【無自覚な女神と絶対防壁】
【無自覚な女神と絶対防壁】
パリの夜景が一望できる超高級ホテル、プレジデンシャル・スイート。
先ほどまで、この豪奢な空間には、世界中に自分の「発情写真」が流出したことを知った恋問持子の、この世の終わりのような絶叫と滝のような涙が溢れ返っていた。
「わ、わたしのお嫁入り前がぁぁっ!! なまら恥ずかしいぃぃっ!! 穴があったら入りたい! いや、地球の裏側まで埋まりたいっ!」
そう泣き叫び、絨毯をバンバンと叩いてパニックを起こしていた持子だったが、極度の緊張から解放された直後であったことと、精神的なキャパシティを完全に超えたショックにより、やがてガス欠を起こしたようにぐったりと崩れ落ちた。
「大丈夫ですよ、持子お姉さん。私がすべて、綺麗に片付けますから……。だから、今は何も考えずに休んでください」
護衛であり大親友の風間楓が、優しく、本当に壊れ物を扱うかのように持子の華奢な身体を抱きしめ、背中をトントンと一定のリズムで撫で続けた。
その温もりと安心感に包まれ、持子はしゃくりあげながらも徐々に瞼を重くし、やがて楓の腕の中でスヤスヤと寝息を立て始めた。
楓は、眠りに落ちた持子をそっと抱き上げ、静かな寝室のふかふかのキングサイズベッドへと寝かせた。涙の跡が残る白い頬にかかった髪を優しく払い、羽毛布団を首元まで掛ける。
「……おやすみなさい、私の可愛いお姉さん」
楓の瞳には、一切の濁りがない純粋な慈愛だけが浮かんでいた。
その時だった。
「……んん……」
持子が、苦しそうに眉根を寄せ、小さく寝言を漏らした。
「この力……誰かを、幸せにしてるの……?」
「それとも……壊してるの……?」
楓の手が、ピタリと止まる。
持子はギュッとシーツを握りしめ、なおも途切れ途切れに呟いた。
「わたし……これ、使っていいの……?」
その悲痛な、しかし確かな葛藤を孕んだ問いかけに、楓の心臓がドクンと大きく鳴った。
(持子お姉さん……)
楓は、ハッとした。
自分は今まで、この恐ろしい力から持子を「遠ざける」ことばかりを考えていた。彼女の純真さを守るために、いっそ世界から隠してしまえばいいとすら思っていた。
けれど、当の持子自身は、無意識の底で……あの世界中の熱狂と、救われた人々の声と向き合おうとしていたのだ。恐れながらも、自分の存在がもたらした影響から逃げずに、必死に答えを出そうとしている。
楓は、ゆっくりとベッドの横に跪き、持子の手を両手で包み込んだ。
(この力は、危険です。世界を狂わせ、あなたの平穏を奪い去る猛毒です。……でも)
楓の瞳から、過保護なだけの殺意がスッと消え去り、代わりに静かで、深く、透明な決意の光が宿った。
(……でも、私はあなたを止めません)
彼女が自分で悩み、選ぼうとしているのなら。
それを無理やり奪い取り、鳥籠に閉じ込める権利は自分にはない。
(私は、あなたの選択を奪う鎖にはならない。あなたがどうするか、ご自身で決めてください。もしあなたがこの力を捨てて逃げたいと願うなら、私が世界の果てまでお供します。……ですが、もしあなたがこの力と向き合い、女王の道を進むと決めたなら。私は、あなたの道を切り拓く無敵の剣となりましょう)
楓は、持子の手の甲にそっと額を当て、誓いを立てた。
そして、静かに立ち上がり、寝室の重厚なマホガニーの扉を開けた。
扉を閉め、リビングへと戻るために廊下を歩く数秒の間に、楓の纏う空気が劇的に、そして研ぎ澄まされた刃のように変貌した。
慈愛に満ちた16歳の少女の顔は消え去り、そこにあるのは、TIA(内閣府直属・超法規的異能機関)が誇る最強の特級エージェントとしての、冷徹にして完璧な顔だった。
カチャリ、とリビングの扉が開く。
