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【天才陰陽師の暴走と、魔王の陥落】

【天才陰陽師の暴走と、魔王の陥落】


「……良し。術式は上手く行っているわ」


ダダをこねていた影持子を、土御門朔夜が見事に服従させたのを見届けた立花雪は、満足げに手を叩いた。


「はぁ……。なんとか、ですね」


朔夜は額に滲んだ脂汗を拭った。


十八歳の絶世の美少女の姿をした魔王からの、至近距離での睨みつけ。

男としての本能が暴走しそうになるのを必死に理性で押さえ込んだ結果だった。


「持子。あなたは奥の寝室で少し待ってなさい」


雪が、静かに影持子へと命じた。


「……むぅ。なまら腹が減っているというのに、まだ待たせるのか。忌々しい……だが、分かった」


影持子は、不満げに黄金の瞳を細め、ブツブツと文句を言いながらも、その足は逆らうことなく奥の寝室へと向かい、パタンとドアを閉めた。


部屋に二人きりになった雪と朔夜。


朔夜はホッと一息つき、「それじゃあ、これから初詣のパレードですね。準備を――」と言いかけた。


しかし、雪はソファーに深く腰掛け、大陰陽師としての冷たくも妖艶な微笑みを浮かべて、朔夜を見つめた。


「朔夜。初詣の前に、もう一つだけ『究極のテスト』をやっておくわよ」


「え……究極のテスト、ですか? まだ何かあるんですか?」


「ええ。とても大切なことよ。いいこと朔夜、よく聞きなさい」


雪は、赤い唇を三日月のように歪ませ、とんでもない爆弾を投下した。


「今から寝室に行って、あの子(影持子)の魂を『男』として完全に屈服させなさい」


「…………はい?」


朔夜の思考が、完全に停止した。

耳から入ってきた言葉が脳内で処理されるまで、約三秒。


そして。


「な、何をバカな事っ――!!」


朔夜は思わず声を荒げそうになり、ハッとして口元を押さえた。


「……し、師匠! 言葉が適正ではありませんでした! しかし、いくらなんでも正気ですか!? 僕と、あのダミーの持子で!?」


顔を茹でダコのように真っ赤にして狼狽える朔夜に対し、雪は平然と足を組み替えた。


「至って大真面目よ。いい? 持子……つまり中身の魔王・董卓の最大のトラウマは、前世で呂布とのBL同人誌を読まされたことよ。男という存在に魂の主導権を握られ、力で組み敷かれることを何よりも恐れ、嫌悪しているわ」


「そ、それは知ってますけど!」


「だからこそよ。その『魂レベルでの絶対的な拒絶』すらも、術式によるあなたの命令と『陽』の気で上書きし、男であるあなたに完全降伏させることができたなら……それはもう、この影持子を『完全に支配下に置いた』ことの絶対的な証明になるわ」


雪の言葉は、恐ろしいほどに論理的で、大陰陽師としての冷徹な計算に基づいていた。

しかし、言われた側の朔夜からすれば、たまったものではない。


「い、いやいやいや! 確かに正論っぽく聞こえますけど、絶対におかしいですって! そもそも、僕は……その、相手の精神を力ずくでこじ開けるような経験が……っ!」


「あら、朔夜。男でしょう? 覚悟を決めなさい」


「意味が違いますよ!! 相手は持子の姿をしてるんですよ!? いくらダミーとはいえ、本物の持子の情報を完全にコピーしてるんです! そんなの、あまりにも……!」


「いいから! グダグダ言ってないで、さっさと行きなさい!」


雪が、バンッ! とデスクを叩き、絶対零度の威圧感を放った。


「本物の持子を助けたくないの!? この『影持子』の魂を完璧にコントロールして裏社会を欺くことが、本物の持子を守るための最大の防壁になるよ! あなたのそのちっぽけなプライドと、持子の命、どっちが大事なの!?」


「うぐっ……!!」


朔夜は言葉に詰まった。

雪の言葉は詭弁のようでありながら、スノーの副マネージャーとして、そして陰陽師としての「責任」を突いてくる。


(……そうだ。俺は、いつか必ずあの魔王の隣に立つと決めたんだ。そのためなら、どんな汚れ役だって……!)


