【大禍つ炉・最深部、絶望の門の前】
【大禍つ炉・最深部、絶望の門の前】
そこは、現世と冥府の境界線が曖昧に溶け合う、絶対的な死の領域であった。
『ゴゴゴゴゴゴゴゴッ……!!』
空間を埋め尽くすドス黒い漆黒の穢れが、脈打つように蠢く。
その濁泥の海から、際限なく湧き出してくるのは、かつて大陸を恐怖で震え上がらせた西涼の騎馬兵たちであった。
そして、彼らを統率する巨大な影たち。
三国志の時代において最強と謳われた鬼神・呂布を筆頭に、華雄、李傕、郭汜といった残虐極まりない猛将たちが、地鳴りのような雄叫びを上げて一斉に突撃を開始した。
「ヒャハハハハァッ! 殺せ、奪え、蹂躙しろォォォッ!!」
華雄の振り回す大柄の矛が、空気を引き裂き、鼓膜を劈くような轟音を立てて迫る。
「……ひぃっ……!」
かつてのトラウマと、自身の醜悪な過去の姿である「偽・董卓」から精神を抉られ、極黒の魔王・恋問持子は完全に戦意を喪失していた。
身長175cm、神が計算し尽くしたような黄金比のプロポーションを持つ絶世の美少女が、今はただの怯える子供のように冷たい石の床にへたり込み、両手で頭を抱えてガタガタと震えている。
「持子様には、指一本触れさせませんわァァァァッ!!」
持子を背後で庇うように立つ第一下僕の本多鮎は、163cmの身体に身の丈を超える「デュラハンの大剣」を構え、狂戦士の如き咆哮を上げて呂布の猛攻を真正面から受け止めていた。
『ガギィィィィィィンッ!!!』
方天画戟と大剣が激突し、火花と瘴気が爆発的に撒き散らされる。
「グッ……ァァッ……!」
圧倒的な武の化身である呂布の膂力。
さらに背後から押し寄せる西涼軍の波状攻撃により、鮎の足元の石畳がメキメキと砕け散り、スノーの防衛陣形は早くも崩壊の危機に瀕していた。
「……くそっ! このままじゃ、鮎先輩たちが保たない……っ!」
後方でその絶望的な戦況を見つめていた佐藤陽翔は、震える両手を強く握りしめた。
普段は過酷な稽古をサボろうとするお調子者であり、持子のおっぱいを聖杯として求める煩悩の塊である彼だが、その実、野球のピッチャーとして培った「戦場全体を俯瞰する広い視野」を持っていた。
(持子先輩は心が折れちまってる。鮎先輩は呂布のバケモノで手一杯だ。ルージュさんやアスタルテちゃんも広域防衛で動けない。……なら、俺たちが陣形を支えるしかねえ!!)
佐藤は、恐怖で震える膝を無理やり叩いて立たせると、腹の底から空気を吸い込み、戦場に響き渡る声で叫んだ。
「合気武道部、陣形を組むぞ!! 千手先輩、森先輩、門! 前衛の防御壁を作って、前進しながら騎馬兵の突撃を逸らしてくれ! 力で止めるな、全部『入り身』で流すんだ! 阿部と高橋は俺と紗良ちゃんの合図を待て!」
「了解だよっ!」
主将の千手美貴が、小柄で愛らしい童顔からは想像もつかない、体脂肪率5%以下のバキバキに鍛え抜かれた筋肉を躍動させる。
彼女の身体から、S級相当に完全覚醒した漆黒の魔力が爆発的に立ち昇った。
殺到する西涼の巨大な骸骨軍馬。
その圧倒的な質量と速度による踏みつけを、千手は水飛沫を一切上げずに相手の懐に潜り込む『見えない入り身』で躱す。
「せいやぁぁぁっ!」
そのまま馬の脚にそっと触れ、円の理を用いた『裏落とし』。
『ドゴォォォォンッ!!』
巨大な軍馬と騎兵が、為す術もなく丸ごと空を舞い、脳天から石の床へと叩き割られて黒い霧となって消滅する。
「……フッ」
千手の隣では、副主将の森盛夫が無言のまま、突進してくる敵兵の長槍を、鍛え抜かれた両腕の『十字受け』で完璧に正面から受け止めていた。