そこはすでに、極めて異質で冷酷な、それでいて熱を帯びた「戦略会議」の場へと変貌していた。
巨大なモニターには、東京の『スノー』社長室にいる立花雪が映し出されている。千年以上を生きる大陰陽師であり、持子の絶対的なプロデューサーである彼女は、腕を組み、鋭い視線を画面の向こうへ送っていた。
そしてリビングの中央では、世界的コングロマリット『リュクス・アンペリアル』のCEOであり、前世では暴君・董卓の絶対的軍師「李儒」であったエレーヌ・リジュが、タブレット端末を手に、ゾクッとするほど妖艶で、どこまでも深い狂信に満ちた笑みを浮かべて立ち上がっていた。
「……持子様は?」
リジュが、静かに問う。
「眠られています。今の彼女の精神状態は不安定です。ですが、彼女は無意識の底で、ご自身の力と向き合おうと葛藤されています。……これ以上、彼女の重荷になるような真似はさせません」
楓は静かに言い放ち、ソファに腰を下ろした。
その全身の筋肉は微かに緊張を保ち、いつでも神話級の宝具『生太刀』を抜き放てる状態にあった。持子がいない今、楓がこの場で守るべきは「持子の未来の選択肢」であり、目の前の大人たちがそれを奪おうとすれば、即座に排除する覚悟完了状態である。
「ええ、よくやってくれたわ、楓。持子には、この薄汚い大人たちの謀略など聞かせる必要はない。……さあ、雪。そして楓。聞いてちょうだい」
リジュはタブレットを操作し、空間にホログラムのディスプレイを展開した。
「現在、世界で起きている現象は、単なる偶然のバズでも、一過性のスキャンダルでもないわ。……これは、新たな『神話』の始まりよ」
リジュの声は低く、しかし空間を震わせるほどの熱量を持っていた。
彼女の瞳には、ビジネスウーマンとしての冷徹な計算と、かつて主君を覇道へと導いた軍師としての底知れぬ狂信が、完璧な比率で混ざり合っている。
「名付けて、『Éveil(覚醒)プロジェクト』。あるいは、『La Déesse du Désir(欲望の女神)』降臨計画」
モニターの向こうで、雪が目を細めた。
『……正体を明かさずに、持子を神にするつもりね?』
「その通りよ、雪」
リジュはホログラムのスライドを切り替えた。
「今の世界は、持子様という『奇跡』に触れ、歓喜に打ち震えているわ。……ですが、この熱狂をただ消費させて終わらせるつもりは毛頭ない。私は、この現象を完璧にコントロールし、持子様を守るための強固な『絶対防壁』を作り上げる」
「絶対防壁、ですか。……カルト宗教でも作って、信者から金を巻き上げる気ですか? もし持子お姉さんの名誉を少しでも汚す気なら、容赦しませんよ」
楓が、冷ややかに牽制する。
「金を搾取する? 馬鹿にしないでちょうだい、楓。そんな三流の詐欺師のような真似、私のエレーヌ・リジュとしての誇りが許さないわ。リュクス・アンペリアルにはすでに使い切れないほどの富がある。……私が求めているのは、そんなちっぽけな金銭ではない」
リジュは、両手を広げ、窓の外に広がるパリの夜景――いや、世界そのものを抱きしめるような仕草を見せた。
「私が欲しいのは、『民衆の心』よ。圧倒的な信仰、無償の愛、そして絶対的な支持。……持子様を救世主として崇める何億、何十億という民衆を味方につけ、世論を動かし、政治や国家中枢すらも私たちの思い通りに動かす強力な協力者に変えるのよ。
そうすれば、いかなる軍隊も、いかなる国家機関も、裏社会の組織も、決して持子様に手を出すことはできなくなる。民衆の暴動と世界の崩壊を恐れてね。……これは、持子様をこの残酷な世界で最も安全な玉座に座らせるための、最大の防衛戦略(盾)なのよ」
その言葉に、部屋の空気がピンと張り詰めた。
ただの狂信ではない。かつての稀代の軍師・李儒の手腕が、現代のネットワークと大衆心理を完璧にハッキングし、主君を護るための無敵の城塞を築き上げようとしているのだ。