朔夜は、ギリッと奥歯を噛み締め、顔を真っ赤にしながらも、吹っ切れたように叫んだ。


「あーもう! やればいいんでしょ、やれば!! やってやりますよ!!」


朔夜は、ヤケクソ気味に上着を脱ぎ捨て、勢いよく寝室のドアノブに手をかけた。


「行ってきます!!」


バタンッ!!


勢いよくドアを閉めて寝室に突入した朔夜の後ろ姿を見送り、雪はクスクスと悪魔のように笑った。


「ふふっ……若いって、本当にいいわねぇ」


     * * *


――ガチャァンッ!


寝室のドアが乱暴に開かれ、朔夜が部屋に飛び込んできた。

部屋の奥のキングサイズのベッドの上では、影持子が不満げに寝転がっていた。


「ぬ? なんだ朔夜。随分と騒々しいではないか。いよいよ飯か?」


影持子はのそりと身を起こし、黄金の瞳で朔夜を見つめた。


しかし、朔夜の様子がおかしいことにすぐに気づく。

銀髪の隙間から覗く目は血走り、その呼吸は荒く、何より……全身から、隠しきれない「オス」としてのギラギラとした気迫と、強烈な呪力が立ち昇っていたのだ。


「……脱げ」


朔夜は、低く、押し殺したような声で命じた。


「……は?」


影持子は、一瞬、自分の耳を疑った。


「何を言っている。先ほどお前が着替えろと命じたばかりであろうが」


「今から、お前の魂を完全に俺の支配下に置く!!!」


朔夜は、怒鳴るように、しかし紛れもない本気の宣言を叩きつけた。


「――――ッ!!?」


影持子の黄金の瞳が、限界まで見開かれた。

魔王・董卓としての思考が、完全にショートする。


(支配下……? このわしを!? 男であるこのわしを、男が組み敷くというのか!?)


ドクンッ、ドクンッ、ドクンッ!!


影持子の胸の奥で、強烈な心音が高鳴り始めた。

怒りではない。それは、魂そのものが本能的に感じ取る「恐怖」と、そして……抗いがたい呪力の共鳴の予兆であった。


「な、何を血迷った事を抜かしているッ! 狂ったか小童ッ!」


「これは、俺からの『絶対の命令』だ!」


朔夜が、陰陽師としての強烈な呪力(縛り)を込めて怒鳴りつける。


ピキィッ……!


影持子の身体が、目に見えない鎖で縛られたように硬直した。


「ぐっ……! ぬぅぅぅぅぅッ!! や、やめろ……! 身体が……ッ!」


影持子は激しく首を横に振り、必死に拒絶を試みる。

だが、雪と朔夜の血によって作られた擬似魂のシステムは、朔夜の絶対的な命令に逆らうことを許さない。


朔夜は、ゴクリと唾を飲み込むと、ベッドの上で震える影持子に向かって一気に距離を詰め――。


ドンッ!!


彼女の両手首を掴み、そのままベッドの上へと力強く押し倒した。


「ひぐっ!?」


柔らかいマットレスに沈み込む影持子。その上に、朔夜の長身が覆い被さる。

男の重み。圧倒的な質量。至近距離から降り注ぐ、逃げ場のない陽の気。


「は、離せッ!! わしは男だぞ!! 中身は三国志の覇王・董卓だぞ!? 男同士で組み敷くなど、お前は変態か!!」


パニックに陥り、必死に自分が「男」であることを主張する影持子。

しかし、朔夜は冷たく笑った。


「……男? 今のお前は、術式で生み出された『女』の器だ。俺の呪力に抗えるはずがないだろう」


朔夜の掌から、純粋で強大な陽の気が、影持子の極陰の気へと直接流し込まれる。


「ひゃあぁぁぁっ!!?」


影持子の口から、聞いたこともないような高い悲鳴が漏れた。


肉体的な接触によるものではない。

魂の最も深い部分を直接揺さぶられ、作り変えられるような強烈な呪力の奔流。


「ほら見ろ。お前の魂は、俺の気に呼応している」


「ち、ちが……っ! わしは……わしは……あぁっ……!」


朔夜の容赦ない呪力の放射。

影持子の脳内で、「自分は男だ」という強固な自意識が、極陰の気が陽の気を求める本能的な渇望によって、ドロドロと溶かされていく。


「さあ、持子……俺を受け入れろ」


(屈辱だ……! 魂の主導権を、男に奪われるなど……!)