『ガシィッ!』
長身で細身でありながら鋼のように鍛え上げられた森の肉体は、微動だにしない。
受け止めた瞬間に生じる敵の「虚」を突き、日本刀のように鋭い手刀で騎兵の首をスパーンッと刎ね飛ばす。
「……これも、足腰を鍛える立派な稽古だ」
丸太のような太い腕を持つ門蒼真は、無表情で硬派な高倉健のような顔つきのまま、巨大な重装歩兵の突進を真っ向から受け流した。
アスタルテのバフを受けた彼は、相手の力を逃がして自身の動きに同化させる「円の理(合気)」を用い、巨漢の武将の重心を完全に奪って豪快に背負い投げる。
『ズドォォォォンッ!』
その瞳の奥には、「強くなれば持子先輩がご褒美におっぱいを見せてくれる」という強烈な煩悩が、侍のような恐ろしい気迫となって燃え盛っていた。
「サル、右30度、重装歩兵の重心が浮いています。左翼の騎兵は摩擦係数を無視した突撃を仕掛けてきます、注意しなさい」
前衛の三人が物理的な壁を作るその後方で、眼鏡をかけた童顔の少女、南原紗良が冷徹な声で戦況を分析し、佐藤に的確な指示を飛ばす。
彼女は物事を常に物理学的観点から分析し、相手が力を入れる前にその「虚」を突いてコカす、極めて理詰めで冷酷無比な崩しの技を得意としていた。
「サンキュー、紗良ちゃん! ここからは俺のターンだ!」
佐藤陽翔は、両手に持子と同じ『極黒の魔力』を集中させた。
彼が習得したのは、ただの破壊魔法ではない。持子直伝の、変幻自在の『闇の手』である。
「うりゃっ! 足元がお留守だぜ!」
佐藤の足元から無数の漆黒の触手が地を這い、突撃してくる西涼騎馬兵の馬の脚に絡みつく。
『ヒヒィィィンッ!?』
急ブレーキをかけられ、前のめりに転倒する騎馬たち。
さらに佐藤は、闇の手を細く鋭く伸ばし、兜の隙間から敵将の目玉を突いたり、手綱を握る手を弾いたりと、ひたすらに『敵の嫌がる嫌がらせ』を乱発した。
「今だッ! 阿部、門! 崩れたところにぶち込め!!」
佐藤の狡猾な嫌がらせによって敵陣の隊列が乱れ、決定的な「虚」が生まれた瞬間、佐藤の指揮が飛ぶ。
「はいっ!! 持子先輩の視界を遮るゴミは、私が排除します!」
身長180センチのモデル志望、阿部凛花が舞った。
元バレエダンサーである彼女の異常な体の柔らかさを活かし、彼女は自身の魔力を鋭い『見えない刃』として腕に纏わせる。
佐藤の闇の手に足をとられ、体勢を崩した巨漢の武将の横を、凛花が美しいピルエットで擦り抜ける。
川の淀みに同調するように柔らかく回転し、敵の腕や首筋にそっと手を添え――合気の理を乗せて、ただ「流す」だけ。
『ブチィィィィィィッ!!!』
「グギャアァァァッ!?」
力に逆らわず受け流すだけで、無自覚に悪魔の太い腕が根元から千切り飛ばされ、凄まじい鮮血(瘴気)が噴き出した。
「オラァッ!」
同時に、門蒼真が踏み込む。崩れた敵将の胸板に、渾身の力を込めた強烈な掌底を叩き込む。
剛と柔が融合した浸透系の打撃が敵の鎧を透過し、内部の霊的コアを粉砕した。
「……型が崩れるのは美しくありませんが、仕方ありませんね!」
プライドが高く完璧主義者の高橋玲央は、自身の魔力を美しく鋭利な『魔力の刀』へと具現化させ、前衛の網をすり抜けようとした敵兵を、無駄のない完璧な入り身投げと当身で次々と斬り伏せていく。
「そして俺は、何でもやるっすよ!!」
佐藤は、右手の中に漆黒の魔力を「塊」として凝縮させた。
元野球部のピッチャーであった美しいワインドアップのフォームから、剛速球の『魔力弾』を投げ放つ。
『ズドォォォォォンッ!!』
魔力弾は、後方で呪術の詠唱を始めていた妖術師の頭部を的確に粉砕した。
