【聖天使の城に眠る記憶】
【聖天使の城に眠る記憶】
「ふぁぁぁぁ……っ、疲れた……」
雲海の上を滑るように飛ぶ超豪華なプライベートジェットの機内で、恋問持子は最高級の革張りソファに深く沈み込みながら、だらしない声で大きく伸びをした。
パリでの過酷な撮影――いや、もはや『地獄の試練』と呼ぶべきカタコンベでの一件を終え、一行は今、イタリアの首都ローマへと向かっている。
「本当にお疲れ様でした、持子お姉さん。あの極限状態の中での撮影……素晴らしい集中力と気高さでしたよ」
向かいの席で、大親友であり持子の絶対的な護衛である風間楓が、優雅な手つきでティーポットを傾けながら微笑みかけてくる。注がれたダージリンティーからは、ふわりと心を落ち着かせる香りが漂ってきた。
「うぅ……楓ちゃんがそう言ってくれるのはなまら嬉しいけど、思い出すだけで顔から火が出そうだよ……」
持子は両手で顔を覆い、ソファの上で身悶えした。
パリの地下墓地での極寒の撮影中、寒さしのぎにとスタッフから渡された『ほぼ原液のブランデー入り紅茶』。酒類を一度も口にしたことのない純朴な十八歳の女子高生の身体に、あのような劇薬が回った結果、持子の奥底に封印されていた最悪の神格【第六天魔王マーラ】の力だけが『発情』という最悪の形で暴走してしまったのである。
「あんな……あんな、男性も女性もみんな発情させてしまうような恥ずかしい写真……。データは雪さんが完全に封印してくれたと聞いてはいるけれど、それでも恥ずかしくて死にそうだよ……。性的行為は結婚してからと固く心に決めているのに……わたしのお嫁入り前が……!」
「ご安心ください。雪社長が情報統制を完璧に行っていますし、もし万が一、あの場にいたスタッフの誰かが口を滑らせるようなことがあれば……」
楓の瞳の奥に、スッ、と絶対零度の冷たい光が宿った。
「その者の舌から先を、私が物理的に切り落とします」
「楓ちゃん!? 安心させるポイントがいつも物理的で暴力的すぎるよ!」
持子が涙目で指摘すると、楓はいつもの可憐な女子高生の顔に戻り、「冗談ですよ」と小さく笑った。特級エージェントであり、暗殺一族の末裔である彼女の冗談は、全く冗談に聞こえないため、持子は恐怖を感じた。
「それにしても……雪さんって、本当にすごいよね」
持子は手元のティーカップを両手で包み込みながら、窓の外の青空へと視線を向けた。
「わたしがパリで混乱していた時も、すぐに日本の東京から通信を繋いでくれて。このプライベートジェットも、超高級ホテルも、全部雪さんが完璧に手配してくれたんだもん。遠く離れていても、いつもわたしを守り、導いてくれる……。雪さんの海みたいに深い愛情に、わたし、どうやって恩返しすればいいんだろう」
天涯孤独の孤児院育ちで、いじめられてばかりいた持子を、暗闇から救い上げてくれた大恩人。持子にとっては憧れの存在であり、本当の母親のような存在である。
「雪さん、今頃日本で無理をしていないかな……。ちゃんと食事をとっているかな」
「……ええ。雪社長のことですから、持子お姉さんのために、寝る間も惜しんで世界中を裏から支配するための謀略……いえ、お仕事に邁進されていることでしょう」
楓が紅茶を啜りながら、内心で何か重たい言葉を飲み込んでいるような気配がしたが、持子は気づかないふりをした。
雪は、時には分厚い企画書で持子の後頭部を殴りつけてくるような厳しいプロデューサーでもあるが、その根底にあるのは無償の愛である。持子は、そんな雪のことが大好きであった。
「さあ、持子お姉さん。ローマに到着するまでまだ時間があります。今のうちに少し眠っておいてください。到着後は、危険な裏社会の任務や撮影から離れて、お二人でのんびりと『ローマの休日』を楽しみましょう」
「うん! 楓ちゃんとの散策、なまら楽しみ!」
持子はティーカップを置き、ふかふかのブランケットに包まりながら、心地よいジェット機の揺れに身を委ねた。
* * *
「うおおおおおっ!! 楓ちゃん! 見て見て、あそこ!!」
ローマのフィウミチーノ空港から専用車で市内へと入り、ホテルに荷物を預けた二人は、完璧な『変装』に着替えて、さっそくローマの街へと繰り出した。
