【影の魔王の淫靡な死闘〜純情と下剋上の百合色ベッド〜】
【影の魔王の魔力死闘〜純情と下剋上の魂の共鳴〜】
『ガチャリ』
「フン。表参道とやらも、わしの庭にするには少々手狭であったな」
絶世の美少女の容姿を持つ影持子が、傲岸不遜な魔王の態度でペントハウスに足を踏み入れる。隣には土御門朔夜が静かに付き従っていた。
「おかえり、持子、朔夜」
出迎えたのは立花雪だ。彼女は影持子の正体も、この後の「影の擬似魂とパスを繋ぐために限界まで魔力を叩き込む」という真の目的も一切口に出さず、ただ蠱惑的に微笑んだ。
「退屈しているなら……魔王として、あの子たちの『魔力訓練』にたっぷりと付き合ってあげなさい」
「……ほう? わしに余興を与えようというのだな。良かろう」
『ゴゴゴゴォォォッ……!!』
雪の合図とともに、広間の奥から異様な熱気と膨大な魔力が膨れ上がった。
「おおおっ……持子様ぁっ!!」
『ダダダダッ!』と床を蹴り、突進してきたのはピンク色の髪を持つ本多鮎だ。
(……ああ、影の持子様! たとえ影であっても、この私がご主人様の魂の器に直接触れ、極上の魔力を注ぎ込めるなんて……っ! 今日は強引に陣へ縛り付け、疑似魂の奥の奥まで私の魔力で染め上げて差し上げますわぁっ!)
狂信的な笑みを浮かべる鮎の隣から、『シュタッ!』と花園美羽が飛び出す。小柄でふわふわした茶髪を揺らす彼女の瞳は、泥棒猫特有のどろりとした執着に濁っていた。
「持子さぁん……今日は私たちが、い〜っぱい魔力をご奉仕しますからねぇっ」
(影だって関係ない……持子さんは持子さん。今日は私の魔力の全部を叩き込んで、魂がぐちゃぐちゃに共鳴するまで圧倒的なエネルギーを与えてあげるんだから……っ)
「フフフ……持子様、さあ、私のもとへ」
優雅に歩み寄るのは、身長185センチの絶世の金髪美女・エティエンヌだ。
(愛しい影の持子様……。影の器を強固にするため……ええ、この溢れる真祖の魔力で、狂うほどに魂を共鳴させてさしあげますわ……!)
「はぁっ、はぁっ……我が神……っ!」
最後に、サファイアブルーの瞳を潤ませたグラマラスな女神、アスタルテが熱っぽい声を漏らす。
(あぁんっ! 影の神様だとしても、わたくしの豊穣の神気で満たせるなんて……っ! もう魔力の暴走が我慢できませんわぁっ!)
下僕たちは全員、目の前にいるのが「影持子」であると完全に理解していた。だが、その事実は絶対に口に出さず、ただドロドロの狂信と魔力だけを隠さずに迫ってくる。
「ククク……良い覚悟だ。配下の魔力を受け止めるのも、魔王の務め。存分にわしを――」
「さあ持子様! 儀式の陣へ!!」
「きゃああっ!?」
影持子が魔王らしく堂々と受け入れようとした瞬間、『ガシィッ!』と四人から一斉に腕を掴み上げられた。有無を言わさぬ強引さで、そのまま魔術陣が描かれた広間の中央へと連行されていく。
「ま、待て! わしが主導権を……こらっ、魔力を勝手に流し込むな、ひゃあっ!?」
ペントハウスの広大な大理石の床。
青白い光を放つ魔法陣の中央に、影持子は乱暴に押し込まれていた。
「ふふっ……持子様。いつもは私たちが力を分け与えられるばかりですが、今夜は違いますわ」
「そうですにゃあっ! 今夜は私たちが、持子様にたーっぷりエネルギーを流し込んであげるんですにゃあっ!」
「あたくしたちの魔王様……その傲慢な仮面を剥がして、純粋な魔力の奔流で満たして差し上げますわ……♡」
「さあ……わたくしたちの神気で、その魂の隅々まで染め上げられてくださいませっ!」
第一下僕・本多鮎。暗殺メイド・花園美羽。魔法少女・エティエンヌ。豊穣の女神・アスタルテ。
