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『私がセーラームーン!?下僕だらけの魔法少女生活』

【世界最強のモデルは、正義の魔法少女(?)だった!?】



翌朝――。


光が燦々と降り注ぐ、広大なペントハウスのダイニング。

持子は緊張のあまり、指先を震わせながら高級なティーカップを握りしめていた。


カチリ、と硬質な音が響く。

向かいの席に座るのは、一分の隙もないメイクとスーツ姿で決めた立花雪だ。

彼女は優雅に脚を組み、持子を見据えて告げた。


「――と、いうわけなのよ。あなたはあの日から、血の滲むような努力でオーディションを勝ち抜き、世界的ブランドのアンバサダーに就任。そこからは破竹の勢いで世界のトップへと上り詰めたの」


雪は淡々と、しかし情熱的に語った。

この二年間で持子がどれだけモデルとして成功し、輝かしい功績を残してきたか。


(もちろん、裏社会の抗争や『大禍つ炉』なんてヤバすぎる事実は、全部オブラートに包んでポイ捨てしたけれど……!)


「そ、そうだったんですか……。じゃあ、昨日ネットで見かけた一億ヒットとか、ハリウッドスターと肩を並べてる写真は、全部現実……?」


「ええ。あなたは正真正銘、世界を熱狂させるトップモデルよ」


「うう……私の人生、いつの間にか大出世しすぎてて怖い……っ!」


持子は耐えきれず、テーブルに突っ伏した。

だが、ここからが敏腕マネージャー・雪の真骨頂である。


モデルとしての活躍だけでは、ネットの海に転がっている『魔王』という物騒な異名や、滝行、果ては顔面踏みつけ写真などの「異常すぎるカオス」を説明しきれないからだ。


「持子、顔を上げなさい。ここからが重要よ」


雪はわざとらしく、声を一段低くした。


「あなたはモデルとして活躍する一方で……ある日、特別な力に目覚めたの。そう、世界を脅かす『悪い闇の勢力』と戦うための……【良い魔王】としてね!」


「…………はい?」


持子が、マヌケな声を上げた。


「い、良い魔王って何ですか!? 魔王って普通、勇者に倒される悪役じゃないんですか!?」


「違うわ! あなたは、世界を裏で操る悪の組織を倒すヒロインなのよ!」


「ヒ、ヒロイン!? じゃあ私、魔法少女みたいなことになってたんですか!?」


――魔法少女。


そのあまりにもピュアな響きに、雪の頬がピクッと引きつった。


(……少女? いや、持子本人や美羽、おまけでルージュあたりはギリギリ少女で通るかもしれないけれど……)


脳裏をよぎるのは、あのダイナマイトボディの鮎や、エティエンヌ、アスタルテといった面々。


(あのメンバーで『魔法少女』は絵面が厳しすぎる……というか、完全にアウトでしょ……!)


雪の脳内で冷静なツッコミが炸裂したが、立ち止まっている暇はない。

今の持子を納得させるには、勢いこそがすべてだ。


「そっ、そうよ! その通りよ持子! あなたは魔法少女なの!」


雪は力強く頷いた。


「ま、魔法少女……私が……」


持子は両手で頬を包み、ポッ、と顔を赤らめた。

単純な女子高生にとって、不気味な『魔王』よりも、ヒロインや『魔法少女』という響きは遥かに受け入れやすく、むしろ少し憧れるシチュエーションだった。


「でも雪さん。魔法少女だとしたら、なんで私、あんなに鮎先輩たちとベタベタくっついてたんですか……? 女の子同士でほっぺにチューしたり、抱きしめ合ったり……」


昨晩の「百合ハーレム疑惑」を思い出し、持子は再び怯え始めた。

だが、雪は食い気味に身を乗り出す。


「それはね、持子。あなたには一緒に闇の勢力と戦う仲間がいたからよ!」


「な、仲間……」


「そう! 本多鮎、花園美羽、エティエンヌ、アスタルテ、シャーロット……そして、おまけのルージュ! 彼女たちは、あなたと共に命を懸けて戦う大事な戦友なのよ!」


雪の熱弁は止まらない。


「魔法少女っていうのは、とっても仲が良いものでしょう!? アニメとかでも、戦闘の前後にハグしたり、ほっぺにチューくらいしてるじゃない!(※大嘘)」


「えっ!? そ、そうなんですか!? 私、深夜アニメとかあんまり見ないから知らなくて……」


「してるわ! 命を預け合っているんだから、そのくらいのスキンシップは当然のコミュニケーションなの! 昨日、あなたが彼女たちを拒絶した時、どれだけ彼女たちが傷ついたか……。仲間としての絆を深めるためのハグ、許してあげなさい!」