今回の持子の変装は、黒髪のツインテールロングに前髪あり、ばっちり決めた化粧。生まれつきの黄金色の目に、高身長でモデル体型、そして巨乳を強調するようなレザージャケットにタイトミニスカート、クロップドトップス、網タイツにロングブーツという、なまら過激な服装である。最初は恥ずかしかったが、いざ着てみると意外と楽しくなってきた。
逆に楓は、かつての『魔王持子』を彷彿とさせる服装である。
リュクス・アンペリアルに所属する化粧の専門スタッフから直接『魔王持子風の化粧』を伝授してもらった楓の外見は、まさに全盛期の魔王持子そのものとなっていた。黄金色のコンタクトを装着し、大きなサングラスをかけ、全身を高級ブランドで隙なく揃えている。どこからどう見ても世界的なセレブにしか見えないその佇まいは、事情を知る裏社会の者たちからすれば、もはや『魔王持子』の完成度であった。
さんさんと降り注ぐイタリアの太陽の下、石畳の道を歩きながら、持子の興奮は早くも最高潮に達していた。
視界の先に現れたのは、テヴェレ川のほとりにそびえ立つ巨大な円筒形の城塞。頂上には剣を振りかざした大天使ミカエルの銅像が青空に向かって輝いている。
「あれが『サンタンジェロ城』ですか。二世紀にハドリアヌス帝の霊廟として建てられ、後に要塞や牢獄としても使われた歴史的建造物ですね。事前の脅威度評価では、霊的な淀みは少ないはずですが……」
「違うよ楓ちゃん! 歴史とかそういうんじゃなくて! ここはテレビ番組『水曜どうでしょう』の聖地なんだよ!!」
「……はい? 水曜、どうでしょう……?」
目を丸くする楓に向かって、持子は身振り手振りを交えながら熱弁を振るった。
「ヨーロッパ二十一ヵ国完全制覇のスタート地点! 出演者たちがレンタカーでヨーロッパ中を走り回る番組。スタートがこのサンタンジェロ城の前の広場なの! ほら、ディレクターが浮かれすぎて、朝から走って足首を捻挫した伝説の場所!!」
「……ディレクターが、捻挫?」
「そう! 出演者に『何やってんだお前!』と突っ込まれる、あの名場面!! あはははは! まさか自分がその聖地に来られるなんて、なまら感動だよ!」
持子はサンタンジェロ橋のたもとで一人で大爆笑しながら、ぴょんぴょんと飛び跳ねた。
楓は、持子の熱弁と番組の笑いのツボが全く理解できず、「はぁ……捻挫がそんなに面白いのでしょうか……?」と首を傾げている。
そのままの勢いでサンタンジェロ城の屋上へと登ると、二人はおもむろに鞄からカメラを取り出した。二人は、実は無類のカメラ好きである。
高校の写真部であった楓の愛機は、フルサイズデジタル一眼レフカメラ『PENTAX K-1 Mark II』。レンズは『HD PENTAX-D FA★ 85mm F1.4 ED SDM AW』か『HD PENTAX-FA 77mmF1.8 Limited』を状況に合わせて使い分け、そのレンズ交換の速度は極めて速い。一方、持子のお供はコンパクトな名機『RICOH GR4』である。
屋上からローマの街並みを見下ろす席で、持子はGR4を構え、楓にレンズを向けた。ファインダー越しに見るその構図は、以前に雪とここを訪れた時に撮影したものと全く同じであった。
そして今の楓も、同じくらい綺麗である。レンズを向けると、楓は珍しくふわりと柔らかい笑顔を向けてくれた。シャッターを切る。プレッシャーから解放され、年相応の無邪気な笑顔を取り戻せた自分に気づき、持子は照れくさくも嬉しい気持ちになった。
持子もGR4でローマの街や楓をたくさん撮影したが、それ以上に楓が、神速のレンズ交換を駆使して持子の写真を撮りまくってくる。
「持子お姉さん、こちらの光の加減が素晴らしいです。次は少しアンニュイな表情で……完璧です」
変装してギャルになっている持子を、楓が様々な角度から激写する。最初は恥ずかしかったが、だんだん楽しくなってきて、ポーズまで決めてしまった。極めて幸せな時間である。
――だが、その直後であった。
『……っ、あははははっ! 雪照れているのか!』
(……あれ?)
