【慟哭のベンチと、白紙の赦し】
【慟哭のベンチと、白紙の赦し】
二月の冷たい風が吹き抜ける、東京の小さな公園。
街の喧騒から少し離れたベンチで、身長180センチ近い大男――高倉竜は、ボロボロと大粒の涙をこぼしながら肩を震わせていた。
「……悪かった」
絞り出すような、ひび割れた声だった。
竜の魂の奥底には、かつて愛した女(貂蝉)を守れず、義父(董卓)を裏切り殺したという『呂布』としての深い業と罪悪感が刻まれている。
だからこそ彼は、董卓に支配された持子の本来の魂を救うため、自らの槍で彼女の心臓を貫くという悲壮な覚悟を決めて、地下ダンジョンの最深部へと向かっていたのだ。
「俺……お前を、殺そうとした……っ」
竜は両手で顔を覆い、獣のような嗚咽を漏らした。
世界中が敵に回ろうと護り抜くと誓ったはずの、最愛の幼馴染。
彼女の命を、己のこの手で終わらせようとしたという事実が、強靭なSSSクラスの武神の心をズタズタに引き裂いていた。
その隣で、恋問持子は目を丸くして固まっていた。
七星宝剣の呪縛により、過去二年間『魔王』として君臨していた記憶を失い、精神年齢が16歳の純朴な少女に戻っている彼女には、竜が背負ってきた地獄や、世界規模の死闘の背景など知る由もなかった。
(竜が……わたしを殺そうとした?)
意味が分からなかった。
けれど、目の前で丸くなって泣きじゃくる幼馴染の姿は、ひどく小さく、傷ついているように見えた。
「……よく分かんないけどさ」
持子はそっと手を伸ばし、竜の分厚く大きな背中を、不器用な手つきでポンポンと叩いた。
「竜は今、わたしを見つけてくれたでしょ?」
「……っ!」
「昔からそうだよ。わたしが泣いてる時は、絶対に見つけてくれた。……だから、もういいよ。泣かないで、竜」
持子のその真っ直ぐで純粋な言葉は、記憶を失っているからこその『白紙の赦し』だった。
竜は弾かれたように顔を上げ、涙で濡れた無骨な顔で持子を見つめた。
彼女の陽だまりのような温かさに触れ、竜の胸の奥で真っ黒に渦巻いていた絶望が、少しずつ溶けていく。
「……ああ。俺の命に代えても……これからは絶対に、お前を護り抜く」
不器用な武神は、血の滲むような決意と共に、もう二度とこの手を離さないと己の魂に誓った。