四人の下僕たちは、完全に『魔力の捕食者』の目をして、魔法陣の中の影持子を取り囲んでいた。
(……ああ、なんて愛らしく、健気なのでしょう。自分が『昨日生まれたばかりのダミー』であることを隠し、必死に本物の魔王様を演じようとしているだなんて)
熱っぽい視線を向けながら、鮎たち四人の胸の内には、深く重い感情が渦巻いていた。
彼女たちは、立花雪からすでに聞かされていたのだ。目の前で必死に虚勢を張っている主が、ダミー(偽物)であると。
そして何より、先ほど彼女から放たれる気配を感じ取った際、決定的な事実を突きつけられていた。本物の魔王と彼女たちを繋ぐ、絶対的な主従の証である『魂のパス』が、この身体には一切通っていなかったのだ。
だからこそ、四人は結託した。
本物の魔王様には絶対にできない『下剋上(魔力の逆流)』という狂宴を満たすこと。
そして――空っぽの器である彼女に、四人の極上の魔力を限界まで注ぎ込むことで、強引に『疑似的な魂のパス』を構築し、自分たちと繋ぎ止めること。
それが、この魔力死闘の真の目的であった。
(な、なんだこのプレッシャーは……ッ!?)
影持子は、ジリジリと迫り来る四人の圧倒的な魔力圧に、背筋に冷たい汗をかいた。
(わしは、ダミーだ。……こいつらがどんな魔法を使い、どこが弱点なのかという『知識』は完璧に入っておるが、実戦は別物。だが……ここで飲まれて、ただの的(受け)に成り下がれば、わしは『完璧な魔王』ではなくなる!)
影持子の脳裏に、冷徹な陰陽師・土御門朔夜の顔がよぎった。
『絶対にボロを出すなよ。最後まで完璧に、魔王・董卓を演じ切れ。……俺の、可愛い部下としてな』
(……っ! そうだ、ここで負ければ、わしはポンコツの不良品として自我を消されてしまう! 朔夜の傍にいられなくなる! もう二度と、あいつの役に立てなくなる……ッ!)
朔夜に認められたい。その一途な想いが、影持子の中で爆発的な『意志の原動力』へと変換されていく。
「フ……フハハハハッ! 面白い! 貴様らごときが、この天下の魔王・董卓を魔力で押し潰そうなどと、片腹痛いわ! 来るがいい、一匹残らず返り討ちにして――」
「ああっ、隙だらけですわ! 【光の拘束】!」
エティエンヌが杖を鳴らすと、影持子の両手足が魔法の光の帯で床に柔らかく、しかし強固に縫い付けられた。
「なっ!? え、エティエンヌ、貴様……!」
「ふふっ。持子様はいつも強引にリードしてくださいますけれど、あたくし、一度でいいから持子様を縛って、全魔力を叩き込んでみたかったんですの……! さあ、あたくしの魔力、たっぷりと受け取ってくださいませ!」
エティエンヌの杖から、雷のような高密度の魔力が魔法陣を通じて影持子の身体へと直接流し込まれる。ダミーのまっさらな魔力回路が、他者の魔力によって強制的に拡張されていく。
「んんっ!? こ、この程度の魔法……わしには……ぐっ!? ま、魔力回路が、熱い……っ!」
ビビビビビッ!!!
魔力による直接的な神経と魂への過負荷。生後一日の身体には負担が大きすぎた。影持子は手足を縛られたまま背中を反らせて、あっさりと一度目の魔力飽和状態に達し、苦悶の声を上げた。
「まあ、だらしがない。では次は、わたくしの神気で、その器をさらに広げて差し上げますわ……」
息を乱す影持子の前に、アスタルテが進み出る。彼女の背後から黄金のオーラが立ち昇り、広間の空気が一気に重みを増した。
「んぐぅっ!? ア、アスタルテ、神圧が、重っ……!」
(ええ、たっぷり注ぎ込みますわ。魔王様とわたくしたちを繋ぐ、魂の架け橋を作るために……っ!)