影持子は必死に抵抗しようとした。


しかし、「嫌だ」「屈辱だ」と叫ぶ魂の裏側で、術式によって縛られた肉体と擬似魂が、朔夜の放つ圧倒的な陽の気を前に歓喜の震えを上げ始めていた。


魔王の体質を受け継いだ彼女の肌は、呪力の衝突による異常なほどの熱を持ち始めている。

白磁の肌が全身を桜色に染め、甘く、とろけるような熱を放つ。


「く……そ……っ! 朔夜……きさま……っ」


魔王のプライドが、最後の抵抗を見せる。

しかし、朔夜がさらに一段階強く呪力を練り上げ、彼女の精神の最奥へと踏み込んだ瞬間。


「あ、あぁぁぁぁぁんッ!!!」


男としての自我と、術式が生み出した器の共鳴。

その矛盾による強烈な摩擦が、影持子の精神をついに決壊させる。


「はぁ……はぁ……っ、さく、や……っ」


影持子の黄金の瞳から反抗の光が消え去った。

代わりに宿ったのは、主への完全なる服従と、魂が満たされることへの渇望だった。


「……もう、限界か?」


朔夜の問いに、影持子は自ら朔夜の首に腕を回し、潤んだ瞳で見つめ上げてきた。


「……朔夜。……早く……術式を、完成させろ……っ」


魔王が、自ら敗北を認めた瞬間だった。

朔夜は自身の持てるすべての『陽』の気を束ね、影持子の魂へと一気に叩き込んだ。


「……いくぞ、持子」


「ひっ……あぁ……っ、こい……朔夜……ッ!」


――ッ!!!


「あ、あぎぃぃぃぃぃぃッッ!!!」


朔夜の圧倒的な気が、影持子の精神の防壁を完全に突き破り、最も深い場所で二つの魂が激しく衝突した。


陰陽師である朔夜の「純粋な陽の気」と、魔王のダミーである影持子の持つ「極陰の気」が、まるでパズルのピースが完璧に組み合わさるように、奇跡的な相乗効果を生み出していく。


相反する二つの強烈な魂が溶け合い、やがて巨大な呪力のうねりとなって部屋を満たしていく。


「あぁぁっ! さくやっ、朔夜ぁっ! もっと……もっとわしの魂を染め上げろぉぉっ!!」


プライドもトラウマも、すべてが圧倒的な呪力の奔流に飲み込まれていく。

朔夜もまた、己の主としての刻印を彼女の魂の奥底まで容赦なく刻み込むように、気を練り上げ続けた。


「いく……っ! わし、いくぞ朔夜ぁぁぁっ!!」

「俺も……っ! 持子ぉぉぉっ!!」


呪力と呪力が完全に『共鳴』へと至った瞬間。

影持子はかつてない魂の融合による強烈な昂揚感に包まれ、弓なりに反って全身を震わせた。


     * * *


数十分後。


汗にまみれたベッドの上。

朔夜の胸の中で、影持子は完全に骨抜きにされ、トロンとした黄金の瞳で虚空を見つめていた。


その顔には、魔王の威厳など微塵もない。

ただ、己の魂を完全に屈服させた「主」に寄り添う、従順な顔があった。


「……ふぅ。これで、完璧にお前は俺のものだ」


朔夜は、影持子の汗ばんだ黒髪を撫でながら、圧倒的な征服感と、陰陽師としての術式の完全な定着を感じ取り、不敵に笑った。


「……あぁ……. 朔夜……お前の、言う通りだ……」


影持子は、熱に浮かされたように朔夜の胸に頬を擦り寄せた。


「わしは……お前のものだ……。お前の命令には、何一つ逆らえん……」


大陰陽師の無茶振りから始まった、狂気の実験。

それは、天才陰陽師が魔王のダミーの魂を完全に屈服させ、その精神を支配下に置くという、究極の主従関係の完成を意味していた。


「さあ、服を着ろ。……初詣のパレードに行くぞ」


「はい……朔夜……」


外の世界では、氷川神社での初詣パニックが待ち受けている。

だが、この寝室の中で行われた誰にも言えない呪力の儀式は、土御門朔夜という男の人生に、深く、甘く、決して消えない傷痕を残したのである。


R15って、こんなに厳しいかな〜

半分くらい削りました。

みんなイマジンしてください。

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