佐藤の的確な指揮、徹底的な嫌がらせ、そして合気武道部の洗練された連携により、押し寄せる西涼軍の波は局地的に食い止められていた。
***
一方、敵陣の最後尾。
乱戦の奥深くで、西涼軍の陣形をコントロールしている二人の男がいた。
董卓の最側近であった知将・李儒と、董卓暗殺の首謀者である王允の亡霊である。
「フン。小賢しい鼠どもが。ならば、重装騎兵部隊を全軍、前線に投入しろ。一網打尽にすり潰してやる」
李儒が冷酷に扇を振り下ろした、その瞬間だった。
『――持子様の敵は、私が全部殺す』
戦場の喧騒を完全に置き去りにしたような、氷のように冷たく、ヤンデレ特有の淀んだ狂気に満ちた声が、李儒の耳元で囁かれた。
「なっ――!?」
李儒が振り向くよりも早く、足元の影から小柄な少女が跳ね起きた。
花園美羽である。
彼女は風間楓から伝授された気配を完全に絶つ歩法「無足」だけでなく、風魔裏隠衆で地獄の忍術修行を積んできた成果を、今ここで解放した。
「手始めに、これでも喰らいなさい!」
美羽の手から放たれたのは、特級呪具の短刀……ではなく、ピンを引き抜かれた数発の『対霊魔術手榴弾』であった。
『ドガァァァァァァァンッッ!!!』
李儒と王允の周囲で、目も眩むような閃光と爆発が連鎖する。吹き飛ぶ騎馬兵たち。
さらに爆発と同時に、致死性の『魔力猛毒煙幕』が周囲一帯を紫色に染め上げた。
「ゲホッ……!? ゴホッ! な、なんだこれは……ッ! 毒か!?」
「クソッ、目が見えん……!」
混乱し、むせ返る李儒と王允。
彼らが騎兵を前線に出して護衛が手薄になった一瞬の隙を、美羽は絶対に見逃さなかった。
煙幕の中を、まるで重力が存在しないかのように立体的に飛び回る美羽。
彼女の両手には、忍術修行で習得した二丁の小型魔力サブマシンガンが握られていた。
『ダダダダダダダダダッ!!』
「ギャアァァァッ!」
銃口から放たれる高圧縮の聖闇魔力弾が、周囲の護衛兵たちを次々とハチの巣に変えていく。
戦場を縦横無尽に掻き回し、パニックを誘発させる。
「どこだ……! どこにいる、小娘ェッ!」
王允が剣を振り回して絶叫した瞬間、煙幕の上方から、音もなく舞い降りた影があった。
「ここですよぉ♡」
美羽は両手の銃を捨て、瞬時に『七牙の短刀』を抜刀。
万物の理である五行と「聖」「闇」の属性を合成した必殺の刃が、閃光となって煌めいた。
『七牙連斬』。
『シュバァァァァッ!!!』
李儒と王允の首が、同時に、そして一切の慈悲もなく掻き切られた。
「ガ……ッ……」
首を失った軍師たちの幻影は、絶望に目を見開いたまま、穢れの海へと崩れ落ちた。
「ふふっ。持子様を脅かすゴミは、私が残らずお掃除してあげますからね」
血の雨を浴びながら、美羽は恍惚とした笑みを浮かべてその刃の血を舐めとった。
***
「……素晴らしいですわ。ひよっこ達や泥棒猫があれほど戦況を支えてくれているのなら、わたくしたちも、出し惜しみは必要ありませんわね」
前線で荒れ狂う西涼軍の波の中で、身長185センチの絶世の金髪美女へと女体化を果たした真祖の吸血鬼、エティエンヌ・ド・ロシュフォール=ノクティスが、優雅に真紅のルージュを引いた唇を舐めた。
彼女の前には、猛将である華雄、李傕、郭汜の三人が、血走った目で立ちはだかっていた。
「ヒャハハ! 良い女じゃねえか! 俺たちがたっぷりと可愛がってやるよォ!」
華雄が下卑た笑いを浮かべ、巨大な矛をエティエンヌの脳天へと振り下ろす。
「あら、野蛮な殿方は嫌いじゃありませんけれど……」