有無を言わさぬ凄まじい気迫。

そして何より、この持子という少女は【絶望的にチョロかった】。


「……そ、そうだったんだ。命を懸けて戦う仲間だから、あんなに距離が近かったんですね……」


持子はコクコクと頷き始めた。


(……勝った。チョロすぎるわ、この子)


雪は内心でガッツポーズを決めつつ、トドメの一撃を放つ。


「それにね、持子」


スッと表情を冷徹な「社長モード」に戻し、持子の目を見据えた。


「美しい女の子同士の過剰なスキンシップは……SNSでめちゃくちゃ『数字バズ』が取れるのよ」


「……数字」


「そう。闇の勢力と戦いながら、トップモデルとしての人気も維持する。そのための高度なマーケティング戦略でもあったのよ、あのスキンシップは」


「な、なるほどぉぉぉっ! さすが雪さん! 全ては計算されていたんですね!」


持子は完全に信じ込み、キラキラとした尊敬の眼差しを雪に向けた。


(……バカを説得するには、自分もバカにならなければいけないのね……)


疲労で胃のあたりがキリキリと痛むのを感じながら。

立花雪は、優雅に、そしてひきつった笑顔を浮かべ、冷めきった紅茶を啜るのだった。


【セーラージュピターと大泉洋? 第一下僕・本多鮎の自己紹介】


「……はぁ。仕方ないわね。一気に全員は刺激が強すぎるみたいだから、一人ずつ順番に紹介していくわ」


 雪は呆れたように小さくため息をつくと、寝室のドアを少しだけ開け、外でしょんぼりと待機していた狂人(魔法使い)たちの中から一人だけを呼び入れた。


「まずは鮎。入りなさい」


「は、はいっ! 失礼いたしますわ!」


 ガチャリとドアが開き、ピンク色の髪を揺らして入ってきたのは、破れたトナカイ風セクシードレスを纏ったダイナマイトボディの美女――本多鮎であった。


 先ほどの血走った捕食者の目つきは雪の指導によって何とか鳴りを潜めているものの、その瞳の奥には持子への「愛と忠誠」がマグマのようにドロドロと渦巻いているのが素人目にも分かる。


「ひぃっ……」


 持子はベッドの上でクッションを抱きしめ、ズルズルと後ずさった。

(だって、この人……私がテレビや雑誌でしか見たことのない、超有名事務所ゴライアスのトップモデル、本多鮎先輩だよ!? なんでそんな雲の上の人が、こんなボロボロのトナカイの格好で私を見つめてるの!? 意味がわからないよぉ!)


 完全に怯えきっている持子に対し、雪は淡々と、しかし衝撃的な事実を告げた。


「いいこと、持子。彼女はね、今は元の事務所を辞めて、うちの『スノー』に移籍してきているのよ」


「えっ!? あの大手から、うちみたいな弱小事務所にですか!?」


「ええ。移籍金や違約金、それにゴライアスの裏にいた『反社ヤクザ』への詫び金とか諸々含めて、ざっと二億円くらいかかったけどね」


「にっ、におくえん!? しかも反社への詫び金!? や、やっぱりうちの事務所、真っ黒じゃないですかぁぁっ!!」


 サラッと飛び出した「反社」という物騒な単語に、持子は白目を剥きそうになった。


「細かいことは気にしなくていいの。とにかく、年齢や芸歴は彼女の方がずっと上だけど、スノーの所属歴としては『持子が先輩、鮎が後輩』になるわ」


「私が先輩……?」


「そう。だから、鮎があなたのことを『持子様』って呼んでかしずいてきても、何も不思議なことじゃないの。気にしないで堂々としていなさい」


 雪の言葉に呼応するように、鮎がビシッ! と背筋を伸ばし、学校の優等生のように綺麗に手を挙げた。


「雪社長の仰る通りですわ! 持子先輩はわたくしにとって偉大なスノーの先輩! ですから、後輩であるわたくしが『持子様』と、最上級の敬意と愛を込めてお呼びしても、なーんの不思議もございませんわ!!」


