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一行の帰宅後、姫と涼と焔は居間でテレビ鑑賞していた。
ケーブルテレビの番組に昔のボクシング中継を再放送している番組があり、それを鑑賞しつつ焔と涼は話をしていた。
涼「俯瞰で見るのと対峙しているのとでは全く違うものだろうな」
焔「ああ」
涼「判っている事とは思うが、先ほども聞いた通り、人間相手にボクシングを使うと凶器で傷害事件を起こした事となり、人間の法で裁かれる。そして…教えた人間も裁かれる可能性があるのだ。」
焔「相手の攻撃を避ける技術だけ教えてもらえりゃいいんだ。人間を攻撃はしねえよ。面倒ごとはごめんだ」
―
テレビ番組が昔のプロレスの再放送に変わった。
姫が若干興奮気味になっている。
いわゆる善玉と悪玉とが戦い、実況アナウンサーと解説者がそれを判りやすく喋っている。
当時としては画期的で、徹底してわかりやすいエンターテイメント、それが当時の興行としてのプロレスだった。
「ああ、いけません。パイプイスによる攻撃は反則です」
「レフェリーがイス攻撃を見ないように、悪いレスラーの仲間がレフェリーの注意を引き留めています」
「チャンピオンはタッチができていないのでリングに入れません」
「チャンピオンのタッグパートナーが、イス攻撃でノックダウン。ワン、ツー、スリー!、チャンピオンのパートナーが負けて、チャンピオンチームの敗北です!」
額にどくろの鉢巻ををして目の下側に隈取のアイシャドーをした判りやすい悪役レスラーが、用意されていたマイクを若手レスラーから渡される。若手レスラーに思わず会釈をしてしまい、人の良さが垣間見える悪役レスラーがマイクを握り喋る
「ハアハア、おい!チャンピオン、次の〇月〇日の滋賀県立体育館第二競技場、そこが貴様の墓場だ!覚悟しておけ!ガッハッハ…ハアハア」
テレビ画面には、額のどくろ鉢巻が少し斜めになっていて若干間抜け感が出ており、汗で目下のアイシャドーが垂れてはがれかけて、人のよさそうな垂れ目が見えている悪役レスラーが映し出されていた。
姫は拳を握り、立ち上がって言った
姫『よかろう、〇月〇日の滋賀県立体育館だな。わらわ自ら出向いて正義の鉄槌を…』
涼「姫、落ち着いて下さい。再放送です」
テレビ画面ではチャンピオンがマイクで次の試合では悪役レスラーに勝利することを宣言し、番組は終了した。
テレビが切りのいい所なので焔は自室に戻る旨を宣言し、退室した。
姫は続けてテレビを見ている。
次の番組はまたプロレスだったが、さっきのプロレスとは違い、とてもわかりづらい言うなれば“地味なプロレス”だった。
善玉も悪玉もなく、競技者同士がただ技術を競う為に戦っている。そんなプロレスだ。
惰性で見ていた姫がテレビを消そうとリモコンに手を伸ばした時、勝負が決した。
後ろから腕を相手の首に巻き付けて首を絞める技で勝負はついたのだった。
実況アナウンサーと解説者が淡々と「チョークスリーパーですか」「そうですね」と言い、テレビの画面にもテロップで勝負時間と決まり手“チョークスリーパー”、勝利者の名前の横に〇が表示され、敗者の名前横に×が表示されて、淡々と番組は進行された。
不思議なものを見た、そんな表情で画面を数秒見つめてから姫が口を開いた。
姫『チョークスリーパー?』
涼「あの首に腕を巻き付けて絞める技のようですね」
姫『…?なぜわざわざあのような事を?首を絞めるのであれば…』
机上に置いていた涼の携帯端末が振動する。
涼が端末を見てから姫を見て、姫がそちらを優先させる事を許可する意味で頷き、姫との会話の中座許可を得て涼は端末を操作し画面を確認した。
携帯端末には通知が2件来ており、前田羽美から無事に帰宅した事と、ネット通販で必要なものを注文したとの連絡がされていた。
真面目な性格が見て取れる行動だった。
もう1件は“協力者”から焔の高等部への編入手続きの件であり、名前や年齢、高校1年である事の再確認、編入試験は免除となるよう手筈している事、最短でも2週間の準備期間を必要とします、などの報告だった。
用意すべき教科書や制服などは涼から直接高等部の事務局に連絡し手配する旨を感謝の言葉と共に返信した。
涼「…姫、最近精霊界にご連絡は行っていますか?」
姫『最近はご無沙汰じゃな。』
涼「いざという時にゲート術を忘れているようでは困ります。是非お父上、お母上に御連絡を」
姫『うーむ、解った。何のゲートを開いてみるかのう』
そう言ってテレビを消し、二人は揃って部屋から退出した。
―
日曜日となり、前田羽美が江蓮邸に来訪した。
士郎知恵は来られないが、士郎じょうも一緒にやって来ていた。
前田羽美「おはようございます。よろしくお願いします」
士郎じょう「おはようございます」
焔「よろしくお願いします」
結構大きな荷物を持って来ており
焔が荷物を受け取る。
ネット通販で思いのほか安く購入できたので、結局グローブとヘッドギアも購入したのだった。
物は実家のジムでも使っているメーカーの物で間違いない物だと判っているのも購入の決め手だった。
前田羽美「ご確認下さい」
玄関で挨拶後、封筒に入ったお釣りと領収書を前田羽美は涼に渡す。
涼「確かに受領しました」
一連のやり取りの後、一行は道場へ移動した。




