21
帰宅の歩みの中、会話は続く。
涼「ああいうジムや道場に行って稽古を行う場合には、メリットも多いのだが、我々にとってはデメリットもあるのだ」
焔「デメリット?」
涼「金がかかる。まあそれは置いておいて…」
(“言っておかねば勝手に行って無銭飲食ならぬ無銭練習を行いかねないからな”)
涼「先にも言ったが、その身体はそれなりに身体能力が高い。実力者になってしまう可能性があるのだ。そうなった時、大会に出るように勧められたり、プロになるよう勧められたりする」
実際に涼も士郎知恵から「大会とか出ないの?」と言われたことがあった。
涼「その結果によっては、規模の大小はあるが“有名人”になってしまうのだ。あの大会で上位になった、優勝した、あのプロボクサーの、などな」
焔「目立ってしまうんだな…」
涼が頷き、言葉を続ける。
涼「そうなると動向を注視され続ける事になる。場合によってはテレビに映像が記録され、知らぬうちに撮影されて、精霊力を使っているところを映像に残される可能性があがる。」
少しうつむき加減の焔に対し、涼はまっすぐ前を見て、歩みと言葉を止めない。
「仮にその問題がクリアされたとしてもだ、そのような有名人がある日突然消えたらどうなると思う?精霊界にどうしてもすぐに戻らねばならない事情が出来たとしたら…」
焔「なるほどな…」
涼「私が町道場に行かず、士郎知恵殿に個人稽古を依頼している理由の一つがこれだ」
夕暮れの中、帰路を歩く四人の姿と二人の会話だった。
―
先を歩く姫は“ご満悦”の表情だった。
クラスメートが休憩時間に分けてくれたお菓子をスーパーで発見できたからだ。
買い物に先立ち、しずくは姫から特徴を聞いていた。
姫『棒状のお菓子で、チョコレートでコーティングされていて…』
かなりメジャーなお菓子である。
案の定、スーパーマーケットのお菓子売り場ですぐに発見できた。
むしろ姫の想像を超えてバリエーションがあった為、そこに若干迷いが出たくらいだった。
姫『うーむ、イチゴ味に細身タイプに抹茶味もあるのか…』
帰路の途中、火の王に渡した袋に目をやりながらニコニコ顔の姫が言う。
姫『これでお菓子を提供してくれた学友にお礼が出来るのだ』
続いて涼の方に顔を向けて姫が喋る。
姫『そういえばその時学友が “〇〇君とポックィーゲームがしたい”なんて言って盛り上がっていたぞ。“ポックィーゲーム”というのは知っているか?』
涼「〇〇君というのはテレビで見かける芸能人ですね。ゲームの方は…名前は聞いたことはあるのですが、どのようなものかは判りかねます」
姫『うーむ…。今度、士郎じょう殿に聞いてみるか』
―
夕焼けの空から夜空に代わる途中、
江蓮家一行は大きめの公園までやってきた。
市民球技場と森林を抜けるランニングコースや芝生の広場にバーベキュー設備まである、かなり大きめの公園である。
その横を歩いている時、“気配”を感じて涼が森の奥の方に視線をやり、涼のただならぬ気配に気が付いて焔も視線を向ける。
“邪なるもの”がいた。
焔「やろう!」
反射的に“邪なるもの”がいる方向に向かって動き出す焔。
歩道と公園の間には1メートルくらいの柵があったのだが、軽々と飛び越えて走っていった。
しずくと姫も事態を察し、姫も焔と同様に柵を超えようとよじ登り始めたが、
涼「姫、こちらに」
涼が姫の脇を抱えて歩道におろし、公園の入り口がある方に姫を誘った。
(涼“一人ならともかく、四人とも柵を飛び越えてたりしては目立ってしまう”)
姫の少し前を涼が走って守護をし、後方はしずくが警戒しながら三人は焔を追って森林公園の奥へ向かった。
先を行っていた焔が森の奥にいる敵を発見し、そのまま敵に向かって走っていると、気が付いた敵が腕部を焔に向けて真っすぐ伸ばし、攻撃してきた。
後ろから涼の声が飛ぶ
涼「よけろ!」
声に反応して反射的に回避したが、躱しきれずに左肩がえぐられる。
焔「忘れてたぜ、人間の身体だってことを…」
火の精霊王本来の姿であれば、あの程度の物理物体は、到達する前に燃え尽きて消滅してしまうのだ。回避の必要が無い戦闘スタイルが、焔には擦り込まれてしまっていた。
焔「周りに人間は…いねえな」
息をきらしつつ、右手を拳にして数メートル先の敵の方に向ける。
右手手首には買い物袋がぶら下がっているが、この時の焔には気にしている余裕は無かった。
拳から火球が放たれ、敵に命中し、あっという間に敵は消滅した。
涼「相変わらず凄まじい攻撃力だな。力をセーブしても一撃か」
息絶え絶えに焔が答える
焔「まあ、あの程度の相手ならな」
涼「周りに人の気配は無い。一度姿を戻してケガを直した方が良い。人間としては致命傷レベルの傷だ」
周りは森林なので大地の精霊力はわずかながら補充が可能だが、それでも微量である。
日は落ちて太陽からの補充は期待できないが、背に腹は代えられない。
買い物袋を涼に手渡して、一度精霊王本来の姿に戻ってから、再度化身人化術を行う。
人体の傷は完全回復したが、案の定精霊力は枯渇に近い状態となる。精霊力の不足が人間の身体には疲労という症状をもたらすようだった。
同様の疲労経験がある涼が言った
涼「あとは任せろ」
焔「…あとは?」
涼の視線の先にはもう一体、“邪なるもの”がいた。




