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終業式まであと数日と迫った三月下旬。
涼は学校での残務を淡々とこなしていた。
涼は勤務先である学校に、以下の2点を早い段階で伝えてあった。
“諸事情により3月25日から家族で海外に行く”、“春休み最終日には日本に帰国予定であるが不確定である”。
戻ってくること前提で学園長に話し、協力者の力添えもあって快諾を得ていた。
一時は“海外に引っ越す”といった方向に話を進める事も考えた。
その方が“戻ってこられない事態”となった場合に対処が容易ではあるだろう。
あまり考えたくない事態ではあるのだが…。
しかし、そうなった場合、逆に“戻ってくる場合”に難しい問題が発生する。
“難なく邪なるものを退け、この地に戻って来て大地の精霊王の捜索を再開する”こうなる可能性も十二分にある。
姫、焔、颯、しずく、そして涼で話し合いを行った時、ほかならぬ姫から提案が出る。
姫『新学期に間に合うように帰ってくる。そういう風にしておけば、なんとしても帰ってくるように頑張るだろう。“背水盆に返らず”というやつだ』
焔「それを言うなら“覆水の陣”じゃありませんか?」
颯「おそらく“背水の陣”と…」
涼「“覆水盆に返らず”が混ざっています」
結局のところ、もし地球に戻ってこられない事態となった場合、学校どころではなくなっているだろう。そうなると失踪扱いとなる。
しかしそうなった場合、一時いくらかの人々には迷惑がかかるかもしれないが、消息は完全に断たれることになるので、数年経てば人々の記憶からは一家族の失踪事件の事など風化して消えていくだろう。
つまり人間界に対して一時の迷惑は発生し、騒ぎになるかもしれないが、追跡調査は不可能であり、時間の経過とともに沈静化せざるを得ない。
帰ってこられない場合をそう予測し、故に帰ってくる事を前提として話を進める事にしたのだった。
ただし、エレメントの国である精霊界が壊滅しても地球が、そして世界が無事でいられるのか?。
そんな事態に陥ったことなどは今まで全く無かったので、これもまた未知数であり、未知の領域だった。
そういった意味でも姫の“敵を滅し、戻ってくる”という選択はシンプルで正しい、そう思う涼だった。
―
3月24日
中等部、高等部、共に終業式が終わり、生徒たちは帰宅の途に就く。
春休みと言っても部活に入っている者は学校に来て部活を行うので、日々のルーティンはあまり変わることが無く、それによって教室内の空気もあまり変わることは無かった。
「じゃあまた明日」
「明日は部活何時からだっけ?」
そんな声が交わされる事によって、終業式といえども普段の日とあまり変わらない風景がそこにはあった。
焔、颯、姫の江連家の面々も合流し、揃って家路につく。
士郎じょうも同一方向であり、一緒に帰路を歩いていた。
唯一、涼は教師としての残務があり、遅れて別で帰宅する事となっていた。
夕刻、涼が帰宅し、地球での最後の晩餐が行われた。
姫『うむ、やはり美味である』
しずく「お褒めにあずかり光栄です。ありがとうございます」
いつものシンプルな献立だった。
“こういう時は豪華な献立を用意する”そういう発想が無くもなかったが、全員がいつものごはん、みそ汁、野ざま菜を希望した。
姫『しずくの日常食は別格として、野ざま温泉村での食事、あれは素晴らしかったな』
焔「たしかに。ただ、俺にとってはすごく苦労した場所として苦い思い出もあるのですが」
颯「僕はあの時初めて食事を体験したので驚きが大きかったです。あと入浴も」
涼「温泉での入浴は普通の水道水での入浴より大地の精霊力が過多に感じられました。それが我々にはより心地よく感じられた要因なのかもしれませんね」
姫『決めた!もう一度野ざま温泉村に行こう!』
涼「良いですね。是非行きましょう」
焔「よし、今度はもっと上手くスノーボードで滑ってみせるぜ」
颯「でも雪のシーズンはもう終わりみたいですよ」
焔「マジで!?」
姫『季節はともかくだ、もう一度行こうではないか。今度は大地王も一緒にだ』
涼、焔、颯、しずく、その場にいた全員がほほ笑んで頷いた