「いや不思議だよ! めっちゃ不自然だよ!!」


 持子はクッションを放り投げ、全力でツッコミを入れた。


「二年前の私の記憶じゃ、鮎先輩は手の届かない雲の上のトップモデルなんです! そんなすごい人に『様』付けなんてされたら、胃に穴が開いちゃうよぉっ! お願いですから、せめて呼び捨てか、百歩譲って『さん』付けくらいにしてくださいっ!」


「そ、そんな殺生な……っ!」


 持子の切実な懇願に、鮎はまるでこの世の終わりのような絶望の表情を浮かべた。

 彼女にとって、持子を「様」と呼び、絶対的な主として崇め奉ることこそが至上の悦びなのだ。それを禁じられるのは、呼吸を止めろと言われているに等しい。


「……鮎。持子がそう言っているのだから、合わせなさい」


「ぐっ……! か、畏まりましたわ……持子、さ、さん……っ」


 雪の絶対零度の視線に射抜かれ、鮎は奥歯をギリギリと噛み締めながら、血を吐くような思いで「さん」付けを絞り出した。

 落ち込む鮎をフォローするように、雪が明るい話題を振る。


「でもね持子、今の鮎はモデル業だけじゃなくて、タレントや女優としても大活躍しているのよ。最近公開された鮎の主演映画なんて、日本中で大ヒットしているんだから」


「へえー、女優さんなんだ! すごいなぁ……」


「大泉洋とのダブル主演でね、素晴らしい演技だったわ」


「……え?」


 持子の動きが、ピタリと止まった。


「お、大泉……洋……?」


「ええ、大泉洋よ。北海道の大スターの」


「いえいえ、わたくしなんて大泉さんの胸をお借りしただけで、まだまだ未熟者で……」


 鮎が女優らしく謙遜して見せた、その瞬間。

 持子の瞳に、かつての『魔王』の覇気とは全く違う、北海道道民としての熱狂的な炎(ファン魂)がボワァァァァッ! と燃え上がった。


「大泉洋様とダブル主演!? あの『水曜どうでしょう』の!? なまらすごいじゃないですか鮎さん!!」


「ひゃんっ!?」


 持子がベッドから身を乗り出し、鮎の両手をガシッ! と力強く握りしめた。


「お願いします鮎さん! 私、昔から大泉洋様のなまら大ファンなんです! お願いです、大泉洋様のサインをもらってきてくださいっ!!」


「えっ……サ、サイン、ですの?」


 鮎は、持子のあまりの熱量にポカンと口を開けた。

(デジャヴですわ……。たしか以前も、魔王として君臨されていた持子様にもサインをせがまれた……。記憶を失っても、魂に刻まれたファン魂は変わらないということですのね……)


 共演者からプライベートでサインをもらうというのは、芸能界のしがらみや事務所の都合を考えると、本来なら「かなり無理な相談」である。

 だが。

 目の前で、純度100%のキラキラした瞳を向け、自分の手をギュッと握りしめてくる十六歳の無垢な持子。


「……鮎さん。ダメ、ですか……?」


 上目遣いで、ふるふると揺れる黄金の瞳。

 その破壊力たるや、核弾頭クラスであった。


「……お任せくださいませ!!」


 鮎は、血を吐くような覚悟で高らかに宣言した。


「この本多鮎、持子さ、さんのためならば! たとえ火の中水の中、芸能界のしがらみを全て叩き斬ってでも、必ずや洋さんのサインをゲットしてご覧に入れますわ!!」


「本当!? やったぁぁっ! 鮎さん大好き!!」


 持子は満面の笑みを浮かべ、無邪気に鮎の手をぶんぶんと振り回した。

 「大好き」。そのストレートで、一点の曇りもない純粋な言葉の響き。


「……あ、あぁっ……」


 鮎の胸の奥で、何かがトクン、と大きく跳ねた。

 これまでの鮎は、持子から向けられる「理不尽な暴力」や「絶対的な支配」に対して、究極のドMとしての悦びを感じていた。

 しかし、今、この無邪気な十六歳の少女から向けられる「大好き」という言葉。それは、母性にも似た強烈な『庇護欲』を呼び覚ました。


(なんて……なんて可愛らしいんですの……っ! わたくし、もっと、もっと惚れてしまいましたわ……っ!!)


