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偽・信長公記――信長に転生してエクスカリバー抜いて天下布武る俺――  作者: 曖昧


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63話

 藤乃は出産から二月、休暇を挟んでから前線に復帰した。

 中国方面軍司令官の座を預けていた官兵衛から受け取り、ブランクも何のその。

 苛烈な勢いで毛利を攻め始めた。

 この段で既に三好は滅ぼされていて、包囲網に参加していた勢力で残っているのは毛利と長宗我部。

 その長宗我部も圧されていて、時間の問題。


 降伏を申し入れて来ていたが無視だ無視。

 基本的に反信長包囲網に参加表明し、宣戦を布告して来た連中は恭順と云う形を取らせはしない。

 上杉だけが例外と云っても良いが、それはある意味当然だ。

 今の上杉とかつての上杉はまるで別物。

 先代当主謙信、並びにその他重臣達がまとめてぜーんぶくたばっているのだ。


 旧態然とした体制は一掃され、今は十代二十代の若手だけで運営している。

 が、他の御家だとそうはいかない。

 当主と重臣らの首をまとめて差し出せば致命的だし、何よりそんなタイミングはとうに逸している。

 だもんで半兵衛を中心とした軍勢に長宗我部はイジメられている真っ最中だ。


 さて、話を藤乃に戻そう。

 復帰した早々、これまた後世に残る戦をやり始めたのだ。

 標的は備中高松城。この城は当時としては珍しい低湿地を利用した沼城。

 城に詰める将も手強く、真正面から攻め落とすのはかなり難しい。

 なので、


『だったら真正面から攻めなきゃ良いんですよ』


 と奇策を講じる。

 大量の金をばら撒き堤防工事を始めて数キロにも及ぶ堅固な長堤を十二日で完成させる。

 するとどうだろう? 時期も味方した――と云うより時期が時期だから藤乃はこんな方法を選んだのだが今は梅雨時。

 降り続いた雨により足守川が増水し、高松城は陸の孤島と化してしまう。

 兵糧などの物資を運び入れることも出来ず、城内の人間は真綿で首を絞めるように追い詰められてしまった。


 後は待つだけで陥落する――が、それでは時間が勿体無い。

 藤乃は堤防の上に更に簡易な砦を幾つも建造させて最低限の兵力で高松城を監視出来る体制を構築。

 城内から船で討って出られて攻め入られたとしても砦があるから護り易い。

 監視には官兵衛を残して行き、自身は小六や小一郎と共に更に西進。

 良い具合に攻めつつも、しかし微妙に手を抜いていた。

 そして頃合を見計らって信長の指示通りに援軍の要請を送る。

 要請を受けた信長は、


『俺も行くがわざわざ本軍を動かす必要もねえ。光秀、お前の軍を率いて先行しておけ。俺はお飾りの大将として後で行く』


 と命じたと云う。

 周囲は大方、藤乃は信長の威光を利用して更に毛利を切り取りやすくしたいのだろうと予想した。

 そして、信長もそれが分かっていたから明智軍を動かしたのだろうと誰もが納得。

 が、信長以外で史実を知る者が居れば直ぐに気付いただろう――――これは罠であると。

 これは再現だ、本能寺の変を起こすための再現。


 未だ不吉を漂わせる光秀――いやさ、援軍を命じるために安土へ呼び寄せた時、その不吉は更に強くなっていた。

 最早捨て置くことは出来ない。試すのならばこのタイミングしかない。

 だからこそ、博打気味に自分と奇妙丸の身を危険に晒すことに決めた。

 織田家の現当主と次期当主、仮に一気に討ち取ることが出来れば織田は四分五裂だから謀反をするのならば今回が最適。


 尚、この作戦を事前に知らされていたのは五人だけ。

 マーリン、藤乃、帰蝶、竹千代、そして巻き込むことになる奇妙丸だ。

 信長は最初、奇妙丸が拒否すれば別の形を考える気だった。

 何せ下手をすればかなりの確率で死ぬことになるから。

 しかし、


『必要なことなのでしょう? であれば何を躊躇いますか。

私には分かりませぬが、幾ら根拠が無いと云っても父上のその勘が多くの危機を感じ取って来たのは明白。

事実としてある以上、軽んずる方が愚かと云うもの。災禍の根を除くためと云うのであれば、喜んで御付き合いしましょう』


 と、実に勇敢な言葉と共に了承してくれた。

 これまで何度か大軍を動かしたこともある奇妙丸だが、あまり血の気が多いと云う感じはしない。

 だが忘れるなかれ、奇妙丸――織田信忠と云う男の親が誰なのか。

 必要とあらば最前線で敵方の大将と一騎討ちをしたり、怪獣大決戦をやらかす信長。

 同じく必要とあらば最前線の砦に籠もってハッピートリガーやっちゃう帰蝶。