突然、脳裏に奇妙なフラッシュバックが走った。
持子は今、楓と一緒にいるはずである。頭の中に浮かんだ映像は、狭い車の中で、硬いフランスパンを齧りながら、雪と一緒に大口を開けて笑い合っている光景であった。
(わたし、前にも雪さんと……ここで大笑いしたような……?)
こめかみが痛む。
それは、持子が記憶を失う直前――魔王としての自我を保っていた頃、真祖の吸血鬼エティエンヌのトラウマから逃避するために、南仏からパリまで強行した「番組風の企画」の記憶の残滓であった。
時系列も場所も混濁している。今の持子には、それがいつ、どこであったことなのかを正確に思い出すことはできない。ただ、「雪と共に騒いだ、最高に楽しくて温かい記憶」の断片だけが、確かな熱を持って胸の奥に蘇ってきたのである。
「持子お姉さん? どうかしましたか? 急に立ち止まって」
「あっ……ううん、なんでもないよ! ごめんね、ちょっとぼーっとしてしまった」
持子は慌てて首を振って笑顔を作り、楓の手を引いて歩き出した。
失われた過去の記憶。それは時折、こうして唐突に顔を出す。怖い記憶も多いけれど、雪との記憶はいつも、持子を安心させてくれるものばかりであった。
* * *
「うわぁぁぁ……! なまら良い匂い!!」
ローマの入り組んだ裏路地を歩いていると、香ばしい小麦粉の焼ける匂いと、トマトソースの酸味が混ざり合った絶妙な香りが漂ってきた。
匂いの元は、地元の人々で賑わう小さなテイクアウト専門のピザ屋であった。
「楓ちゃん、あれ食べたい! 揚げピザ!」
「ピッツァ・フリッタですね。ナポリ発祥のストリートフードですが、ローマでも人気があります。……熱量計算としては少し危険な数値になりますが、今日の持子お姉さんは消費量も多いですし、特別に許可しましょう」
「やったぁ!! 楓ちゃん大好き!!」
持子は小銭を握りしめ、出来立てのアツアツなピッツァ・フリッタを二つ購入した。
半月型に折りたたんで揚げられた生地は、大人の顔ほどもある特大サイズ。紙袋越しに伝わってくる熱気に、食欲がそそられる。
「いただきまーす!! はむっ……! ぁふっ、あっちぃぃぃっ!!」
「持子お姉さん、気をつけてください。中のチーズがマグマのように高温ですから」
楓の警告も一歩遅く、持子は口の中を軽く火傷しながらも、ハフハフと生地を噛みちぎった。
サクッとした表面の食感の後に、もっちりとした生地の甘みが広がる。そして、中から溢れ出してくるのは、濃厚なリコッタチーズと塩気の効いたパンチェッタ、そしてトマトソースの絶妙な調和が口いっぱいに広がる。
「んんんんんっ!! なまら美味い!! なにこれ、悪魔の食べ物だよ!」
「……ええ、確かに。生地の塩気とチーズのコクが絶妙なバランスですね。これは、任務前の栄養補給としても最適です」
楓も、小さな口を開けて上品に、しかし確実にピザを咀嚼している。
青空の下、二人で裏路地のベンチに座り、ピザを頬張る。こんな何気ない幸せが、記憶を失って不安ばかりであった持子の心を、優しく解きほぐしていく。
(……あ)
またである。
手元のピッツァ・フリッタから立ち上る湯気を見つめていると、不意に、胸の奥がじんわりと温かくなるような既視感に襲われた。
『んんんんっ! なまら美味い!! なにこれ、悪魔の食べ物だぞ!』
『ふふっ、美味しいわね。でも持子、口の周り、ソースでべたべたよ』
それは、かつて「極黒の魔王」であった持子が、多忙を極めるプロデューサーの雪を強引に連れ出して、このローマの街で二人きりの休日を過ごした時の大切な記憶であった。