 鮎の瞳に、新たな形の狂信の光が宿る。


「……えっと、それで、鮎さんは魔法少女としては、どんな戦い方をするんですか?」


「そうね……」と雪が呆れ顔で引き継ぐ。「持子の好きな『セーラームーン』で例えるなら、鮎は木野まこと……つまり『セーラージュピター』みたいな立ち位置よ」


「ジュピター! 背が高くて力持ちで、料理が上手なかっこいいお姉さん!」


「料理はともかく、力持ちなのはその通りよ。彼女はパーティーの前衛で、一番前で敵の攻撃を受け止める『盾役』のキャラなの」


 雪の分かりやすい解説に、持子は「おおーっ!」と感嘆の声を上げた。

 そんな持子を見つめながら、鮎は新たな決意を胸に宣言した。


「ええ、その通りですわ。わたくしは持子さんをお守りする、最強の盾……セーラージュピターですの。どんな闇の勢力が来ようとも、この本多鮎が最前線で全て叩き潰してご覧に入れますわ!」


「はいっ! 頼りにしてます、鮎さん!」


 記憶を失ったことでリセットされた二人の関係は、以前よりもさらに強固で、そしてカオスな方向へと拗れていくのだった。



【セーラーウラヌスは暗殺者(忍者)? 泥棒猫・花園美羽の自己紹介】


「鮎、あなたは一度外で待機していなさい。……次は美羽、入りなさい」


「はいっ! お待ちしてましたぁっ♡」


 雪の呼びかけに応じ、パタパタと小走りで寝室に入ってきたのは、ふわふわとした茶色のショートボブが愛らしい、小柄な美少女だった。


「……えっと、次はこの子ね」


 雪は、美羽を横目で見下ろしながら、抑揚のない冷ややかな声で紹介を始めた。


「元々はアイドルだったんだけど、素行が悪くて前の芸能事務所をクビになって、うちの事務所に泣きついて入所してきたのよ」


「ゆ、雪さん! いくらなんでも悪意しか感じない紹介の仕方、やめてくださいにゃ〜!」


 美羽が、猫のように両手を丸めて抗議の声を上げた。

 しかし、持子はベッドの上で完全にドン引きしていた。

(素行が悪くてクビ……!? アイドルなのに!? またうちの事務所のヤバいエピソードが増えたよ!)


 怯える持子に対し、美羽はベッドの脇までちょこちょこと歩み寄り、コテッとあざとく首を傾げてみせた。


「持子さん、初めまして! 私、花園美羽って言います! 私、持子さんに救われて、このスノーで今は歌手として活動しているんですぅ」


「そ、そうなんだ……。えっと、前の事務所は、どうしてクビに……?」


「実は……ちょっと手癖が悪くて、色々と盗んじゃったりして、やめさせられちゃったんです。正真正銘の、泥棒猫ですぅ」


 ――ピタッ。持子の思考が、完全にフリーズした。

(手癖が悪い? 盗み? ……それ、ただの犯罪者じゃん!! なんでそんな可愛らしいテンションでカミングアウトしてくるの!?)


「でもね、持子さんはそんな私を軽蔑しないで、『可愛い』って言って、拾ってくれたんですよ! だから私、持子さんのためなら何でもします! どうか私と、お友達になってくださいにゃ〜♡」


 美羽は、アイドル全開の『にゃんこポーズ』を決めた。

 だが、今の持子からすれば、ただただ「重くて怖い」だけだった。


「…………」


 固まってしまった持子を見て、雪が冷静なフォローを入れた。


「……まあ、手癖の悪さは今は完全に治っているから安心してちょうだい。それに、美羽は歌手であると同時に、持子と同じ高校の『芸能科』に通う同級生なのよ」


「えっ!? 同級生!?」


 その言葉に、持子の石化がパチンと解けた。等身大の女子高生にとって、同級生という事実は何よりも安心できる響きだった。


「同級生……! じゃあ、美羽ちゃんは学校のお友達なんだね!」


「はいっ! 持子さんと一緒にお弁当食べたり、色々してるんですぅ♡」


「それじゃあ、美羽ちゃんは……『魔法少女』としては、どんな風に戦うの?」


 雪は、少し考え込むように顎に手を当てた。


「そうね……持子の好きなセーラームーンで言えば、美羽は『セーラーウラヌス』かしらね。圧倒的なスピードを持っていてね。敵の死角に音もなく忍び寄って、一瞬で敵の急所を――」


