【おっぱい同盟、たこ焼き屋に集う】
【おっぱい同盟、たこ焼き屋に集う】
赤提灯の揺れるこぢんまりとしたたこ焼き屋。
香ばしいソースの匂いと鉄板が弾ける音が響く店内のカウンター席で、佐藤陽翔と阿部凛花は熱々のたこ焼きを頬張っていた。
「はふっ、はふっ……美味いッス!」
「うんっ、熱っ! でも私たち、よく頑張ってるよ。すべては……あの至高の目標のためだもの!」
阿部の目が、獲物を狙う猛禽類のようにギラリと光った。
その視線の意味を瞬時に理解した佐藤も、煩悩の塊であるスケベな本性を隠すことなく深く頷く。
「間違いないッス。持子先輩のあの『神おっぱい』……! あれはまさに、全人類の夢を具現化した奇跡の造形ッスよ!」
「全人類っていうか、私の神の証明よ! あの完璧な弾力、滑らかな白磁の肌……一度顔を埋めたら、そのまま窒息して死んでも悔いはないわ!」
持子を狂信的に崇拝し、隙あらばその胸を揉もうと狙う百合と変態性を併せ持つ阿部と、持子のおっぱいを見て揉むためだけに過酷な稽古を耐え抜いている佐藤。
おっぱい同盟を結ぶ二人の熱量は、鉄板の上のたこ焼きよりも遥かに熱く沸騰していた。
「次に東京ダンジョンに潜った時も、絶対に大活躍して見せるッス! そして、またあの神おっぱいを揉む権利を勝ち取るッスよ!」
「ええ、当然よ! 私たちの連携で敵をボコボコにして、神からの極上のご褒美(お触り)を頂くのよ!」
ガシィッ!
二人は熱い視線を交わし、まるで戦友のように力強く固い握手を交わした。
しかしその直後、阿部はふと冷静な顔に戻り、ジト目で佐藤を睨みつけた。
「でもね陽翔。前回のあんたの失敗については、ちゃんと言っておくわ。……おっぱいをあんなに強く、野球のボールみたいに握っちゃダメよ!」
「うっ……」
「元ピッチャーだからって、あんな力任せに! 痛いに決まってるでしょ!? 相手が優しくて寛大な神(持子先輩)じゃなかったら、確実にぶっ叩かれて死んでたわよ! 私なら殺さないまでも絶対に叩いているわ! あれは痛いよ!」
「そ、それは猛省してるッス……。でも、俺、今まで生きてきて本物のおっぱいなんて揉んだことなかったから、力加減が全然分かんなかったッスよ!」
佐藤は頭を抱えて弁明した。煩悩の塊でありながら、実践経験はゼロなのだ。
対する阿部は、ふふんと誇らしげに180cm近い長身を反らせた。
「私は毎日、自分のを揉みまくって研究してるからね! だから神に触れた時も、神はとっても気持ちよさそうにしてくださったわ!」
「……そうか? 俺から見たら、凛花の指の動きが尋常じゃなくウネウネしてて、キモすぎてちょっと引いたッスよ」
「うっ!」
図星を突かれたのか、阿部は一瞬言葉に詰まった。
「そ、そうかもしれないけど! 痛くするよりも、気持ちよくする方が絶対にいいでしょ!」
「……まぁ、それは認めるッス。自分の大胸筋触っても、全然気持ち良くないしな〜」
「でしょ? 私は気持ち良いわよ! しかも、毎日揉んでたら大きくなったんだから!」
阿部はエッヘンとばかりに、セーター越しの豊かな胸をピンと張って威張ってみせた。
しかし、その自慢げな表情は次第に柔らかく崩れ、彼女の瞳にじんわりと涙が滲み始めた。
「……ほんと、神には感謝しかないのよ」
阿部は歓喜あまって、少し震える涙声で語り出した。
「私、背が伸びすぎてバレエダンサーの夢も敗れて、身長いかしてモデルとして前の事務所に誘われて入っても、全然期待されてなかったし、チャンスなんて一つも無かった。でも、神に出会って……神にすごく可愛がってもらえて。こんなに良い事務所に移籍させてもらえて、モデルとしてもちゃんとお仕事ができるようになって……」
ポロリと涙をこぼしながら、阿部は鼻をすする。
「おまけに、おっぱいも大きくなったし。もう、感謝してもしきれないのよ……!」