その時の持子は、今の気弱な持子とは違い、もっと自信に満ちていて、傲慢で、でも雪のことが世界で一番大切であった。
記憶の断片の中で、雪は冷徹な仕事の顔を崩し、持子と一緒にお腹を抱えて、無邪気な笑顔で笑い合っていた。
(記憶を失う前も、後も。雪さんはずっと、わたしにこの「日常の温もり」を与え続けてくれていたんだ……)
「持子お姉さん」
ふと、穏やかな声で呼ばれた。
顔を上げると、楓が呆れたような、でもひどく愛おしそうな笑顔を浮かべて、真っ白なハンカチを差し出していた。
「口の周り、トマトソースとチーズでべたべたですよ。しょうがないですね、持子お姉さんは」
「あうっ……ご、ごめんなさい……子供みたいだよね……」
持子が恥ずかしくて顔を赤らめると、楓は「そのままにしてください」と言って、持子の唇の端を優しく、丁寧に拭き取ってくれた。
彼女の指先の温もりと、ハンカチから香る微かな石鹸の匂い。
「……えへへ、楓ちゃん、お母さんみたい」
「私が持子お姉さんのお母さんですか? それは少々、年齢設定に無理があるかと」
「ううん、そういうことじゃなくて。いつもわたしのお世話をしてくれて、守ってくれて。……ありがとう、楓ちゃん。大好き」
持子は、自分がどれほど周囲の愛に守られ、生かされているかを噛み締めた。
記憶がない空っぽの持子でも、この温かさだけは、絶対に失いたくないと強く願った。
* * *
午後、太陽が西へと傾き始めた頃。
二人の「ローマの休日」のデートコースは、古代ローマ建築の最高峰にして、全ての神々に捧げられた神殿――『パンテオン』へと辿り着いた。
「うわぁ……すごい……」
巨大な円柱が並ぶファサードを抜け、神殿の内部へと足を踏み入れた瞬間、持子は圧倒的なスケール感に息を呑んだ。
完璧な球体が収まるように設計されたという巨大なドーム状の天井。その頂上には『オクルス(目)』と呼ばれる直径九メートルの円形の天窓がぽっかりと開いており、そこから太陽の光が、真っ直ぐな一本の太い柱となって薄暗い神殿の床へと降り注いでいる。
観光客のざわめきすらも吸い込んでしまうような、二千年の歴史が作り出す絶対的な静寂と神聖さ。
(この光……知っている)
持子は、降り注ぐ光の柱のすぐそばで、思わず足を止めた。
『永遠の命を持つお前にとって、わしと過ごす人間の時間なんて、ほんの一瞬の、短い夢にすぎないのかもしれん。だが……わしは、お前の永遠の時間を照らす、絶対に消えない「光」でありたいのだ』
『……生意気な王様ね。あんたはもう、とっくに私の光よ。……あんたが輝き続ける限り、私もずっと、あんたの傍でその光を守り抜いてみせるわ』
かつて雪と共有した、圧倒的な感動の記憶。
それは、ただの親友や仕事仲間という枠を超えた、魂と魂が結びつくような永遠の誓いであった。あの時、持子は雪の自然で美しい笑顔に、どれほど救われたか。どれほど、自分が彼女を愛しているかを自覚したか。
(今のわたしは、記憶も力も失ってしまったポンコツだけど……でも、あの時の温かさと、雪さんへの『ありがとう』の気持ちだけは、胸の中にちゃんと残っている)
そして今、持子の隣には、どんな時も命懸けで持子を護り、肯定してくれる大親友の楓がいる。雪との思い出の地で、今度は楓とこの素晴らしい景色と感動を共有できていることに、持子は心の底から幸福感で満たされていた。
「持子お姉さん……?」
持子の目からポロポロと大粒の涙がこぼれ落ちているのを見て、楓が心配そうに覗き込んできた。
