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偽・信長公記――信長に転生してエクスカリバー抜いて天下布武る俺――  作者: 曖昧


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7話

 話がまとまると小六は直ぐに動いた。

 他の国衆も巻き込み、墨俣砦に使う資材と人足を確保。

 ある程度見通しがついたところで一時尾張に帰還した藤乃に文を送る。

 そして合流日時を決めた後、彼らは動き出した。


 そこまでの日数はやる気もあって、最短とも云えるものだったが砦の建設時間はもっと短かった。

 砦建設予定地に忍んでいる藤乃と織田側の少数の手勢。

 資材と共に川を下って来た小六と彼の手配した人員は即座に合流。

 藤乃指揮の下、夜中に建設を始め、早朝には完成。


 斎藤勢からすればいきなり砦が出現したようにしか見えずさぞや混乱したことだろう。

 藤乃は一時的な責任者として墨俣砦に詰め、即座に早馬を飛ばし帰蝶へ報告。

 報告が届くや帰蝶は籤で一番手になった指揮官とその兵達を率いて墨俣砦へ。

 それと入れ替わりで藤乃は小六と共に尾張へ帰還。


 その際、小六は帰蝶自らよくやってくれた信長様も御喜びであると彼を労う。

 小六は気を良くし、やはり自分は間違っていなかったと良い気分。

 若干可哀想ではあるが、幸せなのだしそれで良いのだろう。

 さあ、墨俣に詰めた帰蝶だが、そこからはもう語るまでもなかった。


 思惑通りにことは動き、幾度目かの斎藤による墨俣攻めを退けたところで西美濃三人衆へアプローチ。

 信長、帰蝶、道三、三者の署名が入った書状を受け取った西美濃三人衆は斎藤を切り捨てる。

 中核を崩してしまえば、後はもう殆ど消化試合だ。

 義龍は一度も戦場に立つことなく、稲葉山城へ引き篭もってしまった。


 最早美濃における斎藤義龍の声望は地に堕ちてしまったと云っても過言ではない。

 稲葉山城の士気はどん底だろう。

 が、それに引き換え織田方は目立った被害も無いまま稲葉山城包囲にまで漕ぎ付けた。

 ハッキリ云ってしまえば楽な戦だったから当然の如く、士気は高い。


 反面、敵方の士気は最悪だろう。

 篭城の肝たる援軍が期待出来ないのだから。西美濃三人衆が寝返ったことで支城を任されていた者達も寝返ったのだ。

 日本の篭城の肝とは支城同士の連携にあるのでそれが取れない篭城に意味も意義もない。

 滅びをなるたけ先延ばしにしているだけだ――まあ、義龍としては期待しているのだろう。

 此処に織田軍を引き付けているから誰か尾張に攻め入ってくれ、と。実際完全包囲前にあちこちに書状を送っているはずだ。


 さて、この段になると大軍を動かすこともあり、信長自身も出張っては居るのだがやることがない。

 精々が城攻めの下知を与えることぐらいか。

 しかし、それも全権を持つ帰蝶がその通りにしろと云ったならばだ。

 つい先ほど包囲が完全に整ったのに帰蝶は動けと云っていない。


「信長様、お濃様は何を考えておられるのでしょうか?」


 本陣には信長と主要な家臣達が詰めていた。

 此処で待っていてくれと帰蝶に云われたからだ。

 が、その当人は包囲するよう伝えた後、戦線から外れ未だに参陣していない。

 一体何をやっているのか、勝家は夫である信長に問う。


「いやぁ、俺も正確なところは分からんが……このまま戦しないつもりなんじゃないか?」

「と、云いますと兵糧攻めですか? しかし、それならばさっさと攻めてしまった方が楽でしょう」