「……これは商品ではない。消費されて消える一過性の流行でもない。……“信仰”よ」
リジュの瞳が、狂気じみた熱を帯びて妖しく輝いた。
「人類は、持子様を必要としているの。長年見失っていた光を、救済を、生きる活力を、彼女の姿に見出している。彼女の魔力は、人々の魂を根底から揺さぶり、救い上げることができる。……これほどの奇跡を前にして、彼女をただの人間として終わらせることなど、許されるはずがないわ!」
『……なるほど。国家権力やエクリプスのような組織から持子を護るには、物理的な防衛力や陰陽術による呪術だけでは限界がある。世界中の民衆を「味方」につけるという政治的・情報的防壁は、極めて有効ね』
雪が、腕を組みながらリジュの案を肯定した。
千年以上、人間の愚かさと強さを見てきた彼女だからこそ、大衆の熱狂と信仰がどれほどの無敵の兵器になるかを理解していた。
「ですが、リスクが高すぎます。あの画像は劇薬です。社会の歯車を狂わせ、暴動や依存症を引き起こせば、逆に持子お姉さんが世界の敵として排除の対象になる」
楓が冷静にリスクを提示する。
「いいえ、楓。どうか、今の世界を見てちょうだい」
リジュはホログラムを操作し、現在の世界の状況をリアルタイムで映し出した。
「持子様の放ったあの魔力……『M』の画像は、世界に破滅をもたらすどころか、かつてないほどの恩恵を与えているわ」
空間に浮かび上がるのは、世界各国のニュース映像や、SNSの爆発的なタイムライン。
そこに広がっていたのは、狂気や依存による崩壊ではなく、爆発的な『生命力の活性化』と『生産性の向上』だった。
ニューヨークのウォール街。
長年の激務と過度なプレッシャーで精神を病み、重度のED(勃起不全)に悩んでいたエリートビジネスマンたちが、画像を見た瞬間に心身の活力を完全に取り戻し、停滞していた数億ドル規模の巨大プロジェクトを次々と成功させているニュース。
東京のタワーマンション。
産後うつやセックスレスに悩み、家庭崩壊の危機にあった夫婦たちが、画像を通じて女性としての自信と愛情を取り戻し、愛に満ちた家庭を再構築しているというSNSの感謝の書き込み。
ヨーロッパの過疎化した村で、生きる気力を失っていた老人たちが、突如として若者のような活力を取り戻し、畑仕事や地域コミュニティの再建に乗り出しているドキュメンタリー。
「一部に、画像に異常な執着を見せる狂信者は確かに存在するわ。しかし、社会全体で見ればどう? 鬱病患者の自殺率は激減し、労働者の生産性は飛躍的に向上。長年の懸案だった少子化問題すらも、劇的な解決の兆しを見せている。……世界中の人々が、持子様という存在によって『生かされ』、彼女を求めているのよ」
リジュの瞳が、深く、重い熱を帯びて光る。
「だからこそ、私たちはこの熱狂を制御しなければならない。……野放しにすれば、必ず持子様という『奇跡の資源』を独占しようとする輩が現れる。だから、私たちが裏から完全に管理し、持子様を誰も手の届かない高みへと押し上げるのよ」
具体的な戦略として、リジュは『二重神格構造』と『情報統制』の手法を語り始めた。
「まず、基本思想は『二重神格構造』の構築。現在、世界が認知している『恋問持子』のブランドイメージは、恐怖と暴力で他者をひざまずかせる絶対不可侵の『魔王』。この表のブランドは、そのまま維持するわ。
そして今回流出した、愛欲と魅了の魔力を纏う姿は、完全に別存在である謎の新人『M』として切り離し、裏の『救済と快楽の女神』として神話化させる。……人間の認知機能の盲点を突くのよ。恐怖の暴君と、慈愛と快楽の女神。あまりにも両極端すぎる二つの概念を、凡人は同一人物だと認識できない。そして、時が満ちた時……この二つが同一存在であると明かす。その時こそ、持子様は真の神となるわ」