エティエンヌは、空間を跳躍する転移魔法を操り、矛が触れる寸前でフッとその姿を掻き消した。
「なっ!?」
「――お仕置きが必要ですわね。出なさい、わたくしの愛しき半身」
華雄の後方に転移したエティエンヌが、自身の足元の影を指差した。
『ズズズズズズッ……!!』
エティエンヌの影が底なしの沼のように広がり、そこから、尋常ならざる死の気配を纏った一体の『騎士』が這い出してきた。
身長2メートルに達する筋骨隆々の美丈夫。その身には、アンドラスの骸と黒狼の呪力が編み込まれた漆黒の甲冑を纏っている。
エティエンヌが創造した「魂の半身」にして絶対守護存在。
『影騎士』である。
影騎士は、無言、無表情のまま、片膝をついて主であるエティエンヌに深々と一礼した。
彼から放たれる圧倒的なカリスマとフェロモンは、戦場にあっても異質なまでの美しさを誇っていた。
「さあ、我が騎士よ。あの下劣な男たちを、塵ひとつ残さず排除なさい」
『御意』
エティエンヌと思念を共有する影騎士は、言語を介すことなく主の意思を完璧に理解した。
影騎士の手には、対象の存在そのものを切断する概念武装『黒剣』が握られている。
「チィッ! なんだそのナメた野郎は! まとめて串刺しにしてやるゥ!」
華雄が激昂し、全霊の力で矛を突き出す。
だが、影騎士は微動だにしない。いや、動いたことすら、誰の目にも見えなかった。
無音。無駄ゼロ。
一切の感情も殺意の波動すら生じさせない、完全なる「処刑」の挙動。
『スゥッ……』
影騎士が黒剣を軽く振ったかのように見えた、次の瞬間。
「……ガ、ア……?」
突進してきた華雄の巨体が、鎧ごと、矛ごと、そして『存在の因果』ごと、綺麗に斜めに両断されてズレ落ちた。
血一滴すら流れない。斬られたという結果だけが、そこに残されていた。
「な、なんだとォ!?」
「バケモノか、テメェは!!」
驚愕した李傕と郭汜が、左右から同時に影騎士へと襲いかかる。
だが、影騎士は足元の影に溶け込む『影同化』の能力で瞬時に姿を消し、李傕の背後の影から飛び出した。
『ドシュゥゥゥッ!!』
黒剣が李傕の心臓を背後から正確に貫き、その存在を霊的コアごと消滅させる。
「クソッ、クソッ!」
郭汜が恐怖に顔を引き攣らせて逃げ出そうとするが、彼の眼前に空間跳躍で立ち塞がったのは、魔殺しの聖剣を構えたエティエンヌであった。
「どこへ行くおつもり? わたくしたちの愛の結晶は、まだ終わっていませんわよ」
『極黒・ノクティス・パニッシュメント』。
エティエンヌの聖剣と、影騎士の黒剣による十字の挟撃。
「ギャアァァァァァァッ!!!」
郭汜は、二つの絶対的な刃によって微塵に切り刻まれ、完全なる虚無へと還っていった。
「ふふっ。よくやりましたわ、我が騎士」
エティエンヌが慈愛に満ちた微笑みを向けると、影騎士は再び主の前に跪き、その忠誠を示した。
彼の中にあるのは、エティエンヌの孤独を理解し、共に持子を護り抜くという強固な『愛』だけであった。
***
合気武道部の奮闘、美羽の暗躍、そしてエティエンヌと影騎士の蹂躙により、戦況は一時的にEチームが圧倒しているように見えた。
しかし、大禍つ炉の真の恐怖は、ここからだった。
『ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ……!!!』
最深部の奥、地獄の門の隙間から、これまでとは比較にならないほど濃密で、ドス黒い『穢れの奔流』が、土石流のように雪崩れ込んできたのだ。
「きゃあっ!?」
ルージュが展開していた『血の茨の盾』が、強烈な瘴気の物理的な圧力に耐えきれずにパキパキとひび割れる。
