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【七星宝刀・精神決戦 ―魔神を喰らう真・恋問持子―】 ―偽りの楽園を喰らう、真なる絆の拳―

【七星宝刀・精神決戦 ―魔神を喰らう真・恋問持子―】


―偽りの楽園を喰らう、真なる絆の拳―


「七星宝刀」の深奥に広がる、光も音も存在しない精神世界。

そこは外界の物理法則から完全に切り離された「魂の檻」であり、時間の流れすらも曖昧な絶対の虚無である。


かつて三国志の世を恐怖で支配した魔王・董卓の醜悪なる魂が、この空間の底なしの暗黒へと叩き落とされてから、主観時間にしてどれほどの時が流れただろうか。

すべてを諦め、摩耗し、自然消滅していくはずの敗者の魂。それを悠然と見下ろしながら、魔神マーラは勝利の美酒に酔いしれていた。


虚無の空間の中層部には、マーラの魔力によって創り出された、退廃的で絢爛豪華な「欲望の宮殿」が浮かび上がっていた。

桃色の瘴気が甘い香りを放ち、ふかふかの絨毯が敷き詰められた広大な天蓋付きのベッド。その中央で、中性的で超越的な美貌を持つ魔神マーラは、だらしなくも優雅に身を横たえ、至高の快楽を貪っていた。


「ああ……素晴らしい。実に愛おしいよ、君たちは」


マーラに寄り添い、その肌にすり寄っているのは、いずれも絶世の美少女たちだった。

だが、彼女たちは本物ではない。マーラが恋問持子の記憶の底から引きずり出し、己の魔力と魅了チャームで捏造した「偽物の下僕たち」である。


マーラの右腕には、本来なら持子を狂信しているはずのトップモデル・**本多鮎**が、蕩けたような表情でしなだれかかり、マーラの指先に甘く吐息を吹きかけている。

足元には、持子の同級生である**花園美羽**が、泥棒猫のような執着をすべてマーラに向けながら、猫のように喉を鳴らしてその足元にすり寄っていた。


「マーラ様……あたくしの愛の魔力も、どうかお納めくださいませ……っ」


五百年の時を生きる吸血鬼**エティエンヌ**が、恍惚とした表情で豊満な胸を押し当て、マーラの口元に魔力を帯びた紅い葡萄酒の杯を運ぶ。

その後ろでは、絶対の忠誠を誓うメイド・**シャーロット**が、虚ろな瞳でただひたすらに祈りのポーズを捧げながらマーラの神威を讃えている。


さらに少し離れた場所では、京都の令嬢である**葉室鶴子・桐子**の双子姉妹が、互いの魔力を絡ませ合いながら、マーラへの奉仕の順番を待ちわびて熱い視線を送っていた。

そして、宮殿の入り口には、氷の剣士・**風間楓**が、感情を完全に抜き取られた操り人形のように、マーラを守るための番犬としてかしずいている。


「ふふふ……最高だよ。あの醜悪な肉だるま(董卓)が、これほど極上のエサを現世に隠し持っていたとはね」


マーラは、エティエンヌから葡萄酒を受け取りながら、酷薄な笑みを深めた。

七星宝剣の封印が解け、自分が恋問持子の完璧な肉体――「貂蟬の器」を乗っ取って現世に降臨するまで、まだ少しの時間がかかる。

この偽物のハーレムは、いわばその封印が解けるまでの「暇つぶし」であり、現世で彼女たち本物を蹂躙するための「予行演習アペタイザー」に過ぎなかった。


そして何より、マーラの隣には、持子が誰よりも愛し、執着し、絶対的な精神の支柱としていたプロデューサー・**立花雪**の幻影が座っていた。

偽物の雪は、本来の彼女が絶対に見せないような、卑屈で媚びへつらうような笑みを浮かべ、マーラの肩を優しく揉みほぐしている。


「マーラ様……あなたは、私が見出した最高の存在ですわ。持子なんていう紛い物、あなたの前ではただのゴミ屑でしかありません」


「はははっ! いいね、雪。君のその言葉を、あの深淵で泥を啜っている豚(董卓)に聞かせてやりたいものだ。今頃、自我が完全に崩壊して、塵に還る寸前だろうがね」


マーラは、偽物の雪の顎を指ですくい上げ、悦に浸る。

神である自分に、人間程度の魂が敵うはずがない。精神のどん底に落ちた魂は、自らの業と絶望に押し潰されて消滅する。それがこの宇宙の絶対法則だ。

マーラには、一片の疑いも、一滴の油断もなかった。彼の意識は、完全に「現世での快楽」と「持子の肉体の支配」へと向いていた。


**――ゆえに、魔神は気づけなかった。**


殺気も、魔力も、闘気すらも。

一切の「力」の波長を発さず、ただ自然のことわりに完全に溶け込んで、深淵の底から這い上がってきた「一つの影」に。


「さあ、雪。そろそろ私に、君のすべてを――」


マーラが偽物の雪に顔を近づけた、その瞬間。


**――――ヒュッ。**


音ではなく、空間そのものが「ズレた」ような感覚。

マーラの金色の瞳が、信じられないものを見るように見開かれた。


目の前。

ほんの数十センチの距離に。

消滅したはずの、いや、決してそこに存在するはずのない者が、立っていた。


雪のように白い肌。夜の帳を織りなしたような漆黒の髪。そして、全てを射抜くような紅蓮の瞳。

かつての醜悪な肉だるまの面影は欠片もない。貂蟬の完璧な美貌と肉体、そこに神々と仙人・左慈の力が完全に融合した、究極の姿。


**真・恋問持子**が、マーラの懐に「入り身」の歩法で完全に入り込んでいた。


「な……!?」


魔神の思考が、驚愕によって一瞬だけ硬直する。

その一瞬は、極限まで磨き上げられた「合気武道」の世界においては、永遠にも等しい致命的な隙だった。


持子は武器を持っていなかった。

彼女の放った一撃は、剣でも魔法でもなく、純粋な身体の理と気の流れを極限まで圧縮した「素手の突き(当身)」だった。


(――丹田に気を落とし、天地の軸を繋ぐ。魔神の放つ膨大な気流(魔力)の螺旋を逆算し……その中心点ゼロに、わしの『業』を叩き込む!)


