われた”なんて言うのがニュース報道になるかは…微妙だな。公に発表する事はしないかもしれん」
(…親しくなった人間がいる。その人が襲われる前に阻止したい)
焔はその感情に気づかず、無意識にそう考えていた、
涼はその感情に自覚があり、その為の簡易結界網だった。
―
森林公園ランニングコースの途中にベンチがあった。並んで座り休憩を取る。
涼がポケットから携帯端末を取り出した。
涼「持っておいてくれ。通信手段だ。いざという時に連絡が必要となることもあるだろう」
焔「わかった。恩に着るぜ」
涼がポケットから色違いの同じ端末を出した。
精霊王、火の精霊王に対しては“まさに焼け石に水”ではあるが、少しでも耐久性の高い物をと考えた結果、図らずもお揃いの携帯端末になってしまったのだった。
涼「この画面で電話を掛ける…電話に出るのは押してスライドで…」
涼から焔に基本的な使用方法と注意点がレクチャーされた。
涼「基本的には“便利な機械”なのだが、便利な使い方の一方で誤った使い方をすれば、多くの人に嫌われるような言動を、世界中の人に発信してしまう危険が伴う。そこが学校でも問題になっている。」
涼「必要な事以外は連絡や発信はしねえよ。パスワードを入れて基本は他人には触れられないようにすれば良いんだろ。あとクレジットカード番号ってのは、未成年は知らないに越した事はないんだろう?」
涼「…やけに詳しいな」
焔「テレビでやってたんだ。最初は何のことだかさっぱり判らなかったんだが、似たような番組が何回かあってな、“未成年が親のカードを勝手に使って金が支払えず悲惨な事に”ってニュースからの流れで…」
涼「…そこも悩みの種でな、姫との連絡手段なんだが、いざという時は水の糸電話術で会話も可能ではあるのだが、人のいる場所では目立ちすぎて使えない。逆に携帯端末で会話したほうが人としては自然な状態なのだ」
焔「たしかにな」
涼「だが、そのニュース報道が保護者会議で話し合われて、“中学生には一律持たせない”という意見が大勢を占めている。まあニュース報道やクレジットカード云々の話を抜きにしても、端末自体が高価なものだから中学生に持たせるのは考え物だな」
焔「…高いのか」
涼「その靴の10足分くらいかな。といってもピンとこないだろう?」
焔「まあな」
(涼“労働で収入を得ていないからな。まあ仕方がないだろう”)
涼「あと、この機種は現行機種でも耐久性の高さが評判の機種なのだが…先日のビルでの火炎攻撃ではさすがに耐えられなった。“本気を出す”時は、できれば熱に晒さないようにしてくれ。そうもいかない緊急時もあるだろうがな」