リジュは優雅に歩きながら、さらに深い謀略を口にする。
「流出した元データは、すでに最高レベルの暗号化を施し、世界各地のダミーサーバーに完全分割して保存したわ。そして、リュクスの持つスーパーコンピュータとAI監視システムをフル稼働させ、現在ネット上に拡散している『M』の画像のトラフィックをすべて追跡・監視下に置いている。
ネットの海で中途半端に削除や検閲を行えば、かえってそれが『本物』であるという箔をつけてしまう。だから、決して消さない。その代わり……AIによって巧妙に加工された『偽のMの画像』を、真実の何万倍もの物量で意図的に放流するのよ」
ホログラムに、顔のパーツが少し違うもの、肌の色合いが違うもの、背景が合成されたものなど、無数の偽画像が表示される。
「情報の海をノイズで埋め尽くし、『どれが本物の奇跡だったのか』を分からなくさせる。そうすることで、本物の『M』の画像の希少性と神聖さは、限界まで高まる。
さらに、持子様がカタコンベで覚醒した際の、あの神々しくも圧倒的な『美の極致』の完全データ。あれは決してフルオープンにはしない。断片だけを小出しにする。とろけるような唇のアップ。極彩色の宝石の鎖が絡みつく白い肌の一部。……全体像を見せないことで、人々の想像力と神秘性を煽り、より深い信仰へと導くのよ」
『……見事ね、リジュ。ビジネスと宗教のハイブリッド。経済と信仰を支配し、政治を動かす。これなら、持子の身の安全は確実に担保されるわ』
雪が、冷徹なプロデューサーとしての顔で、深く頷いた。
『いいわ。情報的な陰陽術による呪術封印と、フェイク画像の展開、世界のネット界隈での世論誘導は、こちら(スノー)で引き受ける。ダミーサーバーの構築も朔夜にやらせましょう』
「ありがとう、雪。これで盤石よ」
リジュが美しく微笑んだ、その時だった。
「――お二人の計画が、持子お姉さんを守る極めて強固な『盾』になることは、理解しました」
楓が、ソファから静かに立ち上がった。
その声に、先ほどまでの刺すような殺意はなかった。代わりに、深く静かな海のような、揺るぎない覚悟が満ちていた。
「ですが、私は……彼女を無理やり玉座に縛り付けることには賛同しません」
楓は、リジュの目を真っ直ぐに見据えた。
「先ほど、寝室で持子お姉さんが寝言を言っていました。『この力は誰かを幸せにしているのか、それとも壊しているのか。私はこれを使っていいのか』と。……彼女は、自分の恐ろしい力から目を背けず、無意識の中で悩み、自分で選ぼうとしています」
楓の瞳に、静かな熱が宿る。
「私は、持子お姉さんの意志を尊重します。私は、彼女から『選択』を奪うつもりはありません。もし彼女が、この力を拒絶し、平凡な日常に戻りたいと願うなら、私は全力でそれを支援し、世界中から彼女を隠し通す。……ですが」
楓の指先が、空間に顕現しかけた生琴の光の弦に触れる。
「もし、彼女がこの力と向き合い、『女王』としての道を自ら選んだなら。……私は、彼女の玉座へと続く道に立ち塞がるすべてを斬り捨てる。いかなる権力だろうと、宗教だろうと、物理的に排除します。私は彼女に選ばせます。そして、彼女がどちらを選ぼうとも、私はその選択の『絶対的な防壁』となる。……それが、私のスタンスです」
それは、持子を護るためという大義名分のもとに生まれた、親友としての強烈な愛情であり、特級エージェントとしての譲れない誇りだった。
「……ふふっ。止めるのではなく、選ばせる。そしてその選択を死守する……頼もしい防衛ラインですわね、楓」
圧倒的な覚悟を正面から浴びながらも、リジュは嬉しそうに妖艶に微笑んだ。