「シッ――!!!」


鋭い呼気と共に、真・持子の右拳が、マーラのみぞおち(水月)に向かって一直線に放たれる。

それは力任せの打撃ではない。マーラ自身が周囲に展開していた無意識の防御魔力と、彼自身の存在の重力、そのすべての「力」を絡め取り、一点に集約して内部へと浸透させる、合気武道における究極の「縦拳」。


**――ゴォォォォォォォォンッ!!!**


精神世界そのものがへし折れたかのような、低く重い爆音が轟いた。

直後、マーラの背中側から、黄金に輝く神の血と、破壊された概念の破片が円錐状に激しく吹き飛んだ。


「が、はっ……!? ぁ、あああああああああああッ!?」


絶対的な存在であるはずの魔神の口から、無様な絶叫と鮮血が迸る。

合気の突きは、マーラの外側の防御を完全にすり抜け、その自我の「核」を直接粉砕するほどの威力を持っていた。


マーラの身体は、自身の創り出した欲望のベッドをへし折り、宮殿の壁を何枚もぶち抜きながら、遥か後方の虚空へと吹き飛ばされていく。

偽物の下僕たちが悲鳴を上げて散り散りになる中、真・持子はゆっくりと突き出した右拳を引き戻し、すり足で残心を取った。


「……ふぅ」


静かな呼気。

だが、その内面では、持子は滝のような冷や汗を流し、ギリッと奥歯を噛み締めていた。


(……ちっ! 完璧なタイミング。左慈の仙術も、貂蟬の肉体のバネも、わしが北海道で叩き込まれた合気の理も、すべてを120パーセント出し切った最高の一撃だったというのに! あの感触……コアを完全に砕き切るには至らんかったか!)


持子は、自身の拳に残る痺れを感じながら、魔神という存在の理不尽さに戦慄していた。

精神の底で貂蟬の残滓と融合し、「真」の姿として覚醒した持子。気配を完全に殺し、魔神が最も油断する「絶頂の瞬間」を狙い澄ました、単騎での決死の不意打ち。

これだけのハンデを背負わせて、なお一撃で消し飛ばせない。


(なんて規格外の化け物だ……。だが、これでようやく「同じ土俵」だ)


持子が視線を上げると、崩壊した宮殿の瓦礫の中から、マーラがゆっくりと立ち上がってくるのが見えた。

その超越的な美貌は苦痛と屈辱に歪み、みぞおちのあたりからは黄金の粒子が絶えず漏れ出している。明確な「致命傷」に近いダメージだ。


「……あり、得ない。人間……たかが、欲に塗れた人間の、しかも武器すら持たない素手の一撃が……! 神であるこの私の、自我の根源を穿ったとでもいうのか……!?」


マーラの声には、先程までの余裕は微塵もなかった。

あるのは、理解不能な現象に対する恐怖と、神としてのプライドを泥で汚された烈火のごとき怒り。


「ふ、フハハハハハッ!!」


持子は、内なる焦りを完全に押し殺し、かつて天下を震撼させた「魔王・董卓」としての傲岸不遜な笑い声を響かせた。


「何を驚いておる、マーラよ。わしをただの朽ち果てた肉塊だと思っておったか? 甘いわ、なまら甘すぎて反吐が出るわい! 貴様がわしの『絆』を偽造してオママゴトに興じている間に、わしは地獄の底で、己の牙を研ぎ澄ましておったのだ!」


持子はビシッと指をマーラに突きつける。


「言ったはずだぞ。わしは“奪う者”だとな。貴様がわしの身体を奪うというのなら、わしは貴様のその神の自我ごと、丸呑みにして喰らい尽くしてやるわ!」


「……小癪な。偶然一撃が入った程度で、勝った気でいるとはな。ならば教えてやろう、董卓。お前がどれほど足掻こうと、お前の愛した世界は、すでに私の手中にあるということを!」


マーラが血を吐きながらも指を鳴らすと、周囲に散らばっていた「偽物の下僕たち」――鮎、美羽、エティエンヌ、シャーロット、鶴子、桐子、楓、そして雪が、一斉に立ち上がり、虚ろな瞳に凶悪な殺意を宿して持子を取り囲んだ。


「やれ。その生意気な小娘の四肢を引きちぎり、私の前に跪かせろ」


偽物とはいえ、彼女たちが放つ魔力とプレッシャーは本物に肉薄している。

多勢に無勢。しかも相手は、自分が現世で最も愛し、大切に思っている者たちの顔をしている。精神的な揺さぶりとしては最悪の盤面だ。


だが、真・持子はたった一人、微塵も揺らぐことなく正眼に構えた。


「……下劣な真似を。だが、都合がいい」


持子の紅蓮の瞳が、静かに燃え上がる。

アスタルテはまだ呼んでいない。他の下僕たちの魂も、今はまだ温存する。

まずは目の前の「己を冒涜する偽物ども」を、この己の拳一つで片付けて、魔神への道を作る。


「わしの愛した者たちは、そんな薄っぺらい人形ではないということを……わしの『合気』で、貴様のその腐った眼球に叩き込んでやるわ!」


七星宝剣の深淵において。

神と魔王による、己の存在と肉体を賭けた血みどろの最終決戦が、ついに幕を開けた。

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