「いや! おっぱいが大きくなったのは、絶対お前が勝手に自分で揉みまくったからだと思うッスけどね!」
佐藤の的確なツッコミが入るが、彼はすぐに真剣な表情へと切り替わった。
「……でも、出会いというか、縁って大切ッスよね。俺も、持子先輩に出会って変わったッス。俺ズルばっかりしてたけど、バカみたいに一生懸命になることの大切さとか、楽しさとか……そういう色んなものを、言葉じゃなくて『心』で教えてもらった気がするッス」
「陽翔……」
「持子先輩の言葉選び、基本メチャクチャでアホっぽいッスからね!」
「あはははっ! それ酷い! でも、神のそういうポンコツなところも大好きなのよね!」
「俺も大好きッス!」
しんみりした空気を吹き飛ばすように笑い合い、佐藤は店員に向かって勢いよく手を挙げた。
「すんませーん! たこ焼き、もう一皿追加で!」
「あ……」
追加の注文に、阿部は一瞬躊躇したように手をお腹に当てた。
「私、モデルだし……カロリーが……」
「何言ってるッスか! 明日からまた合宿並みにガンガン身体動かすんだから、少しくらい食べても全部燃焼するッスよ!」
「……そうだよね。うん、食べなきゃ力出ないもんね! すみませーん、私にも追加で!」
再び運ばれてきた熱々のたこ焼きを突きながら、話題はいつしか「正しい揉み方」の実践講座へと移っていった。
「いい? おっぱいはね、こう……下から優しく掬い上げるようにして、柔らかさを堪能するのよ!」
阿部が真剣な顔で両手を宙に浮かせ、「エアー揉み」を披露する。
「な、なるほど……こうッスか?」
佐藤もたこ焼きの皿を置き、阿部を模倣して空中で手をワキワキと動かす。
「違う違う! あんたのはまだフォークボールの握りになってる! もっと手首の力を抜いて、円の理を使うのよ!」
「円の理をここで使うッスか!? こ、こうッスか……?」
「もう、下手くそなんだから!」
見かねた阿部は席を立ち、佐藤の背後に回り込んだ。
そして、後ろから佐藤の両手を自分の手で包み込むように掴み、一緒にエアー揉みの軌道を誘導し始めた。
「こう! ここで優しく包み込んで、親指は添えるだけ! 分かった?」
「お、おお……! うん、なんか感覚掴めてきたッス! 上手くなった気がするッス!」
「でしょ? これで次こそは神を完璧に昇天させるのよ!」
二人三脚のエアー揉み特訓に熱中していた二人だったが、佐藤の動きがピタリと止まった。
「……あ、あの、凛花」
「ん? どうしたの?」
「レクチャーしてくれるのはありがたいんスけど……バックハグの状態で手を取られてて……しかも、お前のその……大きくなったっていうおっぱいが、俺の背中に思いっきり当たってて……」
「えっ?」
「その……すげー恥ずかしいというか……俺、健全な男子高校生なんで……ちょっと、立っちゃったッス」
「……っ!!」
阿部は弾かれたように佐藤の背中から飛び退いた。
一瞬の静寂の後、二人の顔は茹でダコのように真っ赤に染まり上がった。
「ご、ごごごごめんなさい! 私、神のおっぱいのこと考えてたら熱くなりすぎちゃって……!!」
「い、いや! 俺の方こそ、煩悩の塊ですんませんッス!!」
気まずすぎる空気が二人の間に流れる。
先ほどまでの熱い友情と戦友感はどこへやら、思春期特有の極限の羞恥心が二人を包み込んでいた。
「……か、帰ろうか」
「……うんッス」
そそくさと財布を取り出し、逃げるようにお会計を済ませる二人。
そんな初々しくもアホらしい高校生たちのやり取りを、店内のテーブル席でビールや酎ハイのグラスを傾けていた常連の大人たちは、温かく、そして生温かい目で見守っていた。
(若いって……良いな〜)
香ばしいソースの匂いとアルコールが進む赤提灯の下で、大人たちの静かな心の声が一つに重なっていた。




