【素直すぎる悪友たちと、極寒ツンデレの気付き】
【素直すぎる悪友たちと、極寒ツンデレの気付き】
冬の冷たい風が吹き抜ける公園のベンチ。
極寒のシベリアのような毒舌を放つ冷静な頭脳派である南原紗良は、一人、膝を抱えて涙ぐんでいた。
せっかくの好意を素直に伝えられず、またしても彼を罵倒してしまった自己嫌悪で、胸が締め付けられる。
ザッ、ザッ、ザッ!
そこへ、元野球部のピッチャーとしての脚力を活かした猛ダッシュで、佐藤陽翔が息を切らして駆け込んできた。
「はぁっ、はぁっ……紗良ちゃん! 単刀直入に聞くッス!」
「えっ……えっ……?」
「俺のことが、好きなんスか!?」
一切の変化球なし、剛速球のドストレートな問いかけ。
あまりの直球に、紗良の圧倒的な童顔は一瞬で沸騰したように赤く染まった。
冷静な思考回路がショートし、理詰めの敬語を保つ余裕すら吹き飛んでしまう。
「ち、違います……っ! あなたのようなデリカシー皆無のバカなサルなんて……っ!」
「おっ、そうなんスね! 分かったッス!」
「……え?」
「じゃあ俺、ダッシュで帰るッス!!」
もう面倒くさい佐藤は、紗良の言葉を1ミリの裏読みもなく額面通りに受け取ると、美しいフォームから繰り出される猛烈なダッシュで、来た道を全力で引き返していってしまった。
ベンチに取り残された紗良は、涙も引っ込み、ただ呆然と遠ざかる背中を見送ることしかできなかった。
「ストーーーップ!!」
ガシッ! と、猛ダッシュする佐藤の襟首を、長い腕が後ろから捕まえた。
「な、何するッスか凛花!」
「あんた、本当にバカなの!?」
そこに立っていたのは、180cm近い長身を誇る芸能科モデルコースの美少女、阿部凛花だった。
同じく「おっぱい」を原動力とする合気武道部の同盟相手である。
「紗良は照れてただけなんだから、戻って許してあげなさいよ!」
「嫌ッスよ! めんどくさいッス!」
佐藤は0.1秒で即答した。
「め、めんどくさいって……でも、可愛いところもあるよ!」
阿部が必死にフォローを入れるが、佐藤は心底嫌そうに首を横に振る。
「俺はバカでアホっスけど、紗良ちゃんと付き合ったら絶対にめんどくさいことになるッス! 常にキレられて、間違いなく『やばい』ことになるッスよ!」
「……いや、それは……無いとは言い切れない、かも」
佐藤のあまりにも正確な戦況分析に、阿部も思わず言葉に詰まる。
確かに紗良の彼への態度は、時に物理法則を無視した殺意を伴うほど苛烈だ。
「だったら凛花、お前が男だとしたら、あの極寒ツンデレ女と付き合えるッスか!?」
「無理! 絶対めんどくさい!」
阿部もまた、0.1秒で即答した。
身も蓋もない結論に行き着いた二人は、顔を見合わせて思わず苦笑いを浮かべた。
「ぐぅぅ〜……」
「……腹減ったッスね」
「そうだねぇ」
緊迫感の欠片もなく、二人は完全に夕飯のモードへと切り替わっていた。
「じゃあ俺、ラーメン二郎行くッス!」
「却下! 私はモデルだよ! 神様……持子先輩じゃあるまいし、あんなカロリーの化け物みたいな特大ラーメンなんて食べられないわ! 美味しいたこ焼き屋さんがあるから、そっちにしよ!」
阿部は持子が二郎の特大ラーメンを完食する規格外の存在であることを引き合いに出し、断固として拒否した。
「持子先輩を神とか言うなッス! ……ま、俺、たこ焼きも好きッスけど!」
「持子先輩は私の絶対的な神なのよ!」
持子を狂信的に崇拝する阿部は、胸を張って力説する。
「まー、それに関しては異論は無いッスね!」
絶対的女神という共通認識の前では、佐藤も素直に頷いた。
「やっぱり、素直なところもないとね〜」
阿部が呆れたように笑うと、佐藤はニヤリと口角を上げる。
「凛花、お前は素直というか、持子先輩に対して欲望に素直すぎるッスけどな」
「ふふんっ、そのままその言葉、あんたにお返しするわよ!」
「間違いないッス! 同意するッス!」
ガハハと遠慮なく笑い合いながら、お調子者の悪友二人は、赤提灯の揺れるたこ焼き屋へと仲良く入っていった。
「…………っ」
公園の暗がりから、そっと二人の後を追ってきていた紗良は、その一部始終を見てギュッと唇を噛み締めていた。
(『無理! 絶対めんどくさい!』……って)
阿部からの客観的すぎる評価と、佐藤の嘘偽りない本音。
悔しくて、腹が立って、でも……論理的に分析すれば、二人の言うことは完全に正しかった。
自分から歩み寄ろうともせず、素直な言葉の一つもかけられない。
そんな面倒くさい態度を取り続けていれば、距離を置かれるのは当然の力学的な帰結だ。
(……素直になることも、大切、よね……)
夜風に吹かれながら、紗良は小さく息を吐いた。
極寒のシベリアのような自分の心に、ほんの少しだけ、温かくて不器用な決意の火が灯った瞬間だった。
合気武道部部員達の話が続きます