 被害は出る、しかし手っ取り早く終わらせられる。

 被害を減らすことに腐心し続けて、長く居を留守にするのは下策だ。

 包囲して待ち続けていれば降伏して来るだろうが、義龍も馬鹿ではない。

 篭城を選んだ際に、それなりの兵糧は運び入れているはずだ。

 備蓄はかなりあると見て間違いはない。


「長期戦にもつれ込むことの愚は帰蝶も分かっているだろうよ。

此処まで見事に駒を進めたんだ、阿呆じゃないってことぐらいはお前らも分かるんじゃねえの?」

「それはまあ……ええ、見事な手腕でした。蝮の娘は伊達ではありません」

「仮に義龍と帰蝶様の立場が反対だったのならば、我々はさぞや苦労しておったことでしょう」


 素直な――自分自身能力があり、余裕を持っている者達は素直に帰蝶を褒める。

 この場に居るのはそんな面子ばかりだ。

 金持ち喧嘩せず、ではないが自信を持つ人間はそこまで嫉妬なんて覚えはしないのだ。


「………………降伏を早める策でしょうか?」

「お、おぉ……長秀、急に喋るからびっくりしたじゃねえか。ああ、俺もそれを考えてた」


 包囲した状態で更にもう一押し。

 稲葉山城内の人間を内部分裂させ内側から義龍を討つ、或いは捕縛させるつもりなのだろう。


「とは云え此処に居ねえってことは、だ。声明を出すとかで揺さぶるつもりはないらしい。

それなら俺を使ってただろうしな、となると……別の……ああ、だとすれば…………」


 ふと、信長の脳裏に閃くものがあった。

 その時だ、帰蝶がやって来たのは。


「遅れてごめんなさい」

「料理人や調理器具、食材の手配でもしてたのか?」


 何気ない態度でさらりと告げられた言葉に帰蝶は目を見開く。


「あら……気付いていたのかしら?」

「ああ、つい今さっき気付いたんだわ。確実に来る未来を垣間見せ不安を加速させて内部分裂を誘発ってとこか」


 通じ合う夫婦、残された者達はまるで意味が分からない。

 この場に藤乃が居れば彼女辺りは気付いていたかもしれないが生憎と尾張でお留守番だ。

 守護役として残して来たのでこの場には居ない。


「だが別に、普通の城攻めでも良かったんじゃないか?」

「ふふ、ところがそうでもないのよ。今、城内には先が読め過ぎる男が居るの。

とても頭がキレて、今孔明などとも謳われる子でね? 名は竹中半兵衛」

「(半兵衛……有名人だな)」


 黒田官兵衛と共に秀吉を支えた有名人の名、信長も当然知っていた。

 とは云え、それは未来の知識でありこの時代では未ださして有名な名でもない。


「私は彼の性格をよく知っている。正攻法で城攻めをしたとしても限界まで半兵衛は義龍へ義理を尽くすわ。

だけど、酷い敗北が見えたのならば綺麗に負けられるように動く、彼はそう云う人間よ」


 酷い敗北と云うのは例えば内部分裂。

 味方同士で殺し合うような空気になれば躊躇いなく半兵衛は自ら汚名を背負うと帰蝶は語る。

 兵とは云え、それは徴兵し軍役に就いている間だけ。

 本質的に民である雑兵に、同士討ちのような真似はさせられない。


 顔見知りの人間と殺し合うと云うのは悲しい。

 仮に生き残っても禍根が残ってしまい、兵から百姓に戻った後で不幸が生まれれば目もあてられない。

 無論、懸念はそれだけではない、主君義龍の名誉と云う理由もある。

 内部分裂が起これば、それこそ雑兵に殺される可能性もあるだろう。


 武士としてそれではあんまりだ。死は避けられぬとしてもせめて切腹をさせてやりたい。

 死に際の名誉を与えてやるのが情けと云うものだろう。

 更に義龍がそのような事態に陥ればその子、龍興も危険だ。