 そんな二人が親なので、潜在的に血の気は多いのだ。

 ただ、普段は自制しているから表面に出ないだけで。


『私は父上のように、化け物染みた勘と云うものはありません』

『化け物染みたって……何? お前気にしてんの?』


 確かに奇妙丸は勘働きと云うものに対してそこまでの力は無い。

 とは云え大名としてやっていく分には問題が無い程度にはある。おかしいのは信長なのだ。

 匂いと云う形で不吉を感じ取るその勘は怪物染みている。重ねて云うがおかしいのはあくまで信長だけ。

 乱世ならともかく、奇妙丸が本領を発揮する治世においては十分過ぎるほどのものを彼は備えている。

 それに、信長が構築しようとしているシステムはトップの器量如何で揺るがないようにするためのものだから勘だって極論必要は無い。

 あればプラスに働くが無くても問題なく回せるようにしなければ二代以降が苦しいだけなのだ。


『いえ別に? ただの純粋な感想です。話を戻しますよ?』

『何? 俺のせいで脱線したみたいな物云いだな』

『迂遠にそう云ってるつもりですが?』

『やっぱお前帰蝶似だよ……ああ、ごめんごめん。話を戻してくれ』

『はい。私は父上のように匂いやら何やらで何かを感じ取ったことはありません――――たった一度しか』


 その一度、父から似たような感覚は聞いたことはあった。

 しかし、奇妙丸と云う人間は信長ほど勘で即断することはない。

 大体、間違っていたら不和の種を撒き散らすことになるかもしれないのだ。

 それゆえ信長から光秀について聞かされるまでは黙っていたのだが……。


『何時だったか、私、信雄、信孝、父上の四人で飲み歩いたことがあったでしょう?』

『ん? ああ、そう云うこともあったな』


 信雄が他の兄弟達に隔意を持っていることを嗅ぎ取ったためだ。

 奇妙丸は家督を、信孝は斎藤家を復興させる際の当主として内定していた。

 しかし自分だけは? 兄弟達への嫉妬、自分に対する失望。

 良い具合に鬱々と悩んでいたのだ、それを解消するために飲みに誘ったのだ。

 詳しくは省かせてもらうが向き不向き、信雄にしか出来ない道があるのだと信長が諭したことで問題は解決。

 後はもうべろんべろんになるまで飲み明かした。


『父上も信雄も信孝も潰れてしまって私一人が残されました』


 一人だけなら担いで帰れるが、三人は流石にキツイ。

 親子の語らいだし、飲み歩くと云っても城下。お供も連れて行かなかった。


『置いて帰ろうかと真剣に考え出した時、ふと視線を感じて店の外を見てみればそこに光秀が居ました。

何をするでもなく、じっと此方を見ていた。私が気付いたので直ぐに駆け寄って来ましたが……』

『が?』

『一瞬、それこそ一瞬。凝縮され切って、元が何だったのかも分からない泥のような情念を感じたのです』


 それを言葉で表現するのは難しい。

 しかし、奇妙丸は確かに感じ取った。

 父のそれと同じく、鼻で。濁り切って腐乱し切った匂いを。


『まあ、その後は特に何もなかったし平常通りだったので気のせいかと思っていましたが……』


 信長から光秀のことを聞き、自分を囮に使いたいと乞われた際に思い出した。

 元々勘に頼るタイプでもないし、下手に不和を撒き散らしても意味は無い。

 そう判断して奇妙丸は光秀についての話をしたのだ。


『嫉妬なのか羨望なのか憎悪なのか愛情なのか……私には判別がつきませんが、まあそう云うことです』


 自分も気になることがあって、自分よりも勘働きに長けている父も気にしているのならばやってみるべき価値はある。

 現当主と次期当主の意見が一致した以上、やっておくべきだろう。


『ふむ、情念……か』


 まあ確かにそう云うものは信長も感じたことがある。

 初対面の際に覚えた、純粋で独善的で、何とも云い難いナニカ。

 ともあれ、こうして奇妙丸の了解も得た信長は本能寺トラップを仕掛けることを決断した。

 光秀に援軍を命じた後、信長は奇妙丸と共に百騎ほどを引き連れて入京。

 本能寺で公家の人間と会ったり、文化人と交流したりしながらのんべんだらりと時を消費。

 夜になると寺内に割り当てられた私室で酒を嗜みつつ奇妙丸と共にその時を待っていた。


「飲んでて大丈夫なんですか? いざと云う時に酔ってて死にましたじゃ笑えもしませんよ」

「ん? ああ、大丈夫だよ。気が緩んでる時じゃねえと酔わねえ体質だからな」


 特に何か訓練をしたわけでもなく、体質、或いは気質か。

 酒を飲んで酩酊し緊張を解すと云う手段を昔、ルーキーホスト時代に試したことがある。

 ところがどっこい、全然酔うことが出来ないのだ。


