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【エクリプス殲滅極秘作戦と不器用な乙女心】

六花編

【エクリプス殲滅極秘作戦と不器用な乙女心】


 一月三日の早朝。

 吐く息も白い冷え込みの中、指定された高級マンションの一室には、ただならぬ緊張感が漂っていた。


「全員、揃ったわね」


 リビングの最前列に立つ立花雪の凛とした号令で、集まった面々は一斉に居住まいを正した。

 集結したのは、土御門朔夜、影持子、鮎、美羽、エティエンヌ、アスタルテ、シャーロット、ルージュ。そして、合気武道部の面々――美貴、盛夫、陽翔、蒼真、玲央、凛花、紗良。

 少数精鋭と呼ぶにふさわしい、一騎当千の戦力である。


 雪の隣へと歩み出た土御門朔夜が、鋭い視線を全員へと向け、静かに口を開いた。


「これより、『東京ダンジョン最深部攻略作戦』……いえ、真の目的である『エクリプス殲滅極秘作戦』の概要を説明します」


 その言葉に、部屋の空気が一段と冷え込んだ。


「先日の戦いで、奴らエクリプスは表立ってこそいないものの、『七星宝剣』を用いて魔王様――持子に明確な攻撃を仕掛けてきました。しかし、今の我々にはそれを立証する決定的な証拠がない。だからこそ、明日の四日から東京ダンジョンへ侵入し、奴らを炙り出します」


 前回のような全クランや自衛隊、ベアトリス傭兵団などを巻き込んだ大戦力での派手な行軍ではない。

 時間をかけて確実に最深部へと向かい、予測地点で確実に息の根を止める。


「エクリプスとの遭遇地点は、すでにシャーロットの『未来視』によって大体の予測がついています。明日の午後零時にTIAへ集合し、そこから潜ります。……作戦説明は以上です。各自、このボーナスで装備を整えたり、時間まで楽しんで英気を養うように。解散!」


 朔夜の言葉と、雪の「はいっ、解散!」という明るい柏手で、張り詰めていた空気が一気に和らいだ。


「ふぅー、緊張したぜ……。なぁ、持子先輩!」


 空気が緩むと同時、陽翔と凛花がだらしなく鼻の下を伸ばしながら、影持子のもとへとすり寄ってきた。


「今回も俺たち、命懸けで頑張るッスから! また大活躍したら……アレ、お願いしますよ! オッパイ見せて、揉ませてください!」


「なっ……!?」


 直球すぎる欲望の開示に、影持子はピクリと眉をひきつらせた。

 表向きは「活躍したなら良かろう!」と傲岸不遜に振る舞いながらも、内心では不満タラタラである。


(私の立派なオッパイは、朔夜にだけ見せて、朔夜にだけ優しく触れてほしいのだ! だいたい凛花は触り方がいやらしくて気持ち悪いし、陽翔に至っては力任せに強く揉むから普通に痛いのだ!)