アスタルテは女神の圧倒的な『神気』を込め、影持子の魂を直接圧迫する。生命力そのもののような濃密なエネルギーが、先ほどの魔力と混ざり合い、器の底に激しく叩き込まれる。
「ふはっ……苦し、い……っ! アスタルテ、貴様……わしの魂を、潰す気か……っ、ぐああっ! 神気が、荒々しいぃっ!」
威厳を保とうとする影持子の言葉は、苦しげな悲鳴へと変わる。豊穣の女神の膨大なエネルギーに耐えきれず、影持子の身体はガクガクと跳ね、二度目の限界突破の衝撃に飲まれた。
「にゃはっ♡ 持子様、回路が悲鳴を上げてるですにゃあ。魔力ノードが、熱くなってきましたかにゃ?」
意識が飛びかける影持子の背後に、花園美羽が瞬動で回り込む。
(魔力と神気が馴染んできたですにゃ。あとは私の精密な魔力操作で、急所を完全に焼き付けるんですにゃっ!)
「ひゃんっ!? み、美羽、背後の魔力結節は……っ」
――ビシュッ、ビシュッ……!
美羽の放つ鋭い魔力の針は、影持子の背骨からうなじ、そして首筋へと、暗殺者の絶妙な手際で最も重要な魔力ノードだけを的確に撃ち抜いていく。
「ああっ……! んんんっ! ぐぅっ、さく、ぁっ……!!」
内側からは膨大なエネルギーが暴れ、外側からは極上の精密射撃。無意識に朔夜の名前を叫びながら、影持子は歯を食いしばり、三度目の魔力臨界に達して全身の力を抜いた。
「持子様、お覚悟を。この鮎が、最後の仕上げをして差し上げますわ……!」
そして本多鮎が、影持子の正面に立ち、両手に漆黒の魔力を収束させた。
(……さぁ、私たちと、魂を繋ぐのです!)
「あ、やめ……っ! んぁっ、そこは……疑似魂の核……ッ!」
鮎の放つ太い魔力の奔流が、影持子の最も無防備な魂の深部をダイレクトに撃ち抜く。
(……負けられない……っ。朔夜に……褒めてもらうのだ……ッ! わしの、意地を……!)
その瞬間だった。
影持子の魂の奥底に眠っていた『マーラの魔力』が、彼女の朔夜に対する一途な想いと生存本能に呼応して、爆発的に覚醒した。
「――図に乗るなよ、下僕どもが」
パァンッ!!
影持子は縛られていたはずの四肢から圧倒的な闇の波動を放ち、エティエンヌの光の拘束を一瞬で粉砕する。
そして、床に描かれていた魔法陣に自身の強大な魔力を流し込み、より強固で複雑な陣へと瞬時に【強化・書き換え】を行ったのだ。広間を照らす青白い光が、禍々しくも神聖な紫紺の輝きへと変貌する。
「なっ!? 魔法陣が……私たちの制御を離れて……!」
「ええい、構わん! さらに魔力を――」
下僕たちが反撃の呪文を紡ごうとしたその時、影持子の全身から不可視の『マーラの魔力』がドーム状に展開された。
それは物理的な衝撃を一切伴わない。身体には指一本触れることなく、ただダイレクトに空間内の『魂』と『精神』へと干渉する波動だった。
「あ……っ!? な、なんだ、これは……ッ!?」
マーラの魔力波紋の中で、四人の下僕たちは己の内に渦巻いていた『持子への狂信的な愛情』と、影持子自身が抱く『一途な愛情(朔夜への純情)』が真っ向から衝突し、交じり合うのを感じた。
(違う……これは、本物の持子様の覇気ではない……異質で、甘すぎる魔力……っ!)