「皆様、気を付けて! 穢れの濃度が跳ね上がりましたわ!」
アスタルテが懸命に豊穣と生命の魔法で味方を回復・強化させるが、それ以上の速度で、戦場に致命的な異変が起きていた。
「嘘だろ……っ! さっき倒したはずの騎馬兵が……!」
佐藤が絶望の声を上げた。
千手や森たちが物理的に叩き潰し、美羽が暗殺し、影騎士が両断したはずの西涼軍の残骸たちが、流れ込んだ莫大な穢れを吸収し、傷を再生させながら次々と立ち上がってきたのだ。
しかも、その体格と凶暴性は、先ほどよりも遥かに増している。
『――グオォォォォォォォォォォッ!!!』
そして、最も最悪な変化を遂げたのは、第一下僕である本多鮎と激突し続けていた最強の猛将・呂布であった。
流れ込む致死量の穢れを全身に浴びた呂布の幻影は、まるで地獄の鬼神そのもののように二回りも巨大に膨張し、その方天画戟からは空間を歪めるほどの極濃の瘴気が放たれていた。
「くぅっ……!!」
鮎が、必死に大剣を盾にするが、超絶バフのかかった呂布の人間離れした一撃を完全に殺しきることができない。
『ガギィィィィィィンッ!!!』
凄まじい金属音が鳴り響き、鮎の身体が後方へと数十メートルも大きく弾き飛ばされた。
「鮎先輩ッ!」
阿部と南原が慌てて魔力の杖から援護射撃を行うが、鬼神と化した呂布はそれを鬱陶しそうに方天画戟を振るうだけで薙ぎ払う。
「ハァッ……ハァッ……! まだですわ……! わたくしは持子様の第一下僕、究極のマゾヒストですのよ! これくらいの痛み、至上の悦びでしかありませんわァァッ!」
全身から血を流し、息も絶え絶えになりながら、鮎は強がりな笑みを浮かべ、再び極黒の魔力を振り絞って突進しようとする。
だが、その膝はすでに限界を迎え、ガクンと崩れ落ちた。
「……あ……」
呂布の冷酷な瞳が鮎を見下ろし、必殺の刃を高く、高く振りかぶる。
(……やめろ。やめてくれ……!)
後方でへたり込んでいた持子は、己を庇って満身創痍になった鮎の姿を見て、喉の奥で音のない悲鳴を上げた。
仲間たちが自分を護るために血を流し、傷ついていく。
わしのせいで。わしが不甲斐ない魔王だから。
偽・董卓の言葉が、再び脳内で冷たく響く。
『見ろ。お前の弱さと罪が、奴らを殺すのだ。お前はただ、奪い、壊すだけの存在なのだ』
(違う……わしは……わしは……!)
持子が絶望に目を閉じた、まさにその瞬間だった。
『――ズバァァァァァァァァァァァッ!!!』
最深部の暗闇を切り裂くように、漆黒の閃光が走った。
呂布が鮎へと振り下ろそうとした方天画戟が、横から叩きつけられた凄まじい質量の『何か』によって、弾き飛ばされたのだ。
「……なっ!?」
呂布の幻影が、その一撃の規格外の重さに体勢を大きく崩す。
吹き荒れる穢れの嵐の中。
鮎の前に、音もなく静かに降り立ったのは――一人の長身の男だった。
手には、対消滅エネルギーを纏う漆黒のタクティカル・ハルバード『執行者の黒曜石』が握られている。
アメリカのプロメテウス財団『エクリプス』のエージェントであり、SSSクラスの武神。
そして、持子の幼馴染である高倉竜であった。
「……立て」
竜は、背後でへたり込んでいる持子を一切振り返ることなく、ただ冷たく、しかし圧倒的な頼もしさを伴った声で告げた。
「ここは、俺が引き受ける」
単独で最前線を突破し、魔王の絶対的な危機に駆けつけた武神。
最強の亡霊・呂布と、現代の武の極致・高倉竜の視線が、激しい火花を散らして交錯する。
大禍つ炉の真の底で、絶望と狂気に満ちた戦局は、再び未知の領域へと突入しようとしていた。




