24
士郎知恵「素手での格闘技を教える事が出来る人…ボクシングで良ければ一人、心当たりがあるんだけど…実家のボクシングジムの手伝いを昔からしていたから、コーチを出来るようになった子が大学進学で〇〇市に来て住んでいるのね」
涼と焔が目を合わせてから言った
焔「お願い出来るでしょうか?」
士郎知恵「本人に聞いてみないと判らないけど、そんな事情だから正規のコーチじゃないのでそれで良ければね。あと学生だから交通費+常識的なお礼をね」
そう言って士郎知恵が涼に意味ありげな笑顔を向ける。
涼が最初に剣道指南のお礼として出した金額が、ちょっとありえないレベルの金額であった。
「ご近所づきあいでこの金額はちょっと…」とこれまたスルリと躱されて、食事会がお礼の形となった。
当時は常識的な金額が判っておらず、たしかに近所の知り合いに渡すには過多な金額とも思える額だったが、“あの技術にたいしての対価”と思えばとてつもなく安価だと思っている涼だった。
涼「アルバイト代として、ですね。そこは問題ありません。」
涼が具体的な金額を提示する。
士郎知恵「じゃあ、本人に相談しておくけど、あと一つ、驚かないように先にお伝えしておくと女の子だから」
数日後に返事があり、次に稽古がある日曜日にお試しで来訪する事が決まった。
―
「はじめまして、前田羽美です。よろしくお願いします」
江蓮邸に初来訪の女性が、玄関で大きな声であいさつをして一礼した。
玄関では江蓮邸の全員が出迎えて「よろしくお願いします」と挨拶を返す。
前田羽美「これ、よろしければ」
差し出した包みを涼が受け取る。菓子折りかと思いきや、意外なほどに重量がある。
涼「すみません。本来ならばこちらから用意すべきものなのですが…お気遣い、ありがとうございます。」
姫が眼光鋭く渡された包みを見ている。それに気づいた前田羽美が話しかける。
前田羽美「中身はお漬物の野ざま菜なの。うちの親戚が野ざま菜の工場やってて多めに送ってもらったものですので…」
姫『やった!野ざま菜だ!!』
年頃の女子だから甘いお菓子を期待しており、お漬物と知ったらがっかりされるかと思っていたら、思いの外喜んでくれて面食らう前田羽美だった。
前田羽美「良かった。お漬物、好きなんですね」
士郎知恵「おばあちゃんのをおすそ分けしたらハマってくれて」
前田羽美「そこがライバルか…強敵だなあ。がっかりされるかも」
(焔“あれが噂の野ざま菜か…”)
話もそこそこに、道場へ向かう。
今日はボクシングのみに時間を充分とるため、士郎親子は剣道の用意はせずに来訪していた。
事前の電話打ち合わせで、初っ端からスパーリングをする事になった。
実家のジムでもだいたい最初に前田羽美とスパーリングをし、それでへこまされても続ける者しか続かないから、というのが彼女の父親のやり方という話だったし、焔も「手っ取り早い方がいい」とそれを望んだ。
(焔“要は敵の攻撃のかわし方が覚えられればそれで良いんだ”)
スパーリンググローブとヘッドギアは士郎知恵が知り合いの伝手で用意していた。
涼が購入を提案したが“続きそうに無かったらもったいないじゃない”と士郎知恵が言い、借りる運びとなった。
ヘッドギアの装着を嫌がった焔だったが
士郎知恵「着けてくれないと羽美ちゃんが本気で顔に打てないのよ」
の一言で、しぶしぶながらも装着した焔だった。
ストレッチと準備運動を行い、簡単なルール説明をする。
前田羽美「下半身への攻撃や、頭突き、足技での攻撃は無しです。あとはリングロープが無いので、どうしましょう…適当に審判の判断でお願いします。あと試合時間は3分で」
笑顔の士郎知恵が言う「カーン!」というゴング音のまねでスパーリングが始まった。