(拒絶しなさい! 私たちの愛は、本物の持子様にのみ捧げられるべきもの……!)
意識下では、彼女たちの理性が激しく警鐘を鳴らし、張子の魔王から流れ込む異質な波動に強烈な【反発】を覚えようとする。
しかし――。
「あ、あぁぁ……っ……なんて、温かくて、純粋な……」
彼女たちの無意識の領域は、その波に触れた瞬間、完全に陥落していた。
偽りの器から放たれるその波動は、どこまでも純粋で、真っ直ぐで、温かかった。下僕たちが持子に向ける狂信的な愛と、影持子が抱く純情が、マーラの魔力を触媒にして不可思議な化学反応を起こす。
反発しようとする意識を置き去りにしたまま、無意識下で『肯定的な愛』と『極上の魔力』が無限に生成され、彼女たちの魂を満たしていく。
――ドクンッ!!
その無意識の共鳴が臨界点に達した瞬間、空っぽだった影持子の魂の器に、四人の下僕たちと明確に繋がる、太く、熱い『疑似パス』が強制的に開通した。
「あ、ああああっ……! 魂が……持子様の愛で、満たされていきますわぁっ……!」
「意識が……溶ける……にゃあっ……幸せ、ですにゃあ……」
パスを通じて、影持子の威厳と、マーラの魔力によって増幅された無償の愛が怒涛のように流れ込む。
身体には一切触れられていない。だというのに、下僕たちは魂の奥底から込み上げる凄まじい多幸感と、絶対的な王の愛に包み込まれ、戦意を完全に喪失して次々とその場に泣き崩れた。
『わしの愛を、その魂で存分に味わうが良い』
影持子が玉座に座るかのように虚空に足を組むと、強化された魔法陣から溢れる光が下僕たちを優しく、しかし絶対的な支配力で包み込む。
反抗を試みた「攻め」の魔力死闘は、影持子の内なるマーラの力と純情が引き起こした奇跡の共鳴によって、物理的な接触を一切持たないまま、完全なる精神的屈服へと変貌を遂げたのだ。
「ああ……持子様……わたくしたちの、魔王様……」
魂と精神の圧倒的な充足に耐えきれず、アスタルテが至福の涙を流しながら意識を手放す。それを追うように、エティエンヌ、鮎、美羽もまた、濃密な愛と魔力の余韻に酔いしれながら、恍惚の表情で崩れ落ちていった。
――数十分後。
広間の床には、完全なる『主従の絆』で満たされ、幸せそうな寝顔で気絶している四人の下僕たちが転がっていた。
「はぁ……はぁ……っ」
影持子は、全身から魔力の残り火を燻らせ、息を荒くしながらも、広間の中央で胸を張った。
四回も限界まで魔力を打ち込まれたが、最終的には全員にパスを繋ぎ、見事に屈服させてみせたのだ。完全なる下剋上の鎮圧である。
(……勝ったぞ、朔夜)
乱れた息を整えながら、影持子は、扉の向こうにいるであろう愛しい陰陽師の姿を思い浮かべた。
(わしは、誰にもダミーだと悟らせなかった。絶対に不可能なパスすらも繋いでみせたぞ……ッ! 完璧に、魔王・董卓を演じ切った!)
自分が完璧に下僕たちを騙し切り、魔王として君臨したと信じて疑わない影持子は、拳をギュッと握りしめ、黄金の瞳に誇り高い光を宿した。
(……だから。この戦いが終わったら。今度は、お前に……いっぱいいっぱい、頭を撫でて、褒めてもらうからな……)
極東の魔王の広間。
そこでは、張子の魔王による一途な純情と勘違い、そして下僕たちの優しくも狂信的な魔力闘争が奇跡的に噛み合った壮絶な『防衛戦』が、双方にとって完璧な勝利をもってひっそりと幕を閉じていた。
R15厳しい




