表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

376/385

【ダンジョン深層の騒がしい野営】

【ダンジョン深層の騒がしい野営】


エクリプスの悪辣な電波干渉が完全に途絶えた後、影持子一行は事前の暗号化念話での打ち合わせ通り、慎重かつ確実にダンジョン深層へと歩を進めていた。

合気武道部の研ぎ澄まされた連携と、下僕たちの完璧なサポートが噛み合い、一行は誰一人欠けることなく、無傷のまま予定の野営ポイントへと到達したのである。


周囲の瘴気を弾き飛ばすように、本多鮎の足元から使い魔であるルージュの影が大きく広がり、結界を伴った安全地帯『ルージュ部屋』の野営セットが手際よく展開されていく。


その安全地帯の中心で、一年生の遊撃手・陽翔が、目をギラギラと血走らせながら影持子の前へ進み出た。


「持子先輩っ! 見たっスか今の俺たちの完璧な陣形! 無傷でここまで来れたっスよ!」


陽翔は鼻息を荒くして、ビシッと親指を立てる。


「ということで! ご褒美、約束通りアスタルテさんの女神のおっぱい、揉ませてくださいっス!!」


その言葉に、傲岸不遜な『極黒の魔王』として振る舞う影持子は、腕を組んだまま豪快に笑い飛ばした。


「ふははははっ! 良かろう、よくぞ無傷で切り抜けた! 存分に揉むが良い!」


(……って、言っちゃったけど!! 魔王持子なら絶対にこう言うだろうと思って許可したけど、本当にいいのか!? これ!? 男子高校生が神様のおっぱいを!? アスタルテ、本当にすまん!!)


影持子は、顔は最高に邪悪な笑みを浮かべながらも、内心では己の魔王ムーブに冷や汗を滝のように流し、全力で土下座していた。


当のアスタルテはといえば、モジモジと身体をよじりながらも、豊穣の女神としての豊満すぎる神乳を両手でふわりと持ち上げ、陽翔の前へと差し出した。


「……我が神、持子様がそう仰るのでしたら……。さ、さあ、どうぞ……」


「い、いただきますっス!!」


陽翔の煩悩が限界突破する。


「凛花! お前とたこ焼き屋で特訓した『阿部直伝エアー揉み』を、ついに直揉みにしてやるぜーっス!!」


同じく持子のおっぱいを狙う変態的同志である凛花が、うんうんと深く頷きながら陽翔の背中を押す。

そして――陽翔の両手が、アスタルテの神の領域へと深々と沈み込んだ。


「一っス! 二っス! 三っスぅぅぅ!!」


むにゅんっ、と指先から伝わる圧倒的な弾力と温もり。

陽翔は凛花との特訓の成果を存分に発揮し、きっちり三秒間、己の青春のすべてを注ぎ込んで女神の果実を揉みしだいた。


そして三秒が経過した瞬間、陽翔はサッと身を引き、アスタルテに向かって九十度の直角で深々と頭を下げた。


「アスタルテ様、本当にありがとうございましたっス!! 俺、一生この感触を忘れないっス!!」


妙に礼儀正しいその姿は、底抜けのバカではあるが根は悪人ではない、彼らしさが全開だった。


その光景を見て、第一下僕である本多鮎は、こめかみに青筋を浮かべながらも、どこか呆れ半分の笑みを浮かべていた。


「……陽翔さん。持子様の御前で堂々と女神様のお胸を揉むなんて、ある意味大物ですわね」


「褒め言葉として受け取っておくっス!」


「褒めておりませんわ」


鮎は即座に切り捨てたが、その隣では第二下僕の花園美羽がクスクスと肩を震わせていた。


「でも、なんだか陽翔くんらしいですよねぇ〜。命懸けのダンジョンなのに、いつも通りで安心しちゃいます」


「美羽さん!? フォローしてるようで全然フォローになってないっス!」


「ふふ、ごめんなさい♪」


柔らかく笑う美羽に、陽翔は「むぅ〜」と不満げに頬を膨らませる。


一方、鮎はそっと影持子の隣へ歩み寄ると、小声で囁いた。


「……ですが、持子様」


「なんだ?」


「こうして皆様が笑っていられるのは、貴女様が前に立ってくださっているからですわ」


「――っ」


不意打ちのような言葉に、影持子は一瞬だけ目を丸くした。

鮎は優雅に微笑む。

影持子は魔王らしい仮面を崩すまいと必死に咳払いした。


「ふ、ふははっ! 当たり前だ! わしは偉大なる魔王だからな!」


しかしその耳が、ほんのり赤く染まっていることに、美羽はしっかり気づいていた。


「ふふっ、持子様、照れてます?」


「て、照れておらん!!」


そのあまりにアホらしくも微笑ましい狂騒の横で、合気武道部三年生の千手、同じく一年生の玲央は「うわぁ……」とドン引きして後ずさった。

生粋のお嬢様であり清らかな乙女である葉室鶴子に至っては、顔を真っ青にしてワナワナと震えながら小声で呟いていた。


「こ、これが現代の若者文化……? は、破廉恥すぎますわ……っ」


そんな狂騒の中、かつて陽翔と共に「おっぱい同盟」を結んでいた蒼真は、ただ静かに佇んでいた。

恋人である玲央が隣にいる手前、表立って「おっぱい!」と叫ぶような真似はしない。……しないが、やはり健全な男子高校生である。彼の視線は、無意識のうちにアスタルテの豊満な神乳へと吸い寄せられてしまっていた。