「(遠足の前日は眠れないタイプだったからなぁ……それと似たようなもんだろうか?)」


 史実を知っているだけに、自ら招いたものとは云えこの夜は無視出来ない。

 年数にこそズレはあるものの、シチュエーション的にはガチリと嵌まっている。

 此処で死ぬわけにはいかない。本能寺の"変"は決して起こさせない。

 裏切りが起きたのだとしても本能寺の"乱"で済ませなければならない。

 こんなところで夢を終わらせてしまえば死んでも死に切れないだろう。


「ところで父上」

「ん?」

「父上は幕府を開かれるおつもりなのですか?」

「おう」


 別に幕府でなくとも問題はない、それこそ史実の秀吉のように関白や太閤でも。

 しかし、分かり易さと云う面では征夷大将軍以上のものはない。

 だってそうだろう、平民からすれば関白? 太閤? となるのは目に見えている。

 歴史の授業があるわけでもないし、摂関政治なんて云われても何それ? ってなもんだ。

 教育を受けていれば官職総ては把握しておらずとも関白や太閤ぐらいは分かるだろうが平民向けを考えるなら将軍がベストだ。

 幕府、将軍、日ノ本においてこれほど分かり易い記号もそうそうない。


 だから一先ずは征夷大将軍、退いてからは朝廷への脅しもかねて関白の椅子をもぎ取ろうかな? 程度には考えている。

 朝廷からすれば公家の最高位なのでそこに武家の人間が入って来るのは面白くない。

 ハッキリ云ってしまえば嫌だ。それゆえ、関白就任と云うのは将軍に就任するよりも難しいわけで、だからこそ価値がある。

 一般向けではなく、分かる人間に向けて織田の力を示すために。


「でも、家って源氏でしたっけ?」

「んにゃ。元々は神主だか何だかの家系だろ? 途中から箔付けのために藤原氏を名乗り始めたみたいだが……」


 そして信秀の代で今度は平氏だとか自称していたりする。

 ひっじょーに怪しいこと極まりないが、この時代ではよくあることだ。

 源氏って吹いてみたり平氏って吹いてみたり藤原氏って吹いてみたりやりたい放題。

 実質的な力さえあれば家系図なんてテキトーに捏造して朝廷に圧力かけて認めさせるなんて朝飯前だ。

 ただまあ、史実の秀吉ほど出自がハッキリしていれば誤魔化すのも難しいのだが。


「大丈夫なんですか? 将軍と云えば源氏長者じゃ……」

「いや、そうでもないみたいだぜ? ただまあ、そう云う認識が大きいようだがな」


 源氏長者と征夷大将軍はイコールではないのだ。

 実際、平氏や藤原氏が征夷大将軍に任ぜられた例もあるのだから。


「それに、いざとなりゃあ源氏を名乗れば良いだけだ。

実際は子孫でも何でもねえだろうが、第三者からすれば俺が源氏の末裔ってのは説得力あるだろうしな」

「と云うと?」

「コイツだよ」


 云うや信長は聖剣を召喚する。

 はて、聖剣エクスカリバーが? と首を傾げる奇妙丸だが直ぐに気が付いた。


「ああ……そう云えば、聖剣伝説の中には義経が抜いたと云うのもありましたね」


 一度も抜かれていないと云う伝説もあれば、義経が抜いて己は聖剣の担い手たる器にあらずと刺し戻した伝説がある。

 実際は後者に近く義経が抜いたものの、直ぐにいらねーよと戻したわけだが。

 一応はマーリンに認められたのだが、経過と最期を見るに不適格な気がしないでもないが――まあそれはどうでも良いことだ。


「そう云うこと。義経の血を継ぐ俺だから抜けたって考えるのもそう不思議じゃねえ」


 実際、巷では信長は過去の英傑に例えられる際に義経の名が上がることが多い。

 ヒロイックな伝説を幾つも打ち立てて居るからだろう。

 桶狭間に始まり京での大立ち回り、謙信との一騎討ち等等――実に英雄的だ。

 そう云う意味で八艘ビートしちゃったり鹿でもいけるなら馬でも余裕! とかやっちゃう義経と似ていると云えば似ている。

 他にも信長自身は別にそうとは思っていないが、奇襲の名人と云う評価でも義経とダブっている。

 信長は桶狭間や叡山、義経は逆落とし、ちょっとでも共通点があれば結び付けてしまうのが民衆だ。

 だってその方が話が盛り上がるし。


「現に世間じゃ俺を義経の再来だなんて云う人間も居るからなぁ……古の英傑に例えられるとは光栄なもんだ」

「他にも曹操などにも例えられてますね」


 革新的な覇王様、有能な人材を発掘した上でその活用が上手いこと、そして女好きと云う意味でも。

 が、信長としては誰に例えられても良いが曹操だけは御免だった。


「ハ! 俺はアイツみたいに女好きでやらかしてねえし、そもそも人妻は守備範囲外だっつの」


 実にくだらないこだわりである。

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