 雪はハッと口をつぐんだ。


「あ、ゲフンゲフン。スピードで静かにオバケを倒すのよ」


「暗殺……?」


 持子が首を傾げる。だが次の瞬間、持子の黄金の瞳がキラァァァッ! と輝きを放った。


「スピードで死角に忍び寄って、音もなく静かに倒す……それって、もしかして……忍者!?」


「……え?」


「美羽ちゃん、魔法使いっていうか、忍者なんですね!! なまらかっこいい!!」


 「スピード」「隠密」「同級生」。そのキーワードから導き出された答えは、持子の中で完全に『現代に生きるくノ一(忍者)』へと変換されていた。


「あ、はいっ! そうです、私、ニンジャなんですぅ! 高速で動いて、オバケの背後からシュバッ! って静かに倒しちゃうんです♡」


 美羽はとっさに、手裏剣を投げるようなポーズをとってみせた。


「うわぁぁっ! すごいすごい! 同級生が忍者なんて、漫画みたい!」


 持子はベッドの上で大興奮で手を叩いた。さっきまでの警戒心はどこへやら、完全に「かっこいい忍者の友達」という認識に上書きされてしまっている。


「ふふっ……持子さん、私がしっかり護衛してあげますから、安心してくださいね♡」


「うんっ! よろしくね、美羽ちゃん!」



【最強のセーラーコスモスは教育上最悪? エティエンヌの自己紹介】


「……はぁ。次が一番の頭痛の種ね。美羽、あなたも外で待機していなさい」


 雪はこれまでにないほど深く、重いため息をついた。

(あの女……いや、女体化した真祖の吸血鬼で、超絶ドMなんて……記憶を失った純情な持子に、どう説明すればいいのよ……)


 雪がドアを開けると、そこには妖艶な微笑みを浮かべた金髪の外国人美女、エティエンヌが立っていた。


「お呼びですわね、雪社長。さあ、わたくしの可愛いお友達に、ご挨拶をさせてくださいませ」


「……えっと、すごく綺麗な外国人の女の人……」


 持子は、その芸術品のように美しいエティエンヌに圧倒されていた。


「わたくしのフルネームは、エティエンヌ・ド・ロシュフォール=ノクティス。フランス出身ですわ。ふふっ……この身体、持子さんの『好み』のはずですわよ?」


 エティエンヌは、圧倒的なプロポーションをこれ見よがしにアピールした。


「えっと……雪さん。エティエンヌさんは、どんな人なんですか?」


「そ、そうね……。彼女はフランスの表社会でも裏社会でも、頂点に立つ王様みたいな人よ。それに、とても……ええ、とても『愛情の深い女』なの」


「愛情が、深い……?」


「そう。持子がどんな理不尽な愛(暴力)をぶつけても、全部優しく受け止めてくれる、心が広くて愛情深い人なのよ」


 雪の苦し紛れの言い換えに、エティエンヌは「その通りですわ♡」と頬を染めて身悶えしている。


「それじゃあ、魔法少女としては……?」


「……セーラーコスモスよ」


 雪は、迷うことなく最強の称号を与えた。


「セーラーコスモス!? あの、究極のセーラームーンの!?」


「ええ。何でもできる最強の……持子の『友達』の中では、間違いなく最強の魔法使いよ」


「すごい! 最強のセーラーコスモスがお友達なんだ!」


 持子の純粋な瞳を受け、エティエンヌの内部で強烈な感情が爆発した。


「ああ、持子さん……! このエティエンヌ、あなたのその純粋な瞳のためならば、わたくしの永遠の命も、この血も肉も、全てをあなたに捧げますわ! さあ、わたくしにあなたの全てを刻み込み、この絶対的な忠誠と重すぎる愛を――」


「――重たいのはダメと言っているでしょう」


 ガシィッ!!!

