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 『ごちそうさまでした。それでは休むとする。』

食事を終え、姫はそう言って洗面所に向かわれた。

一度精霊に戻って、再度、化身人化術を行えば歯磨きなど必要ないのだが、

人間の習慣を会得するためにと、姫は歯磨きを毎夜と毎朝は実践していた。


涼が火の精霊王に向かって口を開いた

「食事中考えていたのだが、この家屋は木造でとても燃えやすい。もちろんわざと火をつけるといった事は無いだろうが、手違いが起きないとも言えまい。なので、敷地内で一番火の耐性が高い場所で過ごしてもらう」


火の精霊王についてくるように指示し、途中、しずくに準備してもらっていた客用布団一式を持って向かった先はコンクリートのガレージだった。

ガレージは鉄筋コンクリートで建築されており、1階はクルマが3台ほど停められるスペースがあるが江蓮家はクルマを所有しておらず、空いたスペースとなっていた。

ガレージの2階は倉庫になっており、その2階倉庫へと案内する。


2階のドアを開けて入るとそこそこの広さがあり、中にはトレーニング器具やサンドバッグ、その他には少し旧型のテレビなど、いろいろと物が置かれていた。

その中にはおあつらえ向きにパイプで出来た簡易ベッドが置いてあった。

ベッドの上に布団をおいて整える。

そこに火の精霊王を座るように促して、涼は向かい合うようにキャンプ用の折りたたみチェアーをセットして座った。


涼「色々と警告せねばならない事があるのだが、事が多すぎて何処から伝えるべきか…まずは、この部屋だが…」

火の精霊王が壁を触って言う「これは大地の精霊術か?さっきのビルも?」

涼が首を横に振り答える「いや違う。人間の知恵と工夫によって作られたものだ。わかると思うが火の王が本気で火炎を出せば一瞬で蒸発する。その程度の強度だ」


涼が続けて言う

「最も火の王が本気を出せば、一瞬で地球の数分の一かが焦土となるだろう。そういう意味でも人間界では真の力を出せないのだ。わかるな」

これは水の精霊王、涼も同じだった。

化身人化術を解いて本来の姿に戻り、全力を出せば大方の相手は圧倒、いや圧倒以上の力で屈せしめる事が出来る。だが、加減を誤れば超広範囲に大規模なダメージを与えてしまう。巨大な力を繊細に加減しなければならないのだ。先のビルでの危機は、一か八か、この奥の手の行使一歩手前だった。


涼「人間界で目的を完遂するために来ているのに、その人間界を破壊してしまっては本末転倒となってしまう」

火の精霊王が目を瞑り、だまって頷いた。

(確かにな…)


涼「次に…この人間界、地球という星は水の星と呼ばれている。

そして知っての通り、人間は体の50%以上が水だ。

人間の身体自体が火を取り込むような構造になっていないのだ。

化身人化術のレベルによっては火を取り込む事が出来るようになると思われるが、

今のレベルの化身人化術だと、火を取り込んで精霊力に変える事は出来まい。

この状況は…火の精霊にとって快適とは言えないだろう。」


火の精霊王「覚悟はしていたつもりだったが、実際に来てみると想像以上だな。いざとなればゲートで帰ればいいと思っていたが、そのゲートを作る炎ですらままならねぇ」


涼が手のひらを上に向け、掌から天井に向けて氷の柱を数メートル出して見せ、言葉を続けた

「訓練を行えば、化身人化したまま手のひらや足の裏など局所的に精霊力を展開できる。その延長上に化身人化したまま各々のエレメントから精霊力を取り込む事も出来るが…」


火の精霊王が手のひらを上に向け

「局所的な精霊力の展開ってのは…これの事か?」

掌から火の玉を出した。


涼「局所での精霊術展開は会得していたか」

火の精霊王「ああ、一応な。ただ化身人化したまま火から精霊力を取り込むのは…やってねぇな」

涼「先も言ったが火と人間の身体は相性が悪い。会得するには相当な困難が予想される。」

火の精霊王「やる。会得して見せるぜ。ここでの目的達成のためには必須だろうからな」


涼「まあ、それまでは大地の恵みを食して精霊力を補充する事だな」

火の精霊王「ああ、さっきの食事ってやつだな。あれは悪くねえな。化身人化して初めて良かったと思えた瞬間だったぜ」

涼「それなんだが…食事を手づかみで行うのは稀なのだ。日本では主にこの器具を使う」

そう言ってポケットから包まったハンカチを出し、手のひらの上でハンカチを開いた。中からは箸が出て来た。

火の精霊王の顔が引きつる。先ほどたくあんを自在に操っていた姫を思い出していた。

箸を火の精霊王に渡し、ポケットからビー玉を取り出して間近にあったテーブルに並べる。

涼「こちらも訓練が必要だな」

火の精霊王「だ、大丈夫だ、俺は手で食うから」

涼「…滞在期間が不明なのだ。いつ必要になる技術かはわからんが、場合によっては姫が恥をかくかもしれんぞ」


「ちくしょう」

火の精霊王の嘆きの声が室内に響いた。

箸でビー玉を挟もうとするが、ビー玉はつるつる滑ってコロコロ転がり逃げ続けた。



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