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準備運動とストレッチを行いながら前田羽美が焔に話す。

前田羽美「一応確認しておくけど、右利きだよね?」

焔「はい」

この際なので徹底して敬語を使うよう姫から言われている焔だった。


精霊たちにとっては元々利き腕の概念はあまりないのだが、右利きの人間が多い中で真似して過ごすので、自然と右利きになる。

加えて涼が作ったテキストも“箸を右手で持ち”などといった右利きの記述が多くなっており、知らずと右利き用のテキストとなっていた。

その事に気づいたのはテキスト完成後だったが、特段困る事も無いのでそのままになっていた。


クローゼットから大きな鏡を出して、二人が揃って並び立ちながら前田羽美が言う。

前田羽美「じゃあ右利き用のオーソドックスな構えはこうね。真似してみて」

左自然体の左足前、右足後ろの状態で、軽く膝を曲げ、左手は目の高さまで上げて顔をガードし、右手は顎のあたりをガードするように構える。拳は軽く握り、顔は顎を引いて、目線は上目遣いのようにして鏡を見ている。

真似した焔に前田羽美が小さく修正を加える。

前田羽美「基本はつま先立ちで、目線も相手を見るようにね。OK。じゃあこの状態をしっかり覚えてね。基本姿勢だから」

続いて前田羽美が焔の隣に戻って、並んで再び構えて言う

「じゃあこの状態で前に移動します。左足を前にずらして右足を引き付けて、基本姿勢に戻ります。まずはゆっくりやって下さい。足運びも大事だけど、上半身のバランスが崩れないのも大事なので気を付けてね」

焔が真似をして前に移動する。

前田羽美「OK、では後ろに移動します。今度は後ろ足の右足から移動して、前足を引き付ける」

再び焔が真似をする。

前田羽美「OK。注意して欲しいのはちゃんとつま先立ちで行うのと、目線はまっすぐ前を見てね。足元の練習なんで本能が足元を見たくなっちゃうけど、そこは頑張ってあらがってね。最初はゆっくりで良いので確実にやって欲しいの。スピードは後で付いてくるからまずは確実に。ゆっくりの方が難しいしね」

前田羽美が壁掛け時計を見て言う

「じゃあ三分やるね。はい前、はい後ろ、はい前、後ろ…」

なるほど、“足の練習”と意識してしまうと、どうしても視線が足を見ようとしてしまう。その本能にあらがうのがとても難しい。


3分が経過し1分の休憩に入る。

前田羽美「案外難しいでしょ」

焔「ああ…は、はい」

前田羽美「でも“難しい”って判るだけでも大したものだと思うよ。ジムに来て間もない子は「簡単だ」なんて言いながら、ずっと下を見ながらやってたもん」

そう言って笑う前田羽美だった。

焔は基本姿勢を覚えるために、その姿勢のまま休憩時間を過ごした。


前田羽美「じゃあ次に横に動きます。右に動くときは後ろ足の右足からずらして左足が付いてくる。」

焔が真似を行う。

前田羽美「OK。次は左に行きます。左足からずらして右足が付いてきて」

同様に3分間、左右の移動練習を行い、1分の休憩に入った。


前田羽美「人間だから2本足が地面についている方が1本足より安定するでしょ。普通に歩くより1本足が地面から浮いている時間が短くなるようにするのと、安定する基本姿勢にすぐ戻れるようにする為のフットワーク、“足のお仕事”なのね。さっきの足の順番を間違えたら、不安定になって倒れやすくなるよ」

(焔”なるほど”)

前田羽美「フットワークの練習は一人でも出来るので、出来れば毎日、少しの時間で良いので基本姿勢とフットワークの練習は続けて欲しいの。“下を見ない事”、“つま先立ち”と“足の順番”だけは気を付けてね。」

焔「わかりました」


前田羽美「それじゃあ本日のメインイベント」

前田羽美が促して、焔と前田羽美は向かい合って基本姿勢をとった。

前田羽美「まず私が左でゆっくりパンチを打ちます。左肩が動いたと思ったら後ろに動いて、パンチが戻ったら焔君も前に戻ってきてね。惰性で前後移動にならないようにね。あくまで“パンチがきてかわす”の練習だから。じゃあ3分スタート」

極端とも思えるゆっくりしたスピードだが、気を抜くと惰性の前後移動になるか、視線が下を向くか、つま先立ちを忘れそうになり、気の抜けない3分となった。

前田羽美「じゃあ一分休憩の後にパンチを右に避ける、次は左に避ける、次は右、次は左、左右交互に避ける練習ね」


この後、同じ練習を2セット行った。実は少しだけパンチのスピードを上げていっていたのだが、まだまだゆっくりのパンチではある。焔に気づいている様子は無い。



焔が前田羽美とボクシングの練習をやっている横で涼は竹刀を持って素振りを行っており、その横では、姫と士郎じょうがいた。

士郎じょうが正座で座って剣道の準備を行おうとしていると、姫が腰に手を当てて仁王立ちで言った

姫『本日はプロレスの稽古を行う』


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