 雪の右手が、エティエンヌの頭部を無慈悲な『アイアンクロー』で鷲掴みにした。


「ギィッ!? ゆ、雪社長ぉぉっ! 頭蓋骨がミシミシ言ってますわぁっ!?」


「持子の精神に負担をかけるような告白は禁止よ。……やり直しなさい」


 雪はポンッと解放した。エティエンヌは涙目で頭を押さえながら、上品な微笑みを浮かべ直して右手を差し出した。


「……どうか、わたくしと『お友達』になってくださいませ」


「はいっ! もちろんです! エティエンヌさんが一緒なら、どんな悪いオバケが来ても安心です!」


「……ええ。お任せ、くださいませ……っ♡」


 持子の体温に触れ、エティエンヌは再び顔を真っ赤にしてフリフリと身悶えし始めた。



【正真正銘の神様と、愛のセーラーヴィーナス? アスタルテの自己紹介(改)】


「……はぁぁぁぁぁっ」


 雪は今日一番の特大のため息を吐き出した。


「次がいよいよ大トリなんだけど……もう正直に言うわね。持子、彼女の名前はアスタルテ。えーとね……神よ」


「…………はい?」


「だから、神様。正真正銘の、本物の『神』」


「えええええええっ!? か、神様!? なんでうちの事務所に神様がいるんですか!?」


「一言で言うと、『愛・美・豊穣・戦争』を司る、万能タイプの女神様よ。怒らせたら一番ヤバいタイプね」


 持子がガクガクと震え上がると、神々しいオーラを纏った美女、アスタルテが優しく歩み寄ってきた。


「Oh, my sweet Mochiko! I am so happy to see you safe! My love for you is eternal!」


「……あの、雪さん……なんて言ってるんですか? 私、英語はちょっと……」


 雪は重大な事実に気づいた。今の持子には魔力がないため、以前のような『魂のパス(自動翻訳)』が機能していないのだ。


「ああ、翻訳機が壊れちゃったの。アスタルテは英語とかしか話せないのよ」


「Oh no... You can't understand my words...?」


 アスタルテは悲痛な顔で持子の手を握りしめ、とめどなく語り始めた。愛と忠誠を必死に訴えかけるが、赤点スレスレの持子には「めっちゃ勢いのある外国語」にしか聞こえない。


「あわわ……っ。ゆ、雪さん! 通訳お願いします!」


「……はぁ。持子と『友達になりたい』って言ってるわ。わざわざ会いに日本に来てくれたのよ」


「えっ、あんなに長く喋ってたのに、それだけ!?」


 雪の適当な通訳を聞いて、持子は「そうだったんだ……!」と表情を明るくした。


「えっと……魔法少女に例えると誰になるんですか?」


「間違いなく『セーラーヴィーナス』よ」


「ヴィーナス!? 私、ヴィーナスなまら好きなんです! リーダーで、愛と美の戦士!」


 持子は大喜びで両手を差し出した。


「アスタルテさん! 私でよければ、ぜひお友達になってください!」


「Ah... Mochiko...!」


 アスタルテは感激のあまり、持子をふわりとハグした。


「Wow... Thank you! I love you!」


「わぁっ……神様のハグ、なんだかすっごくいい匂いがします……!」


 アスタルテの内心は(ああああっ! 愛しの持子様がわたくしの腕の中で!)と幸福感で爆発していた。


「……アスタルテ。あなたも今から本気で日本語を覚えなさい」


「Yes! Of course!」


 愛の女神セーラーヴィーナスが、日本語ドリルに並々ならぬ熱意を燃やし始めた瞬間であった。



【水星のツッコミ役と、戦闘狂のクズ? ルージュの自己紹介(改)】


「ふぅ……これで、ひと通り終わったわね」


 雪が疲れ切った顔でこめかみを揉んでいた、その時。部屋の隅からゴシックドレスの少女、ルージュがムスッとした顔で声を上げた。


「ちょっと雪社長。わたくしをスルーする気でしたの!?」


「あ、ごめんごめん。忘れてたわ」


「えっ……あの、すごく綺麗な女の人。フランス人形みたい……」


 持子の純度100%の「可愛い」という称賛を浴びて、ルージュはカァァッ! と顔を真っ赤にした。


「か、可愛いだなんて……別に嬉しくなんかないんだからねっ!」


「持子、彼女はルージュ。実年齢は三〇〇歳の吸血鬼の女王よ」


 そこへ、エティエンヌが妖艶に割り込んできた。


「ええ。わたくしの愛する女王ですわ。実はわたくしたち、最初の一〇〇年くらいはパリの裏社会を一緒に支配しておりましたのよ。その後、わたくしは暴れ回るために政務を全部この子に丸投げしたんですけれど! おほほほほっ!」