「……」


その微かな視線の動きに、玲央はすぐに気がついた。

(男の子だから仕方ない)と頭では理解しつつも、やはり恋する乙女としては面白くない。胸の奥がチクリと嫉妬で痛む。

玲央は周囲の部員たちに気づかれないよう、蒼真の腕をそっと引いた。


「……こら」


小声で短く咎めると、引き寄せた彼の腕を、そのまま自分の胸へとぴたりと押し当てて隠した。


「……っ、すまん」


蒼真はハッとして、申し訳なさそうに小声で謝る。

そんな彼の不器用な誠実さに、玲央はふわりと優しく、幸せそうに微笑んでみせた。命懸けのダンジョンの片隅で交わされる、二人だけの甘く密やかな青春のワンシーンだった。


その様子を、傲岸不遜な魔王の仮面を被った影持子は、ふと視線の端で捉えていた。


(……なんだか、いいな)


ほんの一瞬だけ、胸の奥がきゅっと締め付けられるような、得体の知れない羨ましさがよぎった。

自分は、立花雪と土御門朔夜に創り出された『六花』という名の一時的な式神。いつか必ず溶けて消え去る運命にある、偽物の存在だ。

彼らのような“普通の青春”の輝きが、酷く眩しく、そして切なく見えたのだ。


「そこまでです!!」


突如、極寒のシベリアの如き冷気と共に、紗良が猛烈な勢いで陽翔の襟首を掴み、力任せに引きずり倒した。

普段は冷静沈着な彼女だが、その瞳には明確な「大嫉妬」の炎がメラメラと燃え盛っている。


「な、何すんだよ紗良ぁっ! 俺の至福の余韻がぁぁっ!」


「うるさいです! こんな公衆の面前で、破廉恥にも程があります! 脳細胞が死滅しているんですかこのサルは!」


引きずられる陽翔を見て、アスタルテは少しだけ頬を赤く染めながら呟いた。


「……少し、悪くはなかったわ。でも、神のおっぱいを揉むなんて、なんて人間なの。バチが当たるわよ、もう」


すると、その様子を見ていた真祖の吸血鬼エティエンヌが、両手を頬に当てて羨ましそうに身をよじらせた。


「ああんっ、ずるいですわ……。持子様、次は私が揉まれる役でいいですよ? むしろ、持子様に直接揉みしだかれたいですわぁっ♡」


「あんたは黙っていなさいなこの変態吸血鬼!」


すかさずルージュのハリセン(のような影の触手)が、元夫であるエティエンヌの頭をスパーンと叩き据える。


一方、引きずり倒された陽翔は、同志である凛花の元へと素早く駆け寄り、バチン! と熱いハイタッチを交わしていた。


「上手くいったっスね凛花! やっと上手く揉めたっス!」


「おー! 成果が出ましたね陽翔くん! エアー特訓は無駄じゃなかったです!」


喜びを分かち合った後、ふと陽翔が不思議そうに首を傾げた。


「あれ? 凛花は揉まなくていいんスか?」


その問いに対し、凛花は背筋をピンと伸ばし、誇り高く言い放った。


「私が揉みたいのは神(持子先輩)だけです! 私は百合ではございません!」


「「「全員が百合だろう!!」」」


その場にいた全員(下僕たちや先輩たち含む)から、息の合った総ツッコミが炸裂する。

しかし、凛花は全く動じずに熱弁を振るう。


「神は神であり、男とか女とか全部超越しています! 神を敬い、慕うのに何の疑問がありましょう!」


「「「みんなが疑問だらけだよ!!」」」


再び、全員からの容赦ないツッコミがダンジョンに木霊した。


「ちょっと持子! この子どうにかしなさいな!」


ルージュが頭を抱えながら、元凶(?)である影持子に向かって叫ぶ。


「ふははははっ! 良いぞ良いぞ、実に愉快だ!」


影持子は魔王らしく高笑いして威厳を保っていたが、心の中では(無理だ! わしにはどうにもできん! こいつらカオスすぎる!)と完全に白旗を揚げていた。


「とにかく、不純です!」


バシィッ!!

再び怒りを再燃させた紗良の容赦ない鉄拳が、陽翔の頭に炸裂した。


「痛っ!? だからなんで叩くんだよ紗良!」


「そうだそうだ! 陽翔くんはちゃんと持子先輩から許可を取りました!」


陽翔と凛花が猛抗議する。


「合意です! 完全に合意の上です!」


「許可を取っても合意でも、ダメなものはダメです! あなたたちの存在そのものが風紀の乱れです!」


紗良が理詰めの毒舌で冷酷に切り捨てる。


「論理が破綻してるっスよ紗良!」


「そうです! 嫉妬ですか!? 嫉妬ですね!」


「――はいはい、そこまでですわ」


わーわーと騒ぎ立てる一年生三人組の間に、ルージュがスッと割り込んだ。彼女は呆れたようにため息をつき、ダンジョンの暗がりを指差す。


「あんたたちがギャーギャー騒いでいるから、魔物たちが集まって来たじゃないの。ほら、あそこの三匹、あんたたち三人で倒してきなさい!」


「ええーっ!? まだ余韻に浸っていたいっスよ!?」


「さっさと行きなさいな!」


ルージュに一喝され、陽翔、凛花、紗良の三人は「ブーブー」と文句を言い合いながらも、武器を構えて魔物の群れへと駆けていった。


その騒がしくもカオスな背中を見送りながら、ルージュはパン、と一つ手を叩いて野営地の全員に宣言した。


「さあ、あんたたち! 食事の準備よ!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