 文句を垂れ流しながらも、ふと影持子は、オッパイ同盟の仲間であるはずの蒼真が来ていないことに気づいた。すると陽翔と凛花がニヤニヤ笑い出す。


「蒼真のやつ、玲央と付き合い始めてから、ずっと玲央のオッパイを揉んでるんスよ」


「なっ!? あ、陽翔! 凛花! お前らなんてこと言うのよッ!」


 否定する玲央と蒼真だったが、鮎や美羽たち女性陣からの「もうやったな!」という冷やかしの雰囲気に飲まれ、顔を真っ赤にして俯いてしまった。


 和気藹々とした空気が流れる中――ただ一人、紗良だけがワナワナと肩を震わせていた。

 彼女の視線の先には、持子に卑猥な要求をしてニヤついている陽翔の姿がある。

 紗良は密かに陽翔へ惚れていたのだ。

 他の女の胸を揉ませろと公言する陽翔のデリカシーのなさと、自分には見向きもしない悔しさで、どす黒い嫉妬が爆発した。


「……っ、あんたって奴は、本当に最低の変態ね!!」


 紗良の鋭い声が、リビングに響き渡った。


「いっつもいっつもオッパイオッパイって! デリカシー皆無の筋肉ゴリラ! 頭の中まで筋肉でできてるんじゃないの!? だからアンタはバカなのよ!!」


「はあぁ!?」


 突然ボロクソに罵倒された陽翔は、ムッとして反撃に出た。


「なんだよ急に噛み付いてきやがって! 俺は自分の欲求に素直なだけだ! お前みたいないつも不機嫌な女よりマシだろうが!」


「っ……! もういい! 私、帰るッ!!」


 目に涙を浮かべた紗良は、そのまま乱暴に足音を立てて、部屋を飛び出していってしまった。


「あーあ、せいせいしたぜ! なんだってんだ、あいつは!」


 バタンッと閉まったドアを見ながら、陽翔は忌々しそうに吐き捨てた。

 その様子を見ていた美貴や玲央といった合気武道部の女性陣、そして凛花が、やれやれとため息をつきながら陽翔を取り囲んだ。


「あんたねぇ……本当に女心がわかってないわね」


 美貴が呆れたように言うと、凛花も肩をすくめる。


「陽翔、気づいてないの? 実は紗良、お前のことに気があるんだぜ」


「……はあ!?」


 陽翔は目を丸くした。


「あの子、陽翔に惚れてるから嫉妬したのよ。でも素直じゃないし、いつもあんな風に暴言を吐いちゃう不器用な子だから……どうか許してあげて」


 玲央の優しいフォローが入るが、陽翔の表情は険しいままだった。


「……好意があれば、暴言を吐いていいというものではありません!」


 陽翔の口から放たれた、あまりにもド正論すぎる一言。


(((た、確かに……その通りだ……)))


 その場にいた全員が、ぐうの音も出ない正論に「そうだな」と心の中で深く頷いてしまった。


 気まずい沈黙を破るように、玲央が慌てて言葉を継ぐ。


「そ、それはそうなんだけど! 紗良は恋愛に関してはまだ子供だから、自分の好意を素直に言葉にできないのよ! だから、今回だけは大目に見て許してあげて!」


「そうよ、陽翔。ここはあんたが大人になりなさい」


 美貴も腕を組んで、ビシッと陽翔に指を突きつけた。

 さらに、親友の凛花がニヤリと笑いながら陽翔の肩を小突く。


「それに陽翔。お前だって、別に紗良のこと嫌いじゃないんだろ?」


 なんだかんだで喧嘩しつつも仲が良いのだから、という凛花の見立てだった。しかし――。


「嫌いだ!」


 陽翔の即答に、今度こそ部屋中の全員が「ええええっ!?」と驚きの声を上げた。

 完全にフラれた。紗良の恋は終わった。

 誰もがそう思った瞬間、陽翔はバンッと自分の頬を両手で叩き、気合を入れるように声を張り上げた。


「だけど、確かめてくる!!」


「えっ……!?」


 驚く周囲を置いてけぼりにしたまま、陽翔は猛然とダッシュし、紗良を追いかけて部屋を飛び出していった。

 その背中を見送った一同は、ポカンとした後、どっと温かい笑い声を上げた。


「はいはい、そこまで! 騒ぎも収まったことだし、みんな解散よ!」


 雪がパンッと手を叩いて締めくくると、メンバーたちはそれぞれの思いを胸に、明日の決戦に向けて部屋を後にした。


 やがて、静まり返ったリビングには、雪、朔夜、そしてシャーロットの三人だけが残された。


「……まったく、騒がしい連中ね」


 雪が苦笑すると、朔夜は冷徹な笑みを浮かべてシャーロットに振り返った。何かを伝えた。


 未来視の巫女は静かに頭を下げた。

 若者たちの青春の裏側で、エクリプスを確実に葬り去るための、冷酷な罠の顎がゆっくりと開こうとしていた。


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