「……要するに!!」


 ルージュがエティエンヌの背中を叩いた。


「この戦闘狂が暴れ回って増やした領地の尻拭いを、わたくしが三〇〇年間も一人でやらされてたってことでしょうが! このクズ!!」


「あぁんっ♡ クズと罵られましたわ! もっと言ってもちょうだい!」


「喜ぶんじゃないわよ変態!!」


 その完璧なツッコミを見て、雪が深く頷いた。


「持子。このルージュはね、持子の直接の下僕じゃないの。……鮎の下僕なのよ。だからこそ、みんなに真っ当なツッコミを入れることができる貴重な常識人枠なの」


「なるほど……! パリを管理してきた頭脳があって、みんなの間違いをビシッと指摘してくれる……! じゃあ、ルージュちゃんは『セーラーマーキュリー』ですね!」


「マーキュリー?」


「うん! 頭が良くて、いつもみんなをサポートしてくれる優しい戦士! よろしくね、ルージュちゃん!」


 持子は満面の笑みで握手を求めた。


「…………っ。……ええ。仕方ないから、わたくしの頭脳でサポートしてあげるわ。よろしくね、持子」


 こうして、最強の「魔法少女の仲間たち」が勢揃いしたのである。



【セーラーマーズは超絶美少女? 巫女エージェント・風間楓の襲来】


「えへへ、なんだか本当に魔法少女のチームみたいでワクワクしてきました! でも、『セーラームーン』は誰なんですか?」


「「「持子あなたよ!!」」」


 全員から完璧なツッコミが飛んだ。


「ええっ!? 私が主人公!? じゃあじゃあ、『セーラーマーズ』は? 黒髪でクールな巫女さん!」


 ――ピタッ。部屋の空気が凍りついた。全員の脳裏に、TIAの特級エージェント・風間楓の姿が浮かんだ。


「……まあ、マーズに該当する人物はいるわね」


 雪が顔をしかめた、その時。


「――雪さん、いますか?」


 凛とした声が響き、黒スーツ姿の風間楓が入ってきた。


「……あら。持子先輩、もう起きたんですか」


 楓は淡々と声をかけたが、持子の反応は劇的だった。


「あっ……!! 綺麗な巫女さん!! 昨日写真で見た人だ! ねえねえみんな! この人が『セーラーマーズ』なんですか!?」


 楓は眉をひそめた。「セーラーマーズ? ちょっと皆さん、私をバカにしてるんですか?」


「落ち着いて、楓さん。……実は、持子は記憶喪失になってしまったの。今の彼女は純真な十六歳の記憶しかないのよ」


 楓は驚愕し、持子をじっと見つめた。


「……えへへ。楓さん、初めまして! 持子です!」


 その邪気のない笑顔に、(……可愛い、かも)と楓の胸の奥で感情がこぼれた。楓はベッドに歩み寄り、持子の顔を両手でガシッ! とホールドした。


「ひゃうっ!?」


「……動かないでください」


 楓は霊視の力を全開にして深淵を探る。一方の持子は、至近距離の美貌に顔を真っ赤にしてフリーズしていた。


「……本当に、空っぽですね。魔王の気配が欠片も残っていない」


 楓は深刻な表情で雪を見た。「事態は最悪ですよ。抑止力だった魔王が消えたと知れれば、闇の勢力が一気に牙を剥くわ」


 楓と雪は詳しい説明のために廊下へ出た。寝室に残された持子は、頬を染めてぽつりと呟いた。


「楓さん……なまら綺麗だったなぁ……」


 その瞬間、部屋の隅の下僕たちからどす黒い嫉妬のオーラが立ち昇った。


「……ギリィッ! あの泥狐! 持子様をたぶらかしおって……っ!」


 平和な魔法少女ライフの裏側で、世界はかつてない激動の時代へと突入しようとしていた。


この話で2、3日潰れた。

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