持子は首を横に振り、溢れる涙を手の甲で拭いながら、楓に向かって不器用に、けれど心の底からの本音を言葉にした。
「……雪さんが、札幌から東京へ連れ出してくれなかったら、今のわたしはないの。わたしの為に芸能事務所まで立ち上げてくれて、記憶を失ってこんなに臆病で愚かなわたしを、今でも母親のように導いて、愛してくれている。……雪さんがチャンスをくれたから、わたしは楓ちゃんとも出会えた」
持子は、パンテオンの光に照らされる楓の瞳を、真っ直ぐに見つめ返した。
「わたし、感謝してもしきれないよ。雪さんにも、楓ちゃんにも。……みんながわたしに向けてくれる大きすぎる愛に、わたしはどうやって応えればいいのか、まだ分からないけれど……でも、絶対に、みんなの期待を裏切りたくないの」
楓は、驚いたようにわずかに目を見開いた後、何も言わずに持子の震える両手を、自分の両手で優しく、しっかりと包み込んでくれた。
(……持子お姉さん。あなたが背負う極黒の業も、過去の血塗られた記憶も、恐ろしい力も……今は何も思い出す必要はありません。あなたはこの光のような、純粋で温かい感情だけを抱きしめていてください)
言葉には出さないけれど、楓の瞳の奥から、親友としての、そして護衛としての、あまりにも重く深い覚悟が伝わってくるような気がした。
(あなたの平穏を脅かす闇は、この特級エージェントである私が……あなたの『剣』が、すべて斬り伏せますから)
「……楓ちゃん。手、あったかいね」
「はい。持子お姉さんの手も、温かいですよ」
二千年の歴史を持つ神殿の静寂の中、二人は手を握り合い、互いが互いにとってかけがえのない存在であることを、言葉を超えた確かな熱で確かめ合った。
* * *
パンテオンを出た後、ホテルに戻るにはまだ少し時間が早かった。
「楓ちゃん! まだ時間があるし、すぐ隣にある世界最小の国に行ってみようよ! パスポートなしで入れるんだって!」
「ヴァチカン市国、ですね。カトリック教会の総本山であり、芸術と宗教の歴史が詰まった場所です。……まぁ、強力な霊的な防衛結界が張り巡らされていますが、ただの観光客としてなら問題ないでしょう」
二人は弾むような足取りでローマの街を西へと歩き、やがてテヴェレ川を渡ってヴァチカン市国へと足を踏み入れた。
夕暮れ時。
巨大なサン・ピエトロ広場を囲む半円形の回廊が、沈みゆく太陽の光を浴びてオレンジ色に染まり、正面にそびえ立つサン・ピエトロ大聖堂の荘厳なシルエットが、まるで天に届くかのように美しく浮かび上がっていた。
「うわぁぁぁ……! なまら綺麗……っ! 日本の神社とは全然違うけれど、すごく神聖な空気がするね!」
「ええ、二千年にわたる世界中の信徒たちの祈りが蓄積された場所ですから。……霊的な圧力は、伊勢や出雲にも引けを取りません」
広場には、世界中から集まった観光客や巡礼者たちが、カメラを構えたり、談笑したりしながら、平和な夕暮れの時間を過ごしている。
石畳の広場を歩きながら、持子は大きく深呼吸をした。
パリでの悪夢のような撮影から解放され、ローマの美味しい食事を食べ、大好きな親友と一緒に笑い合う。記憶を失ってから、こんなに心が穏やかで、満たされた一日は初めてであった。
(この平和な時間が、ずっとずっと、続けばいいな……)
大聖堂を背景に、楓と一緒に自撮りをして笑い合う。
ヴァチカン市国の清らかな空気に包まれながら、二人の「ローマの休日」が続いていく。
書き直したはずなんだけど?




