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【光と影の反撃、バディの絆と「二人の持子」への誓い】

【光と影の反撃、バディの絆と「二人の持子」への誓い】



大英博物館のグレート・コートを包む空気は、もはや絶望の霧ではない。


それは、恋問持子がその身に宿す、あまりにも甘美で、それでいて強烈な「生の執着」が具現化した桜色の魔力だった。


「今だよ、楓ちゃん! こいつの心は、わたしが完全に縫い留めたっ!!」


持子の叫びが、ガラス屋根に反響する。


しかし、その声に応えるべき特級エージェント、風間楓の足は、一瞬だけ地を蹴ることを拒んだ。



(……この感覚。今の持子お姉さんは、本当に……)



楓は戦慄していた。

背中を向けて立つ持子から放たれるオーラは、かつての暴虐な『魔王(董卓)』の力とも、今の純粋な『持子』の魔力とも違う、人の理性を内側から蕩かすような、甘く危険な劇薬そのものだった。


特級エージェントとしての生存本能が、楓の耳元で警鐘を鳴らす。


『その背中を信じていいのか?』

『あの魔性に、彼女自身が呑まれていないか?』


わずかな不信。

それが楓の鋭い踏み込みを、コンマ数秒だけ遅らせた。


だが、その迷いの中で、楓の思考は急速に加速し、彼女自身の深層心理へと沈んでいく。

楓にとって、「恋問持子」という存在は、もはや一言では言い表せないほど巨大なものになっていたからだ。



(……私は、何を恐れているんですか。持子お姉さんが、変わってしまうこと?)



脳裏をよぎるのは、この二年間を共に歩んだ『魔王(董卓)』としての持子の姿だ。


あの頃の彼女は、とにかく無茶苦茶だった。

楓を何度も死ぬほどの手間に巻き込み、肝を冷やさせた。


さらには、事あるごとに楓の体をジロジロとエロい目(おっさんそのものの視線)で見ては、過度なスキンシップを図るなどデレデレし、そのたびに楓は辟易して拳を固めたものだった。


けれど――それ以上に、彼女は楓を護ってくれた。


誰よりも強く、誰よりも傲慢で、けれどバカが付くほどに可愛らしく、愛嬌があった。

理屈抜きに気が合って、一緒にいるだけで楽しかった。


何より、自分の大切な兄・洋助の妻である桐子の妹となり、図らずも自分にとって「義理の姉」という家族になってしまった。


家族を何より大切にする風間家にとって、彼女は「護るべき対象」から、血の繋がりを超えた「愛すべき家族」へと昇華していたのだ。



(そして……今の持子お姉さんも)



記憶を失い、魔力の扱いも、モデルとしての輝かしい成功もすべて忘れてしまった今の彼女。


ビビリで、言葉は悪いが本当におバカで、すぐに「なまら怖いよぉ」と泣き出す弱虫。


けれど。


記憶を失い、空っぽになったはずの場所から、彼女はまた自分の足で歩き出した。

二年間の魔王持子としての出来事に目を背けずに、涙を流しながらも足掻いている。


その弱く、けれど気高いほどに懸命な姿に、楓の心は痺れた。


圧倒的な力で君臨していた魔王の時よりも、今の彼女を、楓は「かっこいい」と感じてしまったのだ。



(魔王持子も、今の持子も……どちらも私を惹きつけてやまない、私の大切で、大好きで……たった一人の親友だっ!)



「楓ちゃんっ! わたしを、信じて!!」


再度響いた持子の声。


振り向いた彼女の黄金の瞳には、快楽の淵に立ちながらも、決して自分を見失わないという、強靭な「恋問持子」自身の意志がはっきりと宿っていた。


それは、魔王としての傲慢さでも、弱者の悲鳴でもない。


「友達を助けたい」という、ただそれだけの、純粋で無垢な正義感。



(……ああ。そうだ。私は、彼女を信じると決めたはずだ)



楓の心から、最後の一片の迷いと、過去へのトラウマが消え去った。


大切な家族を二度と失わない。

二人の「持子」が、一人の少女としてここに立っているのなら、そのすべてを肯定して、護り抜く。


「――応ッ!!」


楓の全身から、白銀の神気が爆発的に噴き上がった。

もはや『生太刀』は震えていない。


神速の歩法『無足』。


音すらも置き去りにしたその一歩は、完全に精神を縫い留められたアザゼルの懐へと、刹那のうちに潜り込んだ。


「二度と、私から家族を奪わせはしない……! 消えなさいッ!!」


冷徹な宣告と共に、下段から跳ね上がった白銀の閃光。

『生太刀』の浄化の刃が、古代遺物の呪いごと、アザゼルの胸の奥にある黒い霊核を真っ二つに両断した。



『ア、ァ…………ッ!!』



断末魔の叫びすら上げさせない。


アザゼルの本体は無数の光の粒子となって崩壊し、大英博物館を包んでいた呪いの霧と共に、ロンドンの夜空へと霧散していった。



* * *



静寂が戻った館内で、楓は真っ先に持子へと駆け寄った。

崩れ落ちそうになる持子の体を、その細い腕でしっかりと支える。


「楓ちゃん……やった、よ。……信じて、くれた……?」


泣きそうな、いつもの情けない、けれど温かい声。


楓は持子を抱きしめる力を強め、耳元で静かに、けれど揺るぎない決意を込めて告げた。


「ええ。当たり前です。貴女がどんな姿になっても、何を忘れても……貴女は私の、世界で一番の親友なんですから」


その胸の中には、かつての魔王への愛惜と、目の前の少女への敬意。


その両方が、一つの大きな「家族愛」となって、楓の心に深く根を下ろしていた。


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