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買い物袋2つを左手に持ったまま、敵の攻撃線上から姫としずく、そして焔を外すべく、“邪なるもの”に視線を合わせたまま横に移動する涼。
涼が姫、焔、しずくたちから数メートル横にずれた時、敵は先ほど焔に行った攻撃と同様の攻撃を行った。
涼に向かって敵の腕部分が伸縮され高速で向かってくる。
対して最小限の動きで攻撃を躱し、敵に近づいていく涼。
(焔“凄え…”)
最後は2mほどの間合いまで近づき、氷の剣を展開して切り込む。
切られた邪なるものは瞬時に氷ついてから、はじけるように霧散した。
焔「凄えな」
思わず素直に声が出てしまった。
涼の方も“焔は何が凄いと思っているのか”を把握していた。
敵を滅した事ではなく、躱した動作に感嘆したのだろうと。
涼「大した事ではないさ。この程度の相手単体ならな」
涼が言葉を続ける。
涼「殺傷能力はともかく、スピードでは知恵殿の方が遥かに上だ」
昼間の道場での稽古、居合の動きを思い出し、はっとする焔だった。
涼「歩けるか?」
焔「問題ねえよ」
疲労の色は見えるが、森林がわずかながらに精霊力を回復させてくれており、ぎこちないながらも歩き始める焔。
しずくが涼に向かって自身が買い物袋を1つ運ぶ事を提案し、受領しようと手を差し出したが、涼は問題ないから大丈夫と言って固辞した。
買い物袋を右手と左手に一つづつに持ち直し、そのまま2つ持って帰路への歩みを再開する涼。
姫『わらわもスニーカーを購入するぞ!』
すこし怒気を含んだ姫の声が飛んだ。
先ほど柵を超えられなかったのがお気に召されないようだ。
涼「その運動靴でも機能に差異はございません。身長の問題でございます。つきましては術に関する勉強会の必要性を…」
―
帰宅途中にコンビニエンスストアがあり、涼が入店する旨をしずくに伝える。
涼「私は少し寄っていく。姫と先に帰宅してくれ」
しずく「お珍しいですね。お兄様がコンビニに寄られるのは。何か買い忘れでも?」
涼「…先の戦闘時に買い物袋を焔から受け取った時、ほのかに暖かかったのだ。念の為にな」
涼は入店し、棒状でチョコレートがコーティングされたお菓子を数個購入した。
―
帰宅して晩餐の後、
焔『今日はもう、寝るぜ』
食事による精霊力の補充を行うも、充分に回復するには至っていないようだった。
おそらく火の王は、太陽が出ているかどうかで、かなり回復力に差が出るようである。
よろめくような事は無かったが、かなりゆっくりと自室に引き上げていった。
(涼“エレメンタルを直接吸収して回復できるようになれば、少しはマシになるのだろうが…”)
しずくがデザートを姫の前に置く。
先ほど涼がコンビニで購入した、棒状でチョコレートがコーティングされたお菓子だった。
姫『今日のデザートは例の菓子か!』
しずく「姫がご学友と食される分は別に置いてあります。明朝にお渡ししますね」
姫『先日、提供されて初めて食べた時は“なんと精巧で甘美な菓子か”と感動したのだが、まさか数百円で購入できる菓子とは思わなんだ』
嬉々として開封し、ポリポリと食べ始める姫。
姫『英語の授業の後で女子学友が“甘いものはアナザーストマックね”と言って笑っていたのだが、しずくは意味が分かるか?』
しずく「甘いものは別腹という表現が俗にされる事があります。おなかが満腹になった食事直後でも、甘味のデザートはなぜか食することができてしまうという事だとか」
姫『うーむ、理の真理を見た気がするな』
お菓子を食べる事が“理の真理”と大業な意味付けを成されてしまっている横で、涼は最初にスーパーで購入した菓子の箱を持って居間を出ようとしていた。
姫『何をしているのだ?』
涼「火の王の部屋に置いておきます。」
一度自室に戻り、付箋に文字を書いて菓子の箱に貼りつける。
焔の部屋のドアをノックするが、予想通り返事は無い。
入ってみるとベッドで泥のように熟睡している焔がいた。
(今回は注意せず、次の機会に注意する事にしても良いのだが…まあ良かろう)
机上に菓子の箱をおいて部屋を出た。
翌朝、焔が目を覚ます。
窓から射す光が心地よい。
ふと机上を見ると、菓子の箱が置かれている。
焔は箱に貼られた付箋に書かれた文字を読んだ
“チョコレートは熱せられると溶けるので以後注意してくれ”
箱を開封し中身を取り出すと、一度温められてから再度固まったチョコレートの塊が出て来た。
箱に印刷された写真と見比べて苦笑しながら、チョコレートの塊を噛みしめる焔だった。