 保身に走った者らの手によって殺されかねない、まだまだ子供だと云うのにそれではあまりにも哀れだ。


 だからこそ、いざとなれば半兵衛は自身の器量を以って最低限のラインを護れるように汚名を背負う。

 兵をまとめて陣頭に立ち、主君義龍を捕縛し織田方に差し出す。

 その上で恐らく半兵衛自身も腹を召す――否、それこそ斬首すら受け入れる覚悟を以って取り引きを持ちかける。

 責任は総て義龍と自分が背負う、ゆえに他の者には寛大な処置を――と。

 龍興に関しても叶うならば僧籍に、それが不可能ならばせめて切腹を。


「その竹中何某を利用して斎藤を崩すと申されるが、具体的な策を御聞きしてもよろしいか?」

「勿論よ滝川殿。でも、そうねえ…………うーん……」


 策自体を教えてやることは直ぐ出来る。

 しかし、上手いこと例を出して説得力を持つ文言が思い浮かばない。

 帰蝶はチラリと横目で信長を見やる。


「おいタッキー、例え話をしよう」

「え、あ……はぁ」

「お前は大きな大きな檻の中に閉じ込められていたとする。決して出ることは出来ない」


 信長は帰蝶に助け舟を出すべくその舌を回し始めた。

 弁舌と云う点では帰蝶よりも信長に分があるらしい。


「その中にはお前だけじゃなくて、実は姿が見えない敵が居る。

気配も感じなければ物音もしない、何処に居るか分からないような不気味な敵だ。

そいつが背後からいきなりお前を殴りつける――――どう思う?」

「それはまあ……何奴! と怒るでしょうなぁ」

「ああ、最初はそうだろう。しかし、怒ったところで姿は見えない。さあ、そうこうしているうちにまた攻撃が来たぜ」


 今度は股間だ、思いっきり蹴り上げられたぞ! と楽しそうに云う信長。

 一方の例に出されたタッキーは若干内股になってしまった。


「そしてまた攻撃が来る、今度は腹を思いっきり殴られた。

そこで賢いタッキーは気付いた。攻撃が来る間隔は一定だ。十数えたら攻撃が来る。

決して姿を見せず、一思いに殺すこともなくただただ痛みだけを与えて来るイヤラシイ敵だ……どう思う?」

「あまりにも恐ろしい。不安で不安で蹲ってしまうやもしれませぬ」

「それだ。一番恐ろしいのは攻撃の瞬間じゃねえ、十数える時間だ。分かるだろ?」


 タッキーのみならず他の面子もコクコクと頷いている。

 そして帰蝶はよくもまあスラスラと例え話が出来るものだと感心していた。


「帰蝶がやろうとしているのは、その確実に来る未来を見せることで不安を与えるってことさね」


 そうだろう? とウィンクを飛ばすと帰蝶は微かに笑った。

 その通り、アシストありがとう――と。


「これから稲葉山城を包囲している全軍に豪華な食事を摂らせるわ。

炊事の煙が上がり、良い匂いがあちこちに漂うような……戦場では嬉しい嬉しい温かい食事よ。

とは云え一度に全員は危ないから、各部隊の中でそれぞれ役割を分けるわ。

食べる者、その間警戒する者。前者が食べ終われば後者が食事を摂る」


 指示する際、指揮官は全員で大声で叫ぶのだ。

 『皆の者、安心せい、交代交代で全員食べられる。その上、包囲が続く限り三日に一度はこのような食事が続く』と。

 それは味方に報せると云うだけでなく敵に報せると云う意図も含んでいる。


「美濃攻略、最低限の出兵でこれまで済んでいて大軍を動かしたのもこれが初。

普通にやってて通常かかる軍事費が大幅に浮いているから、お金の心配は要らない。

今日で終わらずとも、それなりの期間、三日に一度の贅沢を楽しめるわ。

更に云えば普通に百姓として働いている時とは比べ物にならない食事を摂った兵達はどう思うかしら?

