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士郎じょうが再訪し昼食会が始まった。
前田羽美「次回ですけど、水曜日の午後でしたら再訪できます。お月謝は据え置きでかまいませんので来ても良いですか?」
涼「こちらとしては構いませんが」
焔「願ってもない事ですが、ほんとに良いんですか?」
前田羽美「せっかくなので日を開けずに見たいんです。よろしくお願いします」
涼「私と姫は学校ですので不在ですが、よろしくお願いしますね」
涼はしずくの方を見て来訪時の対応を依頼し、しずくが頷いて了解をした。
姫『明日とか明後日も焔はOKですよ』
前田羽美「私の方がね。水曜と日曜以外は午後にも講義があったり、別のアルバイトに入ったりしてるんで」
(焔“アルバイトか…)
次の来訪日時が決まり、前田羽美と士郎じょうは帰宅の途についた。
―
水曜日、夕方に前田羽美が再訪した。
前田羽美「オーバーワークにならないように今日は軽めにね。じゃあ基本姿勢とフットワークをやって見せて」
3分間、やって見せる焔。
前田羽美「…すごいね。しっかりやってくれているのが判るよ。注意点もしっかり押えてくれてるし」
そう言って喜ぶ前田羽美。
少し照れる焔。
(焔“そういえば褒められるってのが久しぶりだな”)
王をやっていると下々から称賛されることは多々あるが、主従の無い相手が純粋に喜んでくれる機会はあまり無かったので、前田羽美の無垢な賞賛が殊更嬉しく感じられたのだった。
実は他にやることが無かったので、かなりの時間を費やして練習していた焔だった。
前田羽美「注意点を押えずに自己流で1週間やり続けると、修正が大変なの。だからあまり間を開けずに見に来たんだけど、いらない心配だったみたい」
次に2人でする“パンチを躱すフットワーク”の練習をする。
例によって微妙にスピードを上げているが焔は気づかない。
前田羽美「ほんとはフットワークに変な癖がついていないか、修正が必要かを見るのが一番の目的だったんだけど、そこは問題ないみたいだし、この際なんで次の練習やっちゃうね」
そう言って姿見の鏡をクローゼットから出す前田羽美。
前田羽美「パンチを覚えてもらいます」
え?という表情の焔に向かって前田羽美が続けて言う。
前田羽美「ディフェンスをメインって事なんだけど、“どんなパンチが来るか”を知っているかどうかが防御するにしても結構重要なのね。例えば…」
そう言って向かい合い
前田羽美「私の左肩と左肘に注目してね。まずはシンプルなジャブ、次にフック、そしてアッパー」
ゆっくりとパンチを繰り出す。
前田羽美「肩と肘がジャブとフックとアッパーとで動きが違ったのは判った?」
焔「はい」
確かに、微妙にだが違いがある。
前田羽美「特にフックとアッパーは判りやすいよね」
そういってフックとアッパーを繰り出す。スピードは先ほどより少し早い。
前田羽美「だんだん早くしていくね」
そういってフックとアッパーを繰り返す。スピードは段々上がっていく。
最後は凄まじい高速になった
前田羽美「どう?スピードはあるけど、左肩と左肘を見てたらフックとアッパーは察知できるでしょ?」
確かに凄まじいスピードではあるが、一瞬ではあるが違いはある。
前田羽美「いずれちゃんと教えるけど、フックはお辞儀でかわして、アッパーはのけぞってかわすのね。難しいけど一瞬で判断して」
…できるのか?焔の正直な感想だった。
前田羽美「全部のパンチは種類が多くて無理だけど、基本のパンチは覚えてもらいます。」
焔「わかりました」
前田羽美「まずはしっかりパンチの打ち方を覚えてね。特に目線を意識して下さい」
そう言ってパンチのレクチャーが始まった。
―
本日のボクシング指導が終わった。
結構熱が入ってしまい、日はすっかり落ちてしまっていた。
事前に涼から前田羽美に夕食をご一緒されてはと推めていたのだが、そこは辞退されており帰宅の流れとなった。
姫『焔、駅まで送って行きなさい』
涼から姫に進言した言葉であり、“涼が直接言うよりも姫の言の方が素直に言う事を聞くので”というアドバイスも併せて姫に伝え、姫に発言してもらった言葉だった。