「ええ、役割分担は明確になったわね。雪が『呪術的・情報的封印と世論誘導』を担い、私が『経済・信仰による囲い込みと世界的支配』を行う。そしてあなたが、『彼女の選択を守る物理防衛の最終ライン』として機能する。……持子様のための、完璧な三位一体の布陣よ」
三人の大人の、あまりにも巨大な思惑と決意。
持子への異常なまでの愛と執着が、形を変えて一つに結実した瞬間だった。
* * *
彼女たちが深夜の密約を交わしていた頃。
世界は、女神がもたらした奇跡の恩恵に沸き立ちながらも、その裏側で確実に「新たな戦いの火種」を激しく燻らせていた。
「対象『M』の放つオーラは、明らかに通常の物理法則を超越した霊的エネルギー(マナ)の放射です。我々の量子AIは、この画像を『戦略級霊的資源』と認定しました」
アメリカ、ワシントンD.C.の地下深く。
国家超常事態対策局『エクリプス』の最深部。長官評議会『セブンス・サークル』7人の最高意思決定者。大統領すら顔を知らない者達が冷たく笑う。
「この女を確保し、我々の完全な管理下に置けば、合衆国の軍隊と労働者の生産性を永遠に極大化できる。全力で『M』の正体を特定し、身柄を確保しろ。手段は問わん。阻む者は国家だろうが神だろうが排除しろ」
エクリプスの無慈悲なエージェントたちが、世界規模の情報網を駆使して『M』の足取りを追い始める。
さらに、この『奇跡』を絶対に許容できない勢力も動き出していた。
ヴァチカン市国、サン・ピエトロ大聖堂の地下深く。法王直属の異端審問局。
「これは、明確な悪魔の誘惑です。人間の原罪である肉欲を極限まで刺激し、偽りの奇跡で信仰を揺るがす行為。教義に対する、これ以上ない重大な挑戦であり、冒涜です」
老齢の異端審問官長が、聖書を握りしめながら怒りに震える声で告げた。
「偶像崇拝の極みであり、極めて淫靡な邪法。直ちに『聖堂騎士団』の暗殺部隊を派遣し、この魔女の正体を特定、神の御名において浄化(火あぶり)せねばなりません」
そして、ネット上の片隅では、教義に反すると考える過激な宗教団体や、女性の裸で世界が救われることを良しとしない女性蔑視団体、アンチ・フェミニズムのコミュニティが声を上げていた。
「女の裸一枚で世界が救われるなどあり得ない! これは男の努力を愚弄する魔女の所業だ!」
「AIによるフェイク画像に違いない! 騙されるな!」
彼らは必死にバッシングの言葉を書き込み、『Mは危険なカルトだ』というカウンター情報戦を仕掛けようとした。
しかし、活力を取り戻し『愛欲の女神』を熱狂的に信奉する世界中の何億という『Devotees(献身者)』たちから瞬く間に集中砲火を浴び、彼らのサーバーはものの数時間で物理的に炎上・ダウンさせられた。民衆の圧倒的な数の暴力が、すでにリジュの思惑通りに「防壁」として機能し始めていたのだ。
世界中が、一人の少女の姿を巡って欲望と狂信、そして殺意を交錯させている。
だが、その狂乱の中心にいる張本人――恋問持子は、パリの高級ホテルの寝室で、ふかふかの羽毛布団に包まれ、静かに寝息を立てていた。
「むにゃ……みんな……笑顔に……すぅ……」
彼女は知らない。
自分が寝ている間に、自分の保護者たちが世界を支配するための恐るべき計画を策定したことも。
自分のために、国家や宗教機関が暗殺部隊を動かしていることも。
気弱で純朴な少女の平穏な日常は、すでにルビコン川を渡り、二度と引き返せない神話の領域へと足を踏み入れていた。
極黒の魔王であり、愛欲の女神でもある少女の覇道は、大人たちの巨大な愛と狂気に見守られながら、さらなるカオスへと加速していくのだった。
この話をすっかりと忘れていた。
追加したので、中途半端な時間にアップです。
全部時間を変えるのは面倒くさすぎる。