陥落すのが並大抵ではない城を包囲する際にはまたこんな飯が食えるのでは……って思うでしょうね」


 徴兵の際に士気が上がると云うことだ。


「野戦で手抜きをされると云う懸念もありますが……」

「大丈夫よ柴田殿。だから飯を振舞う際に、ちゃーんと云い含めておくの。各指揮官がね。

此度の振る舞いは忠勤に励むそなたらに対する信長様からの心配りである。

信長様は怠惰な真似をせず、一生懸命に尽くす者や功を上げる者には必ず報いてくれる――ってね」


 釘刺し兼、信長に対する人気取りだ。


「それでも別の戦でその懸念が出て来る者が居れば、一人を矢面に立たせて厳しく罰しなさい」

「見せしめですな?」

「ええ、不義理を働いたのは誰か。他の者は負い目があるから必死に働いてくれるわ、そして終わった後でちゃんと報いれば良い」


 アメとムチ、古来よりの常道である。

 今回アメを与えるのだから次、不埒なことを考えた者にムチを打つのは当然だ。


「じゃあ話を戻すわね。料理のついで、歌や踊りを見せてくれる芸者も手配しておいたわ。

兵達は大喜びでしょうね。さあ、その美味しそうな食事の匂い、楽しそうな笑い声。城に篭っている者達はどう思うかしら?」


 仮に士気高揚のため一時的に食料を多く排出しても長期的に見れば首を絞めるだけ。

 更に云えばその食事にしても量が多いだけで質は劣る。

 織田方の食事は量も質も揃っていて、尚且つ芸者まで居て腹だけではなく心も満たしてくれる。

 不安が募る、いずれ自分達は餓えてしまうと云う未来をありありと想像させられて恐怖がその身を苛む。

 不満が募る、どうして自分達はこんな目に遭っているのかと怒りの炎が滾る。

 そもそも義龍が不義を犯さねばこのようなことにはならなかった! 火消しに勤しんでも焼け石に水。

 破綻は最早確実で、最悪の事態は避けられない。ハッキリ云ってもう詰んでいるのだ、斎藤は。


「今回の食事が終わった時点で半兵衛は動くでしょうね」


 今は未だ何も行動を起こしておらず意図も伝わっていない。

 しかし動けば確実に伝わる。

 そして早ければ三日で兵を掌握して城を乗っ取り織田方へ明け渡すだろう。

 それだけの器量を持っていると帰蝶は太鼓判を押す。


「さ、分かったら皆それぞれの役目を果たしてちょうだい。

そして仕事が終わったらまた本陣に戻って来るの。兵達のものよりも更に豪華な食事を用意させて待っているわ」

「ハ!!!」


 全員が威勢の良い返事を返し本陣を出て行く。

 残された立場のある人間は織田家の当主たる信長とその正室である帰蝶のみ。

 当主たる信長が居るのはともかく、妻が戦争に参加する一員としてこんな場所に居るのは中々に珍しい光景だろう。

 滅多に見られるものではないが、しかし信長の妻ならば当然だと帰蝶は心得ている。


「見事な手腕じゃねえか」

「そう? でも、食事を用いた策は結構自信があったのよ。信長様にも見破られてないだろうって」


 少しだけ拗ねたように唇を尖らせる帰蝶。

 出会った当初から考えれば随分可愛くなったものだ。


「ま、そこは俺にも矜持がある。最近初陣を果たしたばかりの初心者さんに負けちゃあ名が廃るってもんよ」

「そう……でも良いわ。私の旦那様は誰にも自慢が出来る良い男ってことだもの」

「俺も自慢が出来るよ、神算鬼謀を以って夫を支えてくれる良い妻を貰ったってな」


 だが、それはそれとして云っておかねばならないことがある。


「だけどな帰蝶、お前に全権を持たせるって決めた手前何も言わんかったが……」

「何?」

「墨俣砦で鉄砲片手に戦ってんなよ、姿見せるだけで良いだろ。かっちゃんとかタッキーとか胃が痛いって云ってたぞ」

「昔の信長様だって随分皆の胃を苦しめてたでしょう? 私だって被害者だもの」

「うぐぅ……!?」


 うつけムーブをやっていた頃の話を持ち出されては反論が出来ない